令和元年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅲ 問題3解説

 この問題は過去問の傾向から見るとかなり特別なものとなっています。簡単に説明します。
 新試験になった平成23年から30年度までは、副詞と言えば様態副詞、程度副詞、陳述副詞の3つ。この分類は副詞の意味的な分類で、この問題の文章中冒頭にも「意味的」と書かれています。今まではこの3つを覚えておけば副詞の問題は全て完璧に解ける状態でした。

様態副詞
情態副詞
動詞を修飾し、その動作がどのように起こったかを表すもの。擬態語、擬音語、擬声語、一部の畳語もこれに含まれる。そのうち、動きの量や人の量などを表す副詞を量副詞と分類することもある。
陳述副詞 述語の陳述に呼応して用いられるもの。また、話し手の伝達的態度や事態に対する認識、評価を表すもの。必ず、もし、たとえ、たぶん、なぜ…
程度副詞 形容詞などの状態性の語を修飾してその程度を表すもの。たいへん、とても、すごく…

 しかしこの問題では「形態論的」な副詞の分類、つまり副詞を統語構造、構文、語順に着目して分類したものを出題しています。過去問には一度も出なかったものです。
 この分類は仁田義雄の『副詞的表現の諸相』に詳しく書かれていまして、おそらくこの本から出題しているのではないかと思っています。

 この形態論的・構文論的視点による副詞の分類は大きく以下の5つに分けられます。ここでは簡単に触れるだけで、詳しくは書籍をご参考ください。

結果の副詞 動きの結果の局面を取り上げ、動きが実現した結果の、主体や対象の状態のありように言及することによって、事態の実現のされ方を限定するもの。 “どろどろに”溶けた。
“黒く”焦げた。
様態の副詞 動き様態の副詞 動きの展開過程の局面を取り上げるもの。 “ゆっくり”話す。
肩を”強く”叩いた。
主体状態の副詞 動きの展開・実現と共に現れる主体の状態を表すもの。 “わざと”負けてあげた。
“喜んで”うなづいた。
程度量の副詞 程度の副詞 事態に存在する程度性に対して、その度合いに言及するもの。 “少し”汚い。
“とても”疲れている。
量の副詞 主体や対象の数量を限定するもの。 “たくさん”話した。
“いっぱい”飲んだ。
時間関係の副詞 時間の中での事態の出現や存在や展開のありよう、事態の内的な時間的特性に言及するもの。 “毎日”お風呂に入る。
“しばらく”見ていた。
頻度の副詞 頻度の副詞 事態の外側から事態生起の回数的あり方を語りつつ、その回数を具体的に語っていないもの。 “たまに”驚かされる。
“ときどき”外食する。
度数の副詞 事態の外側から事態生起の回数の全体量や絶対量を語っているもの。 “2度”失敗した。
“何度も”説明した。

 はじめて出題されているということもあって文章中にいろいろヒントがあり、上の表を知らなくても一応解けるようになっています。この問題を皮切りに、来年度以降出題されてくるかもしれませんので要警戒です。

 

問1 様態副詞

 「事態の開始とともに発生し、修了とともに消えるさまを表す」様態副詞を選ぶ問題です。

 選択肢1
 びしょびしょに濡れた後も、びしょびしょという状態が継続しています。
 これは雨が降ったり、水をかけられたりした結果「びしょびしょ」という状態になったので、形態論的副詞分類では結果の副詞に分類されます。意味的副詞分類だと様態副詞です。

 選択肢2
 からからに渇いた後も、からからという状態が継続しています。
 長い間水を飲まなかった結果「からから」という状態になったので、形態論的副詞分類では結果の副詞、意味的副詞分類だと様態副詞です。

 選択肢3
 まるまると太った後も、まるまるという状態が継続しています。
 たくさん食べた結果「まるまる」という状態になったので、形態論的副詞分類では結果の副詞、意味的副詞分類だと様態副詞です。

 選択肢4
 ちらちらと舞い終わると共にその状態は終了しています。
 これは形態論的副詞分類では動きの展開過程の局面を取り上げる「動き様態の副詞」に分類されます。「舞う」という動作の過程がどのようであるかを説明するのが「ちらちら」です。
 意味的副詞分類だと様態副詞です。

 つまり、下線部Aの「事態の開始とともに発生し、終了と共に消えるさまを表す」副詞とは、上記の表の「動き様態の副詞」を指しているものと思われます。
 したがって答えは4です。

 

問2 漸次的な変化を表す動詞

 問題文によると、程度副詞は感情・感覚を表す動詞と漸次的な変化を表す動詞に結びつくそうです。

 ためしに各選択肢に程度副詞を接続してみます。

 1 ◯とても喜ぶ(程度副詞+感情・感覚を表す動詞)
 2 ✕とても眠る
 3 ✕とても生まれる
 4 ◯とても痩せる(程度副詞+漸次的な変化を表す動詞)

 選択肢1と4が程度副詞に接続できますが、1は感情・感覚を表す動詞であり、漸次的な変化を表す動詞ではありません。
 したがって答えは4です。

 

問3 程度副詞が様態副詞と共起する例

 ここでも形態論的副詞分類で解いてみます。

 選択肢1
 「どうか」は主体の状態を表すものなので、様態副詞の主体状態の副詞です。
 「ゆっくり」は動きの展開過程の局面を取り上げる、様態副詞の動き様態の副詞です。

 選択肢2
 この「かなり」は「きっぱりと断る」に係ってその程度を限定しているので程度の副詞です。
 「きっぱりと」は「断る」ときの展開過程の局面を取り上げているので様態の副詞の動き様態の副詞です。

 選択肢3
 「けっこう」は「すぐに決まる」に係ってその程度を限定しているので程度の副詞です。
 「すぐに」は「決まる」の時間的側面に言及しているので時間関係の副詞です。

 選択肢4
 「だんだん」は増える過程がどのような様子であるかを表しているので様態の副詞の動き様態の副詞です。
 「ぽかぽか」は日が昇って気温が上がった結果「ぽかぽか」という状態になっているので、結果の副詞です。

 したがって答えは2です。

 

問4 他の品詞から転成した副詞

 選択肢1
 「図る」には「真意を図る」のように、予測する、推し量るという意味があります。否定形「図らず」に「も」がついて「図らずも」となり、もともとの意味を引き継いで「予想していなかったさま」を表しています。

 選択肢2
 「さん然」は「燦然と輝く」のように、動詞を修飾してどの動作がどのように起こったかを表す様態副詞(動き様態の副詞)です。また、「燦然たる光」のような言い方もできますので、(文語の)ナ形容詞にも分類できます。(この「たる」は「たり」の連体形)

基本形 未然形 連用形 終止形 連体形 已然形 命令形
たり たら たり たり たる たれ たれ

 様態副詞はオノマトペも含まれ、オノマトペは「キラキラ光る」「ぐっすりと寝ている」のように、間に「と」がつく場合もあります。この「と」が「燦然と輝く」の「と」と同じものです。
 選択肢にある「並列の『と』」とは、「私と彼は学生です」の「と」のことで、これは格助詞です。「さん然と」の「と」は格助詞ではありませんし、もちろん並列を表しているわけでもありません。よってこの選択肢は間違いです。

 選択肢3
 「ある」の連用形は「あり/あっ」です。「あれ」ではありません。

基本形 未然形 連用形 終止形 連体形 已然形 命令形
ある あら
あろ
あり
あっ
ある ある あれ あれ

 選択肢4
 「たやすく」は「たやすい」の活用形です。

 したがって答えは1です。
 コメントでのご協力ありがとうございました!

 

問5 「急遽」

 選択肢1
 「急遽デートが決まった」や「急遽出張に行かなければならなくなった」のように、「急遽」はプラスでもマイナスでも使うことができます。

 選択肢2
 「急遽」は話し言葉でも用いることができます。

 選択肢3
 正しいです。急遽は”予定外の事態や突然の出来事にただちに対処する”ことを表しますので、突然雨が降った場合に使うことはできません。

 選択肢4
 「急遽」は漸次的ではなく、突発的、急激に事態が変化することを表します。

 したがって答えは3です。





2020年10月5日令和元年度, 日本語教育能力検定試験 解説