「分かる」は自動詞なのに「~を分かる」って変じゃない?
「私は彼のことをよく分かってる」みたいに、「~を分かる」を使う言い方についてどう思いますか? 学生に聞かれて1日考えてました。「分かる」は自動詞なのでヲ格を取るのはおかしいという意見もありますが、実はそれほど違和感なく聞いたり使ったりしている人もいるんじゃないでしょうか。
「分かる」の基本的な用法について
まずは「分かる」の用法から。
不明確・不明瞭だった事柄が明確になることを表します。真相、正体、本質、気持ちなどに使えます。これは「分かる」の基本的な意味です。
(1) 犯人が分かった。
(2) ピーマンとパプリカの違いが分かった。
(3) 彼の考えていることが分からない。
(4) 負けた人の気持ちがわかった。
また、知識を有していることを表すこともできます。これは能力や技能に使われます。
(5) プログラミングが分かっていることは強い武器になる。
(6) 英語が全く分からない。
そのほか、了解・了承の用法もあります。
(7) 「書類そこに置いておいて」「分かりました」
(8) 「先に行って待ってて」「分かった」
何気なく使っていますが、このくらいの分類ができそうです。
「~を分かる」が使えるのはどんなとき?
「分かる」は自動詞ですので、「分かる」の対象は原則ガ格を用います。
ただし、不明確・不明瞭だった事柄が明確になることを表すとき、そして知識を有していることを表すときはどうやらヲ格を用いることもあるようです。
(9) 君は私を分かってるね。
(10) 僕は彼女を分かっている。
(11) 君にはそれを分かって欲しい。
(12) 彼らは本作の凄さを分かってない。
(13) 私の気持ちを分かってくれない。
上の写真にもあるように小説でも「~を分かる」が使われているわけで、かなり浸透している気がします。
私も学生に聞かれるまでは自然だと思っていて、そのおかしさに気づきもしませんでした。
「分かる」は自動詞なのでヲ格は取らない。だから「~を分かる」は誤用。
これはおおむね賛成。
「~が分かる」が正しい言い方なので、ヲ格を取るのは文法的に誤用です。ただ使用実態からみると一概に誤用とは言えないでしょう。
原義が「理解する」に近いからヲ格を取るようになった?
じゃあなぜ「~を分かる」が使われるようになったんでしょう。
(14) 君は私を理解してるね。
(15) 僕は彼女を理解している。
(16) 君にはそれを理解して欲しい。
(17) 彼らは本作の凄さを理解してない。
(18) 私の気持ちを理解してくれない。
「分かる」と「理解する」の語義は非常に近く、少なくともここで挙げた例文は全て言い換えることができました。
「理解する」は他動詞でヲ格を取ります。この動詞部分だけが意味を同じにする「分かる」に置き換えられ、そしてヲ格だけを残し、「~を分かる」と言われるようになったのではないかと推測してます。話し言葉では漢語動詞よりも和語動詞の使用頻度が高いので「分かる」に置き換えられる点は納得できますが、このあたりは私の単なる仮説なので素直に信用されないでください。
これはいわゆる日本語の揺れなんでしょうか。
学習者に聞かれたら現状このように答えるしかなさそうです。
文法から見ると「~を分かる」は誤用。ただし使用実態からするとOK。
何にも解決してないですが、「分かる」はこういう特殊な動詞であることを知れただけでも良かったです。
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