平成24年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ 問題8解説

問1 習得順序研究と発達順序研究

 2つの研究が出てきたので簡単に整理。

 習得順序研究 … 複数の文法項目がどの順序で習得されるかを研究
 発達順序研究 … ある文法項目が完全習得に至るまでの順序を研究

 選択肢1
 学習者の理解に着目するのは発達順序研究です。ある機能を習得しているかどうかを見るには学習者の理解に着目しないといけません。
 学習者の産出に着目するのは習得順序研究です。習得の順序を見るには、産出した順序を見ればいいからです。

 選択肢2
 習得順序研究も発達順序研究も縦断的に研究されます。縦断的な研究とは、過去から現在にかけて時系列で研究するものです。
 どの順序で習得するか調べるのは過去から現在にかけて調べないといけませんし、完全習得に至るまでの順序も時系列での研究が必要です。

 選択肢3
 習得順序研究では学習者の正用率を見ます。正用率が高ければそれは習得したと考えられるからです。そして正用率が高い順に習得順序が決まります。
 発達順序研究では学習者の誤用率を見ます。誤用率が高ければ完全習得したとは言えませんし、誤用0なら完全習得したと言えます。この点から順序を決めます。

 選択肢4
 正しいです!
 習得順序は複数の文法項目の習得順序を調べるので、研究対象は複数の文法項目です。
 発達順序研究はある特定の文法項目が完全習得するに至るまでを調べるので、研究対象はその特定の文法項目だけです。

 したがって答えは4です。

 

問2 U字型発達曲線

 上の画像のような曲線をU字型発達曲線と呼びます。
 言語習得は一直線に進むのではなくU字型曲線を描きます。一度産出できるようになってから誤用産出の段階に戻り、再び正用を産出できるようになる言語習得の過程を表しています。下線部B自体はこの曲線のことを言ってます!

 そして下線部Bの「また誤用を産出する段階に戻り」が逆行(バックスライディング)の記述です。逆行は一度修正された誤用が再び現れることで、同じことを言ってますね。

 また、第二言語学習過程における発展途上にある言語体系のことを中間言語と呼ぶんですが… 外国語を勉強していくと、自分の中にある中間言語がどんどん成長していって目標言語に近づいていく、そんなイメージです。中間言語は常に変化しています。そしてこの変化する性質を可変性と言います。U字型発達曲線は中間言語の可変性とも捉えられますので、関連した用語です。

 最後に選択肢2の定着化ですが… これは間違いのない言語使用ができるようになることです。
 U字型発達曲線の右側では正用率がどんどん高くなっていきますが、定着化はそれよりもさらに右側の話。曲線の中にはありません。

 したがって選択肢2だけ、下線部Bとは関連してなさそうです。
 答えは2です。

 

問3 転移

 転移とは、学習言語の学習過程において、母語の規則を学習言語に適用することです。母語と学習言語との間に何らかの共通点があり、それが学習を促進させる場合の転移を正の転移、逆に母語と学習言語との間の差異が著しく、学習言語の習得を妨げる場合の転移を負の転移と呼びます。

 選択肢1
 正しいです。中国語には漢字があるので、当然漢字の意味は理解しやすいです。(正の転移)

 選択肢2
 正しいです。韓国語にも助詞があるので、格助詞の意味は理解しやすいです。(正の転移)

 選択肢3
 間違いです。中国語と韓国語では気音の有無(有気音と無気音)によって意味が区別されますが、日本語では声帯振動の有無(有声音と無声音)によって意味が区別されます。そのため中国語・韓国語母語話者は有声音と無声音を区別しにくいです。(負の転移)

 選択肢4
 正しいです。少なくとも中国語には長音という概念がないので、中国人日本語学習者は最初のうち長音が苦手な人もいます。長音があるのに伸ばさなかったり…。これは負の転移です。

 したがって答えは3です。

 

問4 有標性

 ここでは「有標」「無標」という言葉が出てきてますが、これはエックマンの有標性差異仮説と関係ある感じがします。
 これは、母語と第二言語との間に言語的な特殊な違いがある場合は習得困難となり、単純で一般的なものである場合は習得しやすいとする仮説です。そして特殊なルールを持つより複雑なものを有標、一般的で単純なルールを持つものを無標と呼んでいます。

 私は難しそうなほうは有標、簡単なほうは無標、みたいな覚え方をしてます。これが正しいかどうかは何とも言えませんが、そう考えるとこの問題は意外とすんなり解けます。

 選択肢1
 単数形と複数形を比較したとき、簡単なほうは単数形、難しいほうは複数形です。
 だから単数形は無標、複数形は有標です。逆です。

 選択肢2
 肯定文のほうが簡単そうなので無標、否定文は有標。合ってます。

 選択肢3
 規則動詞は簡単なほうなので無標、不規則動詞は難しいので有標。逆です。

 選択肢4
 関係節と関係節化について説明します!

私はタオルで体を拭いた。
 1.タオルで体を拭いた
 2.私が体を拭いたタオル
 3.私がタオルで拭いた

 まず項と付加詞に着目します。動詞「拭く」は「~が~を拭く」なので二項動詞。その二項は「私」と「体」です。「タオル」は絶対必要な要素じゃないので項ではなく、付加詞です。そしてこの3つの要素を修飾する連体修飾節を作ります(1~3)。その作った文を関係節と呼び、元々の文から関係節を作ることを関係節化と言います。

 選択肢に戻ります。元々の文の主語は「私」、目的語は「タオル」ですが、どちらで関係節化するのが難しいかってのを考えます。
 文を作ってみるとどっちもどっちでしたが… まあ主語の関係節化のほうが無標、目的語の関係節化は有標ということですね。そうしないと答えと矛盾しちゃうので。

 したがって答えは2です。

 

問5 ディクトグロス

 選択肢1
 ディクトグロスの記述です。ディクトグロスは4技能を組み合わせて個人学習とピア・ラーニングが行える統合的な学習法のことです。まず文法構造が多少複雑な短めのまとまった文章を数回読み、学習者はそのキーワードを聞き取ってメモし、そのメモをもとに各自元の文章の復元を試みます。次にペアやグループで復元していき、文章を完成させていく過程をとります。

 選択肢2
 読み上げたものや再生した音声を聞き取り、文字化していく聞き取りの活動はディクテーションです。 

 選択肢3
 ピア・レスポンスです。学習者がペア、あるいはグループでお互いの作文を読み合い、良いところや直したほうがいいところを伝え、そのフィードバックをもとに書き直す活動をします。

 選択肢4
 何ですかこれは。

 したがって答えは1です。

 





2020年9月20日平成24年度, 日本語教育能力検定試験 解説