令和元年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ 問題5解説

問1 技能シラバス

 シラバスデザインでは、ニーズ分析、レディネス分析の結果に基づき、そのコースで学習者に何をどう教えるのか(シラバス)を検討します。 そのシラバスとは教師が学生に示す講義・授業の授業計画のことで、以下のいくつかに分類されます。

構造シラバス 言語の構造や文型に焦点を当てて構成されたシラバス。オーディオリンガルアプローチやサイレントウェイで用いられる。
機能シラバス 依頼する、慰める、同意する、拒否する、提案するなどの言語の持つ機能に焦点を当てて構成されたシラバス。
場面シラバス 「レストランで注文する」や「スーパーで買い物をする」などの使用場面に焦点を当てて構成されたシラバス。
トピックシラバス
話題シラバス
ニーズ分析などを踏まえ、学習者の興味がある内容や実社会で話題になっている話題を中心に構成されたシラバス。
スキルシラバス
技能シラバス
言語の四技能(読/書/話/聞)の中から、学習者に必要な技能に焦点を当てて構成されたシラバス。
タスクシラバス
課題シラバス
言語を使って何らかの目的を遂行することに焦点を当てて構成されたシラバス。ロールプレイなどがこれにあたる。
概念・機能シラバス 機能シラバスと実際のコミュニケーションの場面を組み合わせて構成されたシラバス。依頼する、慰める、同意する、拒否する、提案するなどの言語の持つ機能を用い、実際にコミュニケーションが行われる場面で目標を達成するような活動を進めていく。コミュニカティブ・アプローチで行われるゲームやロールプレイ、シミュレーション、プロジェクトワークなどのこと。

 1 四技能に関係する教材で技能シラバスです。話すのは無いですが、読んだり、書いたり、聞いたりしています。
 2 場面シラバスです。ある場面でのやり取りに焦点が当てられています。
 3 機能シラバスです。
 4 トピックシラバス、話題シラバスです。

 したがって答えは1です。

 

問2 時世の影響を受けにくい要素

 1 読み物のトピック
 読み物のトピックをニュースの記事などで想定すると、この中で最も時世の影響を受けやすいと思われます。特に政治・経済に関するトピックはたった1日でも変わり得ます。

 2 会話の場面
 会話の場面というのは抽象的な表現ですね…。挨拶の場面なんかはほとんど変わらないものですが、数年単位で変わっているものもある気がします。
 例えば、スマホがまだ普及していない頃に作られたであろう教科書を見ると、「機種変更してみよう」というタイトルでショップの窓口のモデル会話をまとめているものもあります。その中では「写メ機能付きのものはいかがでしょうか」など今では使わないやりとりも含まれています。それ以外にも、現代ではキャッシュレス決済が普及して「paypyaで」なんていうこともありますが、このようなレジでのやり取りは時代と共に変わっていってます。
 会話の場面は文法よりも短いスパン、およそ数年単位で変化しているので、この中では3番目に時世の影響を受けやすいです。

 3 文法
 ら抜き言葉や「全然~肯定表現」など十数年から数十年単位で変化しています。この中では最も時世の影響を受けにくい要素です。

 4 語彙
 毎年多くの新語、流行語が生まれたりしますので、この中では読み物のトピックに次いで2番目に時世の影響を受けやすいです。

 したがって答えは3です。



問3 初級のモデル会話

 1 初級のモデル会話なので、初級のレベルを意識すべきです。
 2 正しいです。「◯◯が欲しいです」のように、一部言い換えるだけで使える表現は初級で重宝されます。
 3 レベルが合わない部分や冗長な部分は、レベルに合わせて調整すべきです。
 4 モデル会話における話の内容や展開は不自然であってはいけません。未習のものも多少含めるくらいならいいです。文脈から意味を推測できたりしますので。

 したがって答えは2です。

 

問4 中級の聴解教材

 選択肢1
 その通りです。教師自ら教案を作るときって、語彙、例文、テーマは実は教師自身の趣味趣向がすごく影響してます。私なんか例文作ってと言われたら、まずマラソン、釣り、陶芸とかしか思いつかなくて困ってます…。こういう偏りはよくないですね。できるだけ客観的に、広い範囲から語彙、テーマを選ぶようにしたいです。

 選択肢2
 その通りです。未習の語や表現を少し入れたりし、前後の文脈からその意味を推測させるような作りにすると聞き取りのスキルを高められます。

 選択肢3
 当然のこと言ってます。この一貫性とは、文が因果関係や照応関係で結びついていて、全体を通して言いたいことが一つにまとまっているかどうかを表します。聴解問題の中で突然テーマが変わったりとかありえません。

 選択肢4
 モダリティとは、命題に対する認識や判断を表す表現や聞き手に対する表現のことを指します。たとえば「たぶん」「かもしれない」「はずだ」「だろう」などは主観的な判断が含まれている表現なのでモダリティ表現です。終助詞の「~ね」「~よ」「~な」なども聞き手に対する表現なのでモダリティ表現です。
 こういうのは中級でこそ必要な表現です。中級からは正確に聞き取ることに加えて推測するような力も養いたいので、モダリティ表現を回避する理由はありません。

 したがって答えは4です。

 

問5 真正性

 ここでいう生教材の真正性とは…
 その生教材の実際の使い方で教室でも使われているかどうかの度合いのことです。また陶芸の話しますけど、例えば教室に「ろくろ」を持っていったとします。一応ろくろも生教材です。
 これがろくろなんだよー 陶芸のときに使うんですよー って言っても、まあせっかくろくろ持ってきたんだから使わせたほうが効果的です。実際に使わなければ真正性は低いです。逆に日本語の新聞、雑誌、単行本などは学生に配って読んでみてっていうことができます。現実場面でも読む、教室場面でも読む。こういう使い方は真正性高めです。

 選択肢1
 スーパーのちらしは現実場面では「今日何か安いものないかな」「値段いくらかな」「特売いつ?」みたいなことが気になって読むものです。ここでは文字種の使い分けに着目させてるので、実際の使い方とは別の使い方をしていて、真正性は低いです。

 選択肢2
 菓子類の食品表示は、カロリー、賞味期限、消費期限、アレルギー、栄養、注意などを見るためのものです。教室でもそれを確認させるのは生教材の真正性が保たれてます!

 選択肢3
 駅のアナウンスは乗客に対する案内のためなので、それを聞いて敬語表現に着目させるってのは現実場面とリンクしてません。真正性が低いです。

 選択肢4
 折り紙の本があるんだから、それ見て実際の折り紙させたほうがいいでしょ。手順を読ませてその表現や文型に着目させるってのはもう… 授業のセンス0です。

 したがって答えは2です。

 




2022年9月23日令和元年度, 日本語教育能力検定試験