使命感に裏打ちされた教師

日本語教師のお仕事

 今から10年前の話です。とある中国人の先生が、この学校で日语系を創立しました。当時日语系に在籍していた先生はこの先生のみで、全ての授業を1人で行っていたと言います。1週間に23コマ、実に1日5コマもの超過密スケジュールでしたが、当時の学生の成績は非常に良く、N1試験を卒業するまでに皆合格できていたと言います。全てはこの先生の手腕でした。

 さて、時が経ち、次第に先生は増えていきました。すると学生の質もなぜか落ちていったと聞きます。その理由は2つほどあるようです。まずは、中国で日本語の需要が落ちていること。日本は中国ではなく、東南アジアにシフトする動きがあるので、これと同調しているのでしょう。そしてもう一つは、何を隠そう、教師の質と世間の評価。

 N1試験の合格率が下がっていくと、それはこの大学の日语系の評価に直結します。すると入学者はたちまち減る。しかし学院が学生が欲しいため、元々日本語を学びたくない学生を無理やり日语系に呼び寄せる形で人数合わせし始めました。入学当初の希望はともかくとして、現在半分の学生は日本語を本当に勉強したいと考えており、もう半分は本気ではありません。これが負の連鎖になっているというのです。

 全ての原因は教師の質です。この10年で教師がとても増えました。しかし、全ての教師が同じ考え方を持っているとは限りません。例えば「自分の授業さえやれば良いんだ」という教師が多く居れば、それは明らかな質の低下でしょう。ひいては学院自体の評価を下げ、この学院の存続問題にすら発展するかもしれないのです。

 この問題と関連し、私も一つ、大きな問題を抱えています。
 毎週決まった時間に、1年生、2年生と会話する時間を設けています。例えば、月曜日の16時~21時といった具合です。全ての学生が、平等な機会で、毎週私と会話するように半ば強制させています。ところが、学生の中には私と話したくない人もいるでしょう。そういった人たちをどうすればいいのか、私はこの先生に質問しました。

 答えは私の考えとは全く逆。

 「嫌だという人もいるけど、話したいという人も必ずいる。学生はこれから試験もあり、特別な授業も多く、毎日疲れている。もし会話するのが嫌だと思っているなら、その人と会話しないほうがいい。先生の時間も減るし、学生もそのほうが楽」

 こういう事は、やっぱり相談してみるものです。
 確かにそうかもしれません。最近学生から「先生、いつも忙しくて疲れませんか?」と質問されることが多くなりました。文面通り受け取るならありがたい配慮です。しかし、私との会話の時間にこんなことを言われると、他の意味も頭をよぎるのです。つまり、「先生が疲れているということを口実にして、私は先生と話さなくてもいい状況にしたい」という意味です。私の悪い癖で、考えすぎかもしれません。また、本当に疲れているように見えているのかもしれない。悪気は無いにしても、私を悩ますには十分な言葉です。

 というわけで、今週よりルール変更しようと思います。全員ではなく、”私と話したい人だけ”を対象とする。これが私にとっても学生にとっても良い事なんでしょう。「自分で勉強できることは自分でやらせる。一人で勉強できないことは、教師が助けてやる」と。まさにこれです。単語や文法は自分で勉強してください。分からなければ教師が必ず助けます。ところが会話は1人ではできません。その時は、唯一の日本人である私が、全ての時間を割いてまで必ず相手になります。これは今後の私の大きな方針になるでしょう。

 不安なのは同調圧力です。他の人が会話するなら、私も会話しなければいけないと思うかもしれない。心証や評価に関係すると思い我慢して来るかもしれない。それは本心ではないので、私の望むところではありません。このように、学生の本心を聞き出すのは至難の業。何か神のような一手があれば良いのですが・・・。

 もう一つ話があります。
 ここからは愚痴でもあり伝聞でもあるんですが、学生はよく私に話をします。
 「○○先生が嫌い」
 これは非常に恐ろしい言葉です。理由を聞くと、授業がつまらないと言うのです。もっと詳しく聞くと「意味のない授業」だと学生は言い切りました。一体どんな授業なのか見てみたいものですが・・・ 内容は作文だそうです。作文を1度しか書いたことがなく、しかもその訂正は学生同士で行わせた。何のための作文の授業なのか分かりませんね。

 その一方、教師が多くなったことで教師一人当たりの授業数が減っているようなのです。この問題を解決するため、特別授業という形で新たに授業が編成されています。学生に負担ばかり増加し、良くありません。私が決めることではないですが、こういった話を聞けば聞くほど、組織というのはつくづく面倒くさいものだと思います。

 長くなりましたが、この日语系を創立した先生は今でも学校に在籍しています。今日はゆっくり話す機会があり、考え方が変わるほど有意義な時間でした。考えなければならないことがたくさんあります。必要なのは教師の使命感。惰性で仕事をこなすことは許されません。学生とこの学院の未来を見据え、今私達教師はどうすべきなのかを大局的に考えなければいけないのでしょう。私は私に出来ることを精一杯やるだけです。学生が私に呼応してくれれば、それ以上求めるものはありません。やる気を出してくれたなら、私は彼らが想像する未来を実現するため、全力で手伝うことを約束してあげるだけです。





日本語教師のお仕事