平成28年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅲ 問題12解説
問1 バイリンガル(二言語話者)
2つの言語を使用するバイリンガルはいろんな種類に分けられます。
習熟度 | 均衡バイリンガルバランスバイリンガル | 2つの言語を年齢相当の母語話者レベルで扱えるタイプ。 |
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偏重バイリンガルドミナントバイリンガル | 片方の言語のみ年齢相当の母語話者レベルで扱えるタイプ。 | |
限定的バイリンガルダブル・リミテッド・バイリンガル(セミリンガル) | どちらの言語も年齢相当のレベルに達していないタイプ。 | |
習得時期 | 達成型バイリンガル | 子ども時代を過ぎてから第二言語を使用するタイプ。 |
獲得型バイリンガル | 幼児期から第二言語を使用するタイプ。幼児期から二言語に触れることで同時に獲得したタイプを同時バイリンガル、1つ目の言語を習得してから2つ目の言語を習得したタイプを連続バイリンガルと呼ぶ。 | |
母語との関係 | 付加的バイリンガル加算的バイリンガリズム | 第二言語習得によって母語や母語の文化が失われず、更なる価値観が得られるタイプ。 |
削減的バイリンガル減算的バイリンガリズム | 第二言語習得によって母語を失ったり、母文化を損なうタイプ。 |
1 バイリンガルというと二言語を完璧に流暢に話すイメージがあるかもしれませんが、レベルに関係なく日常で二言語を使う人もバイリンガルです。それに、片方が優勢で他方が劣勢の状態も偏重バイリンガルという名前が付けられています。
2 上記表に達成型バイリンガルや獲得型バイリンガルがあるように、同時期でなくてもバイリンガルです。
3 第二言語習得によって母文化を損なわずに第二言語の文化も習得する(付加的)こともありますが、第二言語の文化を習得したことによって母文化が失われる(削減的)こともあります。バイリンガルだからといって2つの文化や価値観を身につけているバイカルチュラルとは限らないです。
4 直感的に分かることですが、言語って使わないと衰えますよね…。子どもの頃はよく字を書いていたのに、大人になってからそういう機会もめっきり減って、漢字を書けと言われて思い出せないなんてこともあります。また、長期間その国に滞在していた人が母語を使えなくなることはないまでも、不自然になったり思い出しにくくなったりもします。「生涯衰えない」って言い切るあたりが間違いポイントです。
したがって答えは1です。
問2 造語法
エンストは、英語のエンジンストール(engine stall)、和製英語エンジンストップを由来とする頭字語型の略語です。
1 リストラは、リストラクチャリング(restructuring)を由来とする後省略型の略語です。
2 ロケバスは、和製英語ロケーションバスを由来とする中省略型の略語です。
3 パトカーは、パトロールカー(patrol car)を由来とする中省略型の略語です。
4 デジカメは、デジタルカメラを由来とする頭字語型の略語です。
したがって答えは4です。
問3 会話的コード・スイッチング
コードスイッチングとは、相手や場面、話題に応じて言語そのもの、あるいは同一言語内の言語変種を使い分けることです。標準語も方言を言語変種のため、これらを使い分けることもコードスイッチングの一種です。
これらは以下の3つに分けられます。
会話的コードスイッチング | 会話の流れを維持しながら行われるコードスイッチングの一種で、情報を補足したり、相手の発話を引用したり繰り返したりするなどに用いるコードスイッチングのこと。 |
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状況的コードスイッチング | 状況や場面に応じて行われるコードスイッチングの一種。外的要因によってスイッチするものを指す。 |
隠喩的コードスイッチング | 話し手との親密さや連帯感を強めるために行われるコードスイッチングの一種で、発言に何らかの特別なニュアンスを付与するために起こるもの。内的要因によってスイッチするものを指す。 |
選択肢1
どちらも上手に操れないという”状況”があってコードスイッチングしているので状況的コードスイッチングかなーと思います。あるいはコミュニケーション・ストラテジーの意識的転移っぽくもある。
選択肢2
「集団内での連帯感を強めるため」というのが隠喩的コード・スイッチングです。
選択肢3
会話的コードスイッチングの説明です。
選択肢4
「公的で改まった場面」で使われる言語、つまりダイグロシアの高変種。
状況に応じて切り替えている状況的コード・スイッチングです。
ダイグロシアとは、ある社会において高変種と低変種の二つの言語変種が存在し、それぞれが場面や状況によって使い分けられている状態のことです。高変種とは公的な場面で使用される言語形式のことで、H(High)変種とも呼ばれます。低変種は口語や方言において現れる、より私的な場面で使用される言語形式のことで、L(Low)変種とも呼ばれます。
したがって答えは3です。
問4 隠喩的コード・スイッチング
1 非母語話者に伝わるように話すのはフォリナートークです。
2 隠喩的コードスイッチングです。兄弟間での連帯感を強め、親を疎外する心理的作用が働いています。
3 状況によって使い分けてる、状況的コードスイッチングです。
4 状況によって使い分けてる、状況的コードスイッチングです。
したがって答えは2です。
問5 教育現場におけるコード・スイッチング
選択肢1
文法説明をしっかり理解してもらうため媒介語を使うのは状況に応じて言語を使い分けているコードスイッチングです。
しかし… 帰納的指導というのは学習者に文法や文型の使用例を示し、学習者自らが例の中から規則を見つけ出させる指導法です。ですから文法説明は行いません。
帰納的指導なのに文法説明で媒介語を使う? 矛盾しています。
選択肢2
タスク内容をしっかり理解させないと活動ができませんので、理解してもらうために媒介語を使っています。状況に応じて言語を使い分けているコードスイッチングです。
選択肢3
文化的背景を理解してもらうために媒介語を使っています。状況に応じて言語を使い分けているコードスイッチングです。
選択肢4
これもコードスイッチングです。人間関係を維持するためにコミュニケーションを優先した結果、媒介語を使って学習者と話すようなことです。
したがって答えは1です。