時間の進行方向は過去から未来? 未来から過去?

2021年9月26日日本語TIPS

 『時間の言語学』を読んでみました。
 その感想を書いていこうと思います。

 

時間は過去から未来に向かっていく?

 初対面の人やあまり親しくない人を目の前にすると沈黙を避けるためにお互い話を何とかつなげようとしますが、相槌に限界が来て沈黙が訪れた時は微妙な空気が漂います。そんな空気を「二人の間に気まずい時間が流れる」なんて言いますよね。

 この「時間が流れる」っていったいどういうことなんだろう。時間が流れるとしたら、流れる方向は?
 たぶん多くの人が過去から未来に流れていると感じてるはずです。
 しかしこの本では、言語的証拠から見ると未来から過去に流れることもあると言っています。

(1)友達がうちまでやってくる
(2)夏休みがやってくる

 「やってくる」の「くる」は動作主が話し手のいる場所に近づくことを表します。なので「友達」はうちに近づいてますし、「夏休み」も”自分のほう”に近づいています。このときまだ迎えていない未来の出来事である「夏休み」は現在に近づいて、夏休みを迎えた途端過去に去っていく。

 こうして言われてみると確かに未来から過去に時間が流れているような気もしてきてすっかり読み入ってしまいました。

 

流れているのは時間か、それとも自分か

 瀬戸先生の分析によると、「時間が流れる」というときに流れているのは時間でもあるし、自分でもあるそうです。
 川岸から川の流れを眺めているところを想像してみると分かりやすい!

(3)楽しい時間があっという間に過ぎていった
(4)苦しい時間を過ごした

 恋人と楽しいデートをして時間を忘れて遊んでいたのに、別れた瞬間にもうそれは楽しい思い出。余韻だけが残って逆に寂しさや悲しささえあるかもしれません。なんとなくその思い出は下流へ流れていく感じがしませんか。苦しい時間もそうですね。時間は動かない自分の目の前を流れていきます。
 過去を表す「以前」という語になぜ「前」という漢字が使われているのか…それは時間が向かう先(前方)が過去だから。それはこの例から説明できます。

 逆に舟にでも乗って川に出てみると… 遠くに見える河口がだんだん近づき、川の両岸にある木々がどんどん自分の後ろに過ぎていきます。目の前に見える木が未来の出来事とすれば自分が未来へ向かっていることになり、このとき時間は過去から未来に向かっています。「過去を振り返る」と言うとき、人は舟に乗って未来へ向かっているんですね。

 ちなみに中国語でも時間が流れる意味で「时间流逝」という言い方があります。ここでは「逝」という死を意味する言葉が使われています。死に逝くとはつまり過去に向かっているのかなあと思いました。

 動くものが時間か自分かで時間の流れる方向が変わるみたい。
 すごく面白い本です。

 





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