「雰囲気」を「ふいんき」と読むのは間違いとは言えない!? 音転で変わっていく言葉

 「雰囲気」の読み方について、辞書を引けば紛れもなく「ふんいき」なんだけど、中には「ふいんき」と読む人もいます。「ふいんき」と読む人はいったいどのくらいいるのか、「ふいんき」は本当に間違いなのか、そんなお話をします。

 

「ふいんき」と読むのは約1割でまだまだ少ない

 読み方として多数派の「ふんいき」を選択した人達は「ふいんき」に対して「誤読する人に対しては、漢字の読み方を知らないんだなと落胆する」「読み方結構間違えている方多いイメージ」「ふいんき読みは容認できないです」と言った強めの意見をいう人もいました。漢字を1文字1文字読めば「ふんいき」ですもんね。

 ●話し言葉に変えると、ふいんきと呼ぶ方が多いように思います。
 ●活字として読むには完全にふんいきだが、普段の話し言葉はふいんきという事もある。
 ●文章では『ふんいき』と読み、会話では『ふいんき』と言っているときもある。基本は『ふんいき』です。
 ●言葉にするときは、ふいんきと言った方が違和感がないように感じる。
 ●ふんいきと読むことは知っているが話す時はふいんきといってしまう。
 ●読み方は「ふんいき」だが、話し言葉は「ふいんき」になってしまう
 ●ふんいき だとわかっているけど、 ふいんき の方が言いやすい。日常会話で ふんいき を聞いたことがなく、誤用が多すぎる。いつか ふいんき が正式採用されそう。

 でも、「ふんいき」を選んだ人でも話し言葉では「ふいんき」になってしまうって人が意外にも多くて、実は「ふいんき」読みはもっと多い気がしています。



「ふんいき」が音転して「ふんいき」になった!

 「ふんいき」が「ふいんき」になったのには音転(音位転換)という音韻現象が関わっています。音転とは連続する2音の位置を互いに交換すること。例えば、私は子供のころに「エレベーター」を「エベレーター」って言ってました。これは音素/r/と/b/の位置が互いに交換している音転が起きていています。これと同じで「ふんいき」と「ふいんき」も/n/と/i/が交替していますから音転です。

 エレベーター(erebe-ta-) ⇔ エベレーター(ebere-ta-)
 ふんいき(huniki) ⇔ ふいんき(huinki)

 あと中国の学生が「バドミントン」を「バミトントン」って言ってたのも音転だし、子供が「おたまじゃくし」を「おじゃまたくし」と言ってたのも音転。探せば結構あります。「中臣鎌足(なかとみのかたまり)」、「シミュレーション⇔シュミレーション」「コミュニケーション⇔コミニュケーション」「とうもろこし⇔とうもころし」「エベレスト⇔エレベスト」などなど…

 

「ふいんき」は間違い?

 いろんな音転の例を上述しましたが、音転した音形、語形はどうしても「おかしい」「間違い」って感じてしまうはず。それもそうでこれまで聞いてきた音、使ってきた音と違うからその感覚は当然なんだけど。でも、日本語の歴史を見ると音転した語形がそれまでの語形を追いやって取って代わる例が見られます。

 例えば「新」という漢字の読み方。12世紀初頭、平安時代末に成立したとされる漢和辞典『類聚名義抄るいじゅみょうぎしょう』(観智院本)には「新」についてaratamu、aratasi、atarasiなどの用例があります。実は現代のatarasiという音形はもともとaratasiからの音転によるもの。
 他にも、サボテンはサンスクリット語「サンボテ」からの音転、秋葉原も「アキバハラ」からの音転、「暴れる」意の「アバルル」は「アラブル」から音転。サザンカは漢字で書くと「山茶花」となるのが証拠で、もともとは「サンサカ」あるいは「サンザカ」でした。

 「雰囲気」を「ふいんき」と読むのは、もともとは個人レベルの誤りから始まったものです。でもそれが次第に社会的に認知され、認められ、「アタラシ」のように最終的にはそれまでの語形を追いやって正規の語形としての地位を確立することもあります。「ふいんき」は現代の音転の中でも認知度が高いようですから、これから正規のものに変わっていくかもしれません。もはやただの言い間違いとは呼べない段階に来てます。




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