平成24年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅲ 問題9解説

問1 ナチュラル・アプローチ

 ナチュラル・アプローチ
 1980年代初頭に注目され、テレル(T.Terrell)によって提唱された教授法。幼児の母語習得過程を参考にした聴解優先の教授法。クラッシェン(S.D.Krashen)のモニターモデルの緊張や不安のない状態で大量に理解できるインプットを与えれば言語習得が促進されるという仮説に基づき開発された。

 学習者が自然に話し出すまでは発話を強制せず、誤りがあっても不安を抱かせないために直接訂正しないなどの特徴がある。この点はコンプリヘンション・アプローチの考え方を引き継ぐ。発話が行われるまでの間は聴解練習のみ行われ、発話は強制されない。その間、教師の発話や動作、絵などから言語習得を進めていく。

 
 選択肢1
 正しいです。緊張や不安で発話できない学習者はそのままにしておいて、自然に発話するまでは聴解練習をやっていきます。

 選択肢2
 正しいです。ナチュラル・アプローチは意味を重視したフォーカス・オン・ミーニングの教授法です。オーディオリンガル・メソッドなどのそれまでのフォーカス・オン・フォームズの教授法は言語形式の習得には役立ちましたが、意味の習得にはあまり役立たず、コミュニケーション能力に問題が出てました。そこから意味の習得を重視したフォーカス・オン・ミーニングの教授法であるナチュラル・アプローチやコミュニカティブ・アプローチが出現しています。

 選択肢3
 正しいです。クラッシェンのモニターモデル(の情意フィルター仮説)を理論的基盤として、学習者の情意面に配慮した教え方をとります。

 選択肢4
 間違いです。「奨励」はされてません。

 したがって答えは4です。

 外国語教授法についてはすごく煩雑なのでこちらに詳しくまとめています!
 参考:外国語教授法の変遷についてまとめ!

 

問2 インターアクション仮説

 明確化要求とか確認チェックといえば、ロングのインターアクション仮説です。
 インターアクション仮説は第二言語習得に関する仮説で、学習者が目標言語を使って母語話者とやり取り(インターアクション)する場面で生じる意味交渉が言語習得をより促進させるという仮説です。意味交渉はインターアクションの中で生じる意思疎通の問題を取り除くために使われるストラテジーで、以下の3つに分けられます。

明確化要求 相手の発話が不明確で理解できないときに、明確にするよう求めること。
確認チェック 相手の発話を自分が正しく理解しているかどうか確認すること。
理解チェック 自分の発話を相手が正しく理解しているかどうか確認すること。

 「3人います」の3人が誰と誰と誰なのか明確でなかったので、それについてはっきりさせるために聞き返しています。インターアクション仮説の明確化要求です。
 したがって答えは1です。

 ちなみに明示的フィードバックは相手の間違いを直接訂正することですが、Yさんは別に何か誤用をしたわけではありません。肯定的フィードバックは相手の発話を褒めたりすることですが、褒めてないのでこれも違います。

 参考:第二言語習得理論についてまとめ!

 

問3 IRF/IRE型

 教師による発話(Initiation)→学習者の応答(Response)→評価/フィードバック(Evaluation/Feedback)は教室でよく見られる談話形式で、これを教室談話と呼んだり、IRE/IRF型、あるいはIRF/IRE型とも呼んだりします。

 教  師 : Aさんの趣味は何ですか?
 学習者A : 趣味はマラソンします。
 教  師 : 違います。「趣味はマラソンです」ですよ。

 各選択肢がIRF/IRE型かどうか見ていきます。

 1 教師による発話 ⇒ 学習者の応答+学習者の質問 ⇒ 別の学習者の応答
 2 教師による発話 ⇒ 学習者の応答+聞き返し ⇒ 教師の応答
 3 教師による発話 ⇒ 学習者の応答 ⇒ 学習者の質問
 4 教師による発話 ⇒ 学習者の応答 ⇒ フィードバック

 選択肢1~3はIRE/IRF型ではありません。でもこういう談話も教室では起こり得ます。
 IRE/IRF型はあくまで教室で最も起きやすい談話形式ですよーと言っているだけで、実際は他の形式も現れます。
 したがって答えは4です。

 

問4 ペア・ワークやグループ・ワーク

 「教師と学習者の教室談話」は問3で述べたIRE/IRF型のことです。教師による発話 (Initiation)、学習者の応答(Response)、評価/フィードバック(Evaluation/Feedback)の順ですね! よく出題されるので覚えてください。
 一方ペアワーク、グループワークは学習者同士の会話ですので、IRE/IRF型ではありません。

 この2つを比較したときのペア・ワークやグループ・ワークの特徴を考えます。

 選択肢1
 提示質問というのは質問者が答えを知りながら尋ねる質問形式のことです。これは教室談話で多い質問形式です。なぜなら教案は先生が準備してるから。
 ペアワークやグループワークでは一緒になってタスクを達成しようとします。質問があるとしたら答えを知らないで尋ねる指示質問が多く生じやすいです。

 選択肢2
 学習者の誤用は教師によって行われることが多いため、教師と学習者の教室談話でよく現れます。一方、ペア・ワークやグループ・ワークにおける談話ではあまり現れません。学習者同士で訂正するのってそんなに多くないですよね。

 選択肢3
 意味交渉というのは、相手の言ってることが分からないときにもう一度聞いたり、自分の理解が正しいかどうか相手に確認したり、相手が正しく理解しているかどうか確認したりすることです。問2に書いてます表の3つがそれです。
 教師と学習者の教室談話では意味交渉はあまり生じません。なぜなら提示質問(答えを知りながら尋ねる質問)が多いからです。一方、ペア・ワークやグループ・ワークにおける談話では学習者間のコミュニケーションが盛んになりますので、意味交渉も多くなります。

 選択肢4
 強要アウトプット、強制アウトプットとは、発話に誤りがあり、相手から明確化要求などの否定的フィードバックを受けることで、相手に分かるように自分の発話を修正することです。
 教師と学習者の教室談話では学習者が否定的フィードバックを受けやすいので強要アウトプットも多くなります。ペア・ワークやグループ・ワークも強要アウトプットはあると思いますが、やはり教室談話よりは少ないでしょう。

 したがって答えは3です。

 

問5 気づき(noticing)の機能

 文章中でも示されているように、ここで挙げられている「気づきの機能」はアウトプット仮説と関係しています。

 アウトプット仮説
 スウェイン (M.Swain)によって提唱された第二言語習得に関する仮説。クラッシェンが提唱したインプット仮説の「理解可能なインプット(i+1)」は必要だが、それだけでは十分ではないとし、相手が理解可能なアウトプットをすることでさらに言語習得が促されるとする仮説。相手が理解可能なアウトプットを行うことは3つの機能を担うとされている。

1.気づきの機能 アウトプットの場面で自分が言いたいことと言えないことの差に気づくことが新しい知識を得ようとするきっかけになり、言語習得が促進される。
2.仮説検証の機能 アウトプットによって自らの中間言語が正しいかどうか仮説検証する機会を得られる。
3.メタ言語的機能 アウトプット時に自らの言語使用に関する意識的な内省が生じ、それが習得に繋がる。

 選択肢3のアウトプットによって「自分が言いたいことと言えることとの違い」に気づいて、それがきっかけで勉強しようという気持ちになり言語習得に繋がる。これが相手が理解可能なアウトプットを行うことによって得られる一つの効果です。
 したがって答えは3です。

 参考:第二言語習得理論についてまとめ! 





2020年10月1日平成24年度, 日本語教育能力検定試験 解説