令和元年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅲ 問題13解説

問1 共同発話

 話者同士で1つのまとまりを持つ発話を作り上げるような話し方のことを共同発話と言い、先取り発話と割り込み発話に分けられます。

先取り発話 「A:あの人 → B:すごいイケメンだったね。」のように、話し手の言おうとしていることを聞き手が先取って話し、一緒に発話を作り上げること。
割り込み発話 「A:あの人 → B:うん、我慢できない。 → A:本当に臭うね。」のように、話し手の発話の中に聞き手が割り込むこと。

 言い終わる前に相手の言いたいことが正確に分からないと共同発話は難しいですが、日本語母語話者の間ではよく起きます。なぜなら日本語は表情、ジェスチャー、態度、アイコンタクト、状況などの非言語的な情報に敏感な高コンテクストコミュニケーションの特徴を持っているからです。

 1 返事として変じゃないですか?
 2 相手の発話を先取りして「嫌ですよね。」と言ってます。
 3 聞き返してるので共同発話ではありません。
 4 相槌です。

 したがって答えは2です。

 

問2 繰り返し

 共同発話の繰り返しとは、以下のようなものを表します。

A:今日は寒いね
B:そうだね、寒いね

 選択肢1
 結束性とは、文と文の間に文法的・語彙的な結びつきがあることです。「庭に少年がいる。彼は何かを探しているようだ。」の文では、少年と彼は同じ人物を指しています。つまり1文目と2文目には指示詞による結びつきがあるので結束性が高まり、正しく理解することができるようになっています。
 繰り返された表現は2つの発話の結束性を高めることができますが、繰り返しているだけに強調することもできます。

 選択肢2
 上記の「寒いね」のように相槌の代わりにもなりますし、相手の会話内容の確認にもなります。

 選択肢3
 繰り返しは会話の継続を促すことができます。

 選択肢4
 正しいです。繰り返しによって相手に対する共感を示せますが、繰り返しているだけなので新情報を提示することはできません。

 したがって答えは4です。



問3 形式上は問題はなくても聞き手に違和感を与える表現

 選択肢3は聞き手に違和感を与える表現です。
 同意を求める「~じゃないですか」は、自分のことをよく知っている人に対して用いる表現です。「私ってそうですよね?」みたいなニュアンスがありますので、初対面の人に使うと不自然です。
 したがって答えは3です。

 

問4 ダイバージェンス

 アコモデーション理論とは、ジャイルズ (Giles)によって提唱された、相手によって自分の話し方を変える現象を説明するための理論です。相手の言語能力によって話し方を変えるフォリナートーク、赤ちゃんに対する話し方のベビートーク、世代間のギャップを無くそうとわざと若者言葉を使って年下の人々に受け入れられようとすることもアコモデーション理論で説明できます。その性質からダイバージェンスとコンバージェンスに分けられます。

言語的収束
コンバージェンス
自分の話し方を相手の話し方にできるだけ近付けていくこと。上司が部下に受け入れられるために若者言葉を使ったりすることなどがこれにあたる。
言語的分岐
ダイバージェンス
自分の話し方を相手の話し方からできるだけ離していくこと。関西圏でも共通語を使おうとすることなどがこれにあたる。

 例えば、母語話者が非母語話者に対して用いるフォリナートークは、相手が分かりやすいようにゆっくり話したり、難しい語彙や表現が回避されたり、はっきり発音されたりする特徴があります。これは相手の話し方にできるだけ近づようとする(コンバージェンス)ために生じた話し方の変化と考えます。

 1 子どもの話し方に合わせているので、コンバージェンスです。
 2 上京しても故郷の言葉を使っているので、周囲の人の話し方に近づけようとはしていません。ダイバージェンスです。
 3 若者に受け入れてもらうために若者言葉を使っているので、コンバージェンスです。
 4 他の学生の言い方に近づけて自分の言い方を変えているので、コンバージェンスです。

 したがって答えは2です。

 

問5 会話の指導

 1 逆だと思います。母語話者の方が当然相槌が多いはずです。
 2 独自の創作したものも教科書のモデル会話も扱った方がいいです。ただし教科書のモデル会話を忠実に再現する必要はありません。
 3 発音や文法は正確にできるに越したことはないですが、会話では文法などよりもコミュニケーション能力や意思疎通のほうが重視されます。完璧を目指す必要はありません。また、日本人らしく話させる必要もありません。そういう強要はよくないです。
 4 正しいです。こういう行動ができれば成長していくんでしょうけど、教師が学習者にこれらを分析させ、意識させるのがどれほど難しいことか…

 したがって答えは4です。

 




2023年8月26日令和元年度, 日本語教育能力検定試験