「~てくる」と「~ていく」の違い②
「~てくる」と「~ていく」の違いについて2回に分けて紹介します。
今回はその2回目で、かなり専門的な内容ですので中級以上の方々向けです。
「~てくる」 7つの用法
(1)移動時の状態
(1) 家まで走ってくる。
(2) 天気が悪いからタクシーに乗ってきた。
(3) タイヤがパンクしたので、自転車を引っ張ってきた。
(4) 階段でゆっくり下りてきた。
移動に関する動詞に接続して、どのような動作で、どのような手段で移動が行われたかを表します。
(2)順次的動作
(5) 予約をしてきますので、ここで待っていてください。
(6) 友達に家に遊びにいってきます。
(7) 途中偶然友人に会って話してきたから遅くなった。
順次的動作の用法の時、「~てくる」は文字通り「~てから来る」という意味です。
(5)ではまず予約をしに行って、そして戻る(来る)という物事の順序を表します。
必ず意志動詞に接続して、その動作が完全に終わった後に「来る」が行われます。
(3)動作の継続(過去から現在まで)
(8) ずっと努力してきたのに、なかなか結果が出ない。
(9) 何百年も前から続いてきたこの伝統を、これからも守っていく。
(10) 大学を卒業して以来、ずっとここで仕事をしてきました。
意志動詞に接続して、その動作が過去のある時点から現在まで持続していることを表します。
必ず過去形「~てきた」の形をとります。
(4)少しずつ近づく
(11) 二人の距離は近づいてきた。
(12) ご主人様が戻ってこられました。
(13) うちの子はお腹がすくとすぐ帰ってくる。
対象が話し手へと徐々に近づくことを表します。
(11)は物理的な距離のみならず、精神的な距離としても解釈できます。
(5)状態変化の開始
(14) 高齢者人口はどんどん増えてきている。
(15) ここ数日の大雪で雪が積もってきた。
(16) 最近暑くなってきた。
無意志動詞に接続して、変化が開始したことを表します。
どんどん、だんだんなどの副詞と呼応して用いられることが多いです。
(6)出現
(17) 太陽が地平線から昇ってきた。
(18) 歯が生えてきた。
(19) 新年度になり新しい学生がやってきた。
無意志動詞に接続して、元々存在していなかった、あるいは話し手が見えていなかったものが見えるようになることを表します。
どんどん、だんだんなどの副詞と呼応して用いられることが多いです。
(7)こちらへの一方的な動作
(20) 知らない人が話しかけてきた。
(21) 猫が噛み付いてきた。
話し手、あるいは話し手が見ている人に対して一方的な動作が行われることを表します。
「~ていく」 7つの用法
(1)移動時の状態
(22) 教室まで歩いていく。
(23) 天気が悪いからバスに乗っていきましょう。
(24) タイヤがパンクしたので、自転車を引っ張っていった。
(25) 川をカヌーでゆっくり下っていく。
移動に関する動詞に接続して、どのような動作で、どのような手段で移動が行われたかを表します。
(2)順次的動作
(26) 先にこの仕事をすませていきます。
(27) 遠慮せずに泊まっていってください。
(28) とりあえずここで休憩していこう。
順次的動作の用法の時、「~ていく」は文字通り「~てから行く」という意味です。
(26)ではまず仕事を終わらせて、そして行くという物事の順序を表します。
必ず意志動詞に接続して、その動作が完全に終わった後に「行く」が行われます。
(3)動作の継続(未来へ)
(29) 以後も変わらず努力していく。
(30) 就職しても趣味のマラソンは続けていくつもりだ。
(31) これからもここで生きていく。
意志動詞に接続して、その動作がその後も将来にかけて継続することを表します。
(4)少しずつ遠ざかる
(32) 心はどんどん離れていった。
(33) アリは自らの巣に戻っていきました。
(34) 授業が終わると学生はすぐに帰っていきました。
対象が話し手から徐々に離れることを表します。
物理的な距離のみならず、(32)のように精神的な距離でも使うことができます。
(5)状態変化の進展
(35) 高齢者人口は今後もどんどん増えていく。
(36) 雪が積もっていく。
(37) これからますます寒くなっていくだろう。
無意志動詞に接続して、変化が進行していることを表します。
どんどん、だんだんなどの副詞と呼応して用いられることが多いです。
(6)消失
(38) 太陽が地平線に沈んでいった。
(39) 覚えたそばから忘れていく。
(40) 学生が卒業していくのは寂しくてたまらない。
無意志動詞に接続して、元々存在していた物事が話し手の視界から消えることを表します。
最後は完全に消えて見えなくなります。
どんどん、だんだんなどの副詞と呼応して用いられることが多いです。
(7)こちらからの一方的な動作
(41) 道行く人に次から次へと声をかけていく。
(42) 手当たり次第に聞いていこう。
話し手から、あるいは話し手が見ている人から他の対象に対して一方的な動作が行われることを表します。
動作の継続の違い
(8) ずっと努力してきたのに、なかなか結果が出ない。(過去から現在まで努力している)
(29) 以後も変わらず努力していく。(今後も努力する)
「~てくる」は過去から現在までの動作の継続・持続を表します。必ず過去形「~てきた」の形をとります。
「~ていく」は未来への動作の継続・持続を表します。
「~てくる」は近づき、「~ていく」は遠ざかる
(11) 二人の距離は近づいてきた。
(32) 心はどんどん離れていった。
「来る」は対象がこちらへ移動し、「行く」は対象がこちらから離れるという動詞が本来持っている方向性が影響して、「~てくる」は近づくこと、「~ていく」は遠ざかることを表しています。
物理的な距離のみならず、精神的な距離にも使うことができます。
「~てくる」は変化の開始、「~ていく」は変化の進展
(16) 最近暑くなってきた。
(37) これからますます寒くなっていくだろう。
「~てくる」は状態の変化が始まったときに用います。
「~ていく」は状態の変化が既に始まっていて、その変化がさらに進行することを表します。
具体的にはこのような違いがあります。
2人で散歩中、初めは静かなところを歩いていたが、突然進行方向からの騒音。
「なんだかうるさくなってきたね。」
その騒音が鳴る方へ進んでいく。
「どんどんうるさくなっていくね。」
騒音が初めて聴こえた時点 → 「うるさくなってきた」(変化の開始)
近づくにつれて音が徐々に大きくなる → 「うるさくなっていく」(変化の進展)
「~てくる」は出現、「~ていく」は消失
(17) 太陽が地平線から昇ってきた。
(38) 太陽が地平線に沈んでいった。
「~てくる」では見えなかったものが現れます。完全に見えなかったものが見えるようになります。
「~ていく」では見えていたものが消えていきます。最後は完全に見えなくなります。
(43) 彼の考えていることが分かってきた。
目で見る視覚的なもの以外にも使えます。
一方的な動作の方向の違い
(21) 猫が噛み付いてきた。
(41) 道行く人に次から次へと声をかけていく。
「~てくる」は話し手、あるいは話し手が見ている人に対して一方的な動作が行われることを表します。
「~ていく」は話し手から、あるいは話し手が見ている人から他の対象に対して一方的な動作が行われることを表します。
まとめ
「来る」と「行く」の動詞本来が持つ性質や方向性が残っている用法もありますが、持続や状態の変化ではその本来の性質が失われています。
①②④は「~て来る」「~て行く」と漢字を使い、それ以外は平仮名で表されることが多いです。
しかし漢字を使うか平仮名を使うかはあまり重要ではありませんので特に注意する必要もありません。
以上です。
ディスカッション
コメント一覧
こんにちは。日本語学習者です。
先生の記事をまとめて自分のブログに投稿してもよろしですか?
>チャンさん
コメントありがとうございます。
大丈夫です! その際はお手数ですが「毎日のんびり日本語教師」を紹介して頂けると嬉しいです。
先生、こんばんは。
聞きたいことがあるんですが。
「〜てきた」と「〜てきている」はどう違いますか?
>チャンさん
こんにちは!
「~てきた」と「~てきている」では動作の進捗度が違います。
「家まで走ってきた」は既に走り終わって家に着いていますが、「走って来ている」は今走っていてまだ家に着いていません。
これは過去形「~きた」と、現在進行形「~ている」によるものです。
「走って来ている」の来ているは英語でComingですか?
でも、来ているはComingという意味で使えないと教わりました。
その場合は、向かっていると使ったほうが正しいそうです。
>チャンさん
英語は詳しくないので分かりませんが…
自分が別の場所に移動するときに「来る」は使えませんので「走って向かっている」と言うしかありませんが、他者が自分の方へ移動する場合は「走って来ている」「走って向かっている」どちらも使えます。
先生、こんにちは!
「5.状態変化の開始」についてまだ十分理解できていません。
「てきた」は過去形で、過去ある時点に変化が開始した、現在を基準時にして、変化後の状態がまだ続いているというふうに理解しているのは間違ってますか。
先生の話によると「てきている」は現在進行形で、「今走っていてまだ家に着いていません」、でも、「増える」の場合はどう理解すればいいんですか。
>あんこさん
こんにちは、お答えします!
「増える」「走る」のような動詞は動作を表す動詞です。
動作を表す動詞をテイル形にすると、4つの意味があると言われています。
①進行中
・今走っている。
・ずっと増えている。
②結果の維持
・死んでいる
・ずっと立っている。
③結果の残存
・窓が壊れている。
・電気が消えている。
④経歴
・5年前に結婚している。
・彼は大学のときに留学している。
なので「増えている」は使い方によって4つの意味を持ちます。どの意味になるかは文の前後関係で決まります。
ご質問の「~てきている」の一つの用法に、状態の変化が開始し、今まさに事態が進行中であることを表すものがあります。
「増えてきている」は完全に進行中です。結果の持続ではありません。進行中です。
結果の持続の「増えている」は、過去に増えましたが、今はもう増えていません。「増える」という動作が過去に発生し、その状態が持続しているということです。
進行中の「増えている」は、今現在も増えています。止まっていません。
先生、返事が遅くなって、すみません。
いい勉強になりました、ありがとうございました。
先生、ちょっと聞きたいことがあります。
私はずっと日本語が好きで、
ペラペラに話せるために、
いつもドラマとか、会話を練習するためのテキストとかのセリフを、真似することにしておりますが、どれもリエルの生活で使えそうな場面はとても限られています。
どうすれば言いたいことを日本語でうまく表現出来るのですか。
やっぱり、語彙力不足と文法そのもの十分把握できてないということですか。
ちなみに、日本人とコミュニケーションする機会は全然ありません。
長文ですみません。
ご返事をお待ちしております。
>あんこさん
ドラマのセリフを真似することは無駄ではありません。しかし実際のコミュニケーションではないので覚えにくいし、真似するだけなので実は自分で言葉を産出しているわけでもありません。ペラペラになるためには自分で考えて言葉を作って話す練習をすることが重要です。そのとき語彙も文法も必要ですが、コミュニケーション能力も必要になります。
一番良いのは実際のコミュニケーションの場面で練習することです。もし近くに日本人がいれば言いたいことを表現する良い練習になります。でもそういう機会は無いということですので… 他にいくつかの方法を紹介しますね。
①ネットで日本人の友達を見つける (言語交換)
②日本語を勉強している友達を見つけて日本語で話してみる
語彙や文法を覚えていても、実際話す場面で使えないこともあります。それは語彙力不足と文法そのもの十分把握できてないわけではありません。ただ慣れていないだけです。どうにか日本語を使う環境を探してみてください。2021年になりますから、新しい挑戦をしてみるのもいいかもしれませんね!
「増えてきている」は、変化した結果の持続ということですか。
先生こんにちは!
「6月には暑くなってくる」
と「6月には暑くなっていく」
はどう違いますか?
どっちの用法かわかりません。ほとんど「〜てきた」ですが、この場合は「〜てくる」で分かれません。
>アンディさん
未来の変化について述べるなら、「6月には暑くなってくる」と「6月には暑くなっていく」は同じと考えてください。
・「てくる」は状態変化の開始、「ていく」は状態変化の進展
開始したことを言いたいのなら「てくる/てきた」を使ったほうがいいですね。
進展性を強調したいのなら「ていく/ていった」を使ったほうがいいです。
どちらを強く述べるかによって使い分けすると良いでしょう。
教えてくれてありがとうございます!!
先生、お久しぶりです。
また〜てくる・〜ていくについての質問があります。
友達が私にメールを送ったと言いたいとき、「友達がメールを送ってきた」が正しいですよね。
「てきた」をつけないで、不自然でしょうか?
因みにこれが用法(7)こちらへの一方的な動作ですよね。
逆に私が友達にメールを送ったと言いたいとき、「友達にメールを送っていった」ではなく「友達にメールを送った」が正しいですね。
>チャンさん
こんにちは! お答えします。
「友達がメールを送ってきた」の「てきた」はこちらへの一方的な動作ですので、送る対象が自分のほうだと分かります。
「友達がメールを送った」も正しいですが、これは誰に送ったか分かりません。自分のほうに送ったものなら、「友達がメールを送ってきた」「友達が私にメールを送った」と言います。
逆に自分が友達にメールを送ったときは、「友達にメールを送った」と言います。「送っていった」とは普通言いません。
先生、
ご説明ありがとうございました。
勉強になりました。
先生、こんにちは。
「てくる」について聞きたいことがあります。
「このOSが異なることで、使用できるアプリやソフトウェアが違ってくるでしょう」この文の「てくる」ってどういう意味ですか。
先生、ありがとうございます。
>カインさん
この「てくる」については状態変化だと思います。
OSが違うと、アプリやソフトウェアに違いが生じるということを表す「ている」です。
先生、ありがとうございます。