日本語の音素と異音について
日本語の音素と異音について
音素
ある言語において、同じ役割を果たす音の集合のことを音素と言います。
(音素は / / で、国際音声記号(IPA)の表記は [ ] で書き表します)
例えば、日本語母語話者は[sakura]、[sakuɾa]、[θakura]、[θakuɾa]、どれを聞いても全部「桜」だと認識します。[s]と[θ]、[ɾ]と[r]は本来違う音なんですが、[θ]と[r]は標準語にない発音なので弁別できません。だから聞いた時に最も近い知ってる音に聞き取っちゃいます。英語の「thank you」を「サンキュー」とするのもこういう理由から。
つまり日本語では、[s]と[θ]は音素/s/に、[ɾ]と[r]は音素/r/に含まれるということです。もちろん[s]と[θ]を弁別する言語だったら、これらは別々の音素に分類されます。
ちなみに1歳くらいまでの子どもは、あらゆる言語の音を区別できると言われてます。もちろん[ɾ]と[r]も。でも日本語に触れる中で、[ɾ]と[r]を区別する必要がないことに気づいて、必要ないことは無視するようになります。そしてだんだん音を区別できなくなっていった結果が私たちです。
人によって、地域によって若干異なりますが、現代日本語の標準語は母音音素5個、子音音素15個、モーラ音素3個の合計23個とするのが普通です。
母音 | /a/, /i/, /u/, /e/, /o/ |
---|---|
子音 | /k/, /s/, /t/, /c/, /n/, /h/, /m/, /r/, /g/, /z/, /d/, /b/, /p/ |
半母音 | /j/, /w/ |
特殊拍 | /N/, /Q/, /R/ |
異音(自由異音と条件異音)
ある音素に含まれるそれぞれの要素を異音と呼びます。例えば、音素/s/の異音は[s]と[θ]です。異音はその言語の中で意味の弁別に関わりません。
異音はさらに現れる条件が決まっていない自由異音と、決まっている条件異音に分けられます。
例えば、「がぎぐげご」と鼻音化した「がぎぐげご」はどっちを使っても同じ意味として伝わります。規則性なくランダムに出現させることができるので、異音[g]と[ŋ]はガ行の音素/g/の自由異音です。
サ行の音素/s/には異音[s]と[ɕ]があります。サスセソの時は[s]、シの時は[ɕ]を使います。このように現れる条件が決まっているものは条件異音です。条件異音はお互いの領域を侵さず補い合って現れます。これを相補分布と言います。
※特殊拍(長音、促音、撥音)にも条件異音があります。
特殊拍の異音
長音の異音
長音は直前の音の母音によって決まる条件異音です。
直前の音の母音が「あ」なら、「あ」の口の状態を維持したまま引き延ばされます。「い」なら「い」、「う」なら「う」… です。日本語の母音は [a] [i] [ɯ] [e] [o] の5種類あるので、長音の異音も5種類です。
促音の異音
促音は後続音の音によって変化する条件異音です。
(ここでは促音はカサタパ行の前にしか来ないという原則に従って異音を整理します。)
促音に後続する音 | 後続する音の調音点と調音法 | 促音の異音 | |
---|---|---|---|
か、き、く、け、こ | 軟口蓋 | 破裂音 | 軟口蓋 で 閉鎖して 1拍稼ぐ |
さ、す、せ、そ | 歯茎 | 摩擦音 | 歯茎 で 摩擦音を出して 1拍稼ぐ |
し | 歯茎硬口蓋 | 摩擦音 | 歯茎硬口蓋 で 摩擦音を出して 1拍稼ぐ |
た、て、と | 歯茎 | 破裂音 | 歯茎 で 閉鎖して 1拍稼ぐ |
ち | 歯茎硬口蓋 | 破擦音 | 歯茎硬口蓋 で 閉鎖して 1拍稼ぐ |
つ | 歯茎 | 破擦音 | 歯茎 で 閉鎖して 1拍稼ぐ |
ぱ、ぴ、ぷ、ぺ、ぽ | 両唇 | 破裂音 | 両唇 で 閉鎖して 1拍稼ぐ |
促音は後続音を発音する準備のため、後続音の調音点と調音法の影響を受けます。
例えば「わっか」を考えてみます。「っ」の次の音は軟口蓋音「か」なので、「っ」の時にあらかじめ舌を軟口蓋にセットしておきます。そうすると軟口蓋音が連続するのでスムーズに発音できるようになります。
後続音が摩擦音か摩擦音じゃないかでも大きく違います。
カ行、タ行、パ行は破裂音や破擦音なので、これらの前に「っ」が来ると呼気を完全に止め閉鎖させて1拍となります。
サ行は摩擦音なので、これらの前にきた「っ」も摩擦音になります。(いっさい)
撥音の異音
撥音は後続音の音によって変化する条件異音です。異音の種類は次の3つに分けられます。
①後続音が無いとき、「ん」は[ɴ]有声口蓋垂鼻音で発音する。
「みかん」「本」「簡単」など、後続音のない「ん」は口蓋垂で発音します。また、「ん」だけ単独で発音したり、とてもゆっくり発音するときはこの音になります。
②母音、半母音、摩擦音(あさわはや行)が後続するときは鼻母音で発音する。
「算数」「カンフー」「信用」「神話」など、「ん」の後続音が母音、半母音(やゆよわ)、摩擦音(サ行、ハ行)の場合は、「ん」の前にある母音が鼻音化した”鼻母音”で発音します。
③その他のときは、後続音の調音点の有声鼻音で発音する。
「ん」の後続音 | 後続音の調音点 | 「ん」の発音 | 例 |
---|---|---|---|
[t][d][ts][dz][n][ɾ] | 歯茎 | 有声 歯茎 鼻音 | 仙台、管理、心臓 |
[tɕ][dʑ] | 歯茎硬口蓋 | 有声 歯茎硬口蓋 鼻音 | 方向音痴、パンチ |
[ɲ] | 硬口蓋 | 有声 硬口蓋 鼻音 | こんにゃく |
[k][g][ŋ] | 軟口蓋 | 有声 軟口蓋 鼻音 | 感覚、どんぐり |
[b][p][m] | 両唇 | 有声 両唇 鼻音 | 昆布、サンマ |
撥音の後に現れるザ行は原則[dz]と[dʑ]です。[z]と[ʑ]は現れないので上記表にはありません。また、検定試験では「に」の子音は[ɲ]とされているので、この表ではそれを反映してます。
全てに言えることですが、発音は個人によって違います。ここに示すのは一般的な規則です。
順行同化と逆行同化
長音 | 先行音によって変化する条件異音 | 順行同化 |
---|---|---|
促音 | 後続音によって変化する条件異音 | 逆行同化 |
撥音 |
直前の音(先行音)の影響を受けて変化する現象を順行同化と言います。
逆に直後の音(後続音)の影響を受けるのは逆行同化です。
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