日本語の受動態、受身文の分類について

 「彼は先生に褒められた」や「この建物は500年前に建てられた」のように、助動詞「れる」「られる」を用いて表現された文を受身文といいます。受身文は対応する能動文があるかどうかで、直接受身文と間接受身文の2種類に分けられます。

 

直接受身文

 直接受身文とは、直接対応する能動文があり、その能動文におけるヲ格補語やニ格補語が受身文では主語になる受身文のことです。

直接受身文 対応する能動文
(1) 彼が 先生に 褒められた。 先生が 彼を 褒めた。 能動文のヲ格
受身文に主語に
(2) 私が 上司に 叱られた。 上司が 私を 叱った。
(3) 学生が 彼女に 日本語を 教えられた。 彼女が 学生に 日本語を 教えた。 能動文のニ格
受身文に主語に
(4) 私が 彼に ボールを 投げられた。 彼が 私に ボールを 投げた。

 直接受身文では、対応する能動文の主語が基本ニ格になります。でも場合によってはカラ格やニヨッテ格になることも。

直接受身文 対応する能動文
(5) 彼女が 彼から 話しかけられた。 彼が 彼女に 話しかけた。
(6) 彼が 先生から 叱られた。 先生が 彼を 叱った。
(7) 生徒が 校長から 賞状を 送られた。 校長が 生徒に 賞状を 送った。

 動詞の中には、その動作に移動性、方向性を持つものがあります。送る、渡す、話す、質問する、叱る等… こういう動詞のときはカラ格になることがあります。

直接受身文 対応する能動文
(8) 金閣寺が 足利義満によって 建てられた。 足利義満が 金閣寺を 建てた。
(9) 壁が 何者かによって 壊された。 何者かが 壁を 壊した。

 少し硬めの文体や、「建てる」「描く」「生み出す」「作る」「発見する」「提唱する」等の作成・生産動詞を用いる場合、ニヨッテ格が使われます。ただし「によって裁かれる」「によって罰せられる」などの例外もあります。

直接受身文 対応する能動文
(10) ✕ 賞状が 校長に 生徒に 送られた。
〇 賞状が 校長から 生徒に 送られた。
〇 賞状が 校長によって 生徒に 送られた。
校長が 生徒に 賞状を 送った。

 能動文に既にニ格が含まれている場合、つまりニ格を取る三項動詞の場合は、受身文にするとニ格が重複するので、代わりにカラ格やニヨッテ格が使われます。

 

間接受身文

 間接受身文とは、直接対応する能動文がなく、間接的に影響を被るものを主語に立てる受身文です。間接受身文は迷惑だなーという感じが出るのが特徴です。そして迷惑だと感じるのは常に有情物なので、主語は普通有情物がきます。

迷惑の受身文 対応する能動文
(1) (私が) 母親に 鍵を かけられた。
(2) (私が) 南側に ビルを 建てられた。
(3) (私が) 前の客に 欲しいものを 買われた。

 「母親が鍵をかけた」は迷惑な感じがしないのに、受身文「母親に鍵をかけられた」とすると突然迷惑な感じが出てきます。こういうのを特に迷惑の受身(被害の受身)と呼んでいます。

自動詞の受身文 対応する能動文
(4) (私が) 妹に 先に 帰られた
(5) (私が) 赤ちゃんに 泣かれた。
(6) (私が) 雨に 降られた。
(7) (私が) 子どもに 死なれた。

 迷惑の受身の中には自動詞を用いたものもあり、自動詞の受身と呼ばれます。

持ち主の受身文 対応する能動文
(8) (私が) 彼女に 足を 踏まれた。
(9) (私が) 財布を 盗まれた。
(10) (私が) 彼に 庭の木を 切られた。

 「私は彼女に足を踏まれた」は「彼女は私の足を踏んだ」と言い換えられます。能動文に所有のノ格が現れるもの、つまり主語の身体的部位や所有物を目的語とする他動詞の受身文は持ち主の受身(所有の受身、ノ格の受身)と呼びます。
 ちなみに「彼女は私の足を踏んだ」は直接対応した能動文ではありません。能動文を作るときはヲ格やニ格を使わないとダメです。ノ格は反則技。

 

対応する能動文を作るときの注意点

 対応する能動文を作るときはめちゃくちゃ注意が必要です。作れたと思っていても、実はそれは対応する能動文ではないこともあります。

間接受身文 対応する能動文?
迷惑 母親に 鍵を かけられた。 母親が 鍵を かけた。
自動詞 雨に 降られた。 雨が 降った。
自動詞 妹に 先に 帰られた。 妹が 先に 帰った。
持ち主 彼女に 足を 踏まれた。 彼女が 足を 踏んだ。
持ち主 彼に 庭の木を 切られた。 彼が 庭の木を 切った。

 上の5つの例は、何にも考えずに能動文を作ろうとするとなぜか作れちゃいます。でもこれは「対応する能動文」じゃないので間違い。受身文は「私が取られた」「彼に取られた」みたいに、主語やニ格などが省略されることがあります。まず省略されたものをしっかり補完してから能動文を作ってください。

間接受身文 対応する能動文? ダメな理由
(私が) 母親に 鍵を かけられた。 母親が 私に 鍵を かけた。 「私に」がダメ
(私が) 雨に 降られた。 雨が 私に 降った。 「私に」がダメ
(私が) 妹に 先に 帰られた 妹が 私より 先に 帰った。 「私より」がダメ
(私が) 彼女に 足を 踏まれた。 彼女が 私の足を 踏んだ。 「私の~」となるのは持ち主の受身
彼女が 私に 足を 踏んだ。 「私に」がダメ
(私が) 彼に 庭の木を 切られた。 彼が 私の庭の木を 切った。 「私の~」となるのは持ち主の受身
彼が 私に 庭の木を 切った。 「私に」がダメ

 省略されたもの、ここでは「私が」です。能動文に「私」を入れようとしてもうまく入りません。直接対応する能動文を作るときは、ヲ格やニ格を使わないといけないというルールがあります。なぜなら直接対応する能動文が存在する直接受身文は、その能動文におけるヲ格補語やニ格補語が受身文では主語になるからです。だから「私の~」や「私より」を使うのは反則です!

 能動文作れた! と思っても、この落とし穴に落ちてないか確認してください。

受身文 → 能動文 名詞の数の増減 種類
彼が 先生に 褒められた。 先生が 彼を 褒めた。 ±0 直接受身文
学生が 彼女に 日本語を 教えられた。 彼女が 学生に 日本語を 教えた。 ±0 直接受身文
私は 雨に 降られた。 雨が 降った。 -1 間接受身文
私は 彼に 死なれた。 彼は 死んだ。 -1 間接受身文

 自動詞の受身は、受身文から能動文を作ろうとすると名詞の数が減ります(能動文から受身文を作ると1つ増えます)。なぜなら自動詞は一項動詞で、能動文では項を1つしか取らないからです。でも直接受身文は増減なしでそのまま。

 

昇格受動文と降格受動文

 能動文と受動文の間の関係性から昇格受動文と降格受動文に分類できます。

能動文 昇格受動文(ニ受動文)
(1) 先生が 私を 叱った。 私が 先生に 叱られた。
(2) 父が 私を 褒めた。 私が 父に 褒められた。

 例文(1)(2)のように、能動文のガ格以外の名詞句が受身文のガ格になり主語として現れるものを昇格受動文(promotional passive)と呼びます。対応する能動文の非主語名詞句がガ格によって主語化されることから「昇格(promotion)」と表現されています。昇格受動文は①能動文のガ格以外の名詞句をガ格に昇格させ、②能動文のガ格名詞句がニ格で表すという2つの特徴があります。能動文のガ格名詞句をニ格で表すことから、上述したニ受動文と同じです。

能動文 降格受動文(ニヨッテ受動文)
(3) 足利義満が 金閣寺を 建てた。 金閣寺が 足利義満によって 建てられた。
(4) ダヴィンチが 最後の晩餐を 描いた。 最後の晩餐が ダヴィンチによって 描かれた。

 例文(3)(4)のように、能動文のガ格名詞句が受身文で非主語として現れるものを降格受動文 (demotional passive)と呼びます。対応する能動文の主語名詞句が非主語化されることから「降格(demotion)」と表現されています。降格受動文は降格したガ格名詞句が「によって」で表されるため、上述したニヨッテ受動文と同じです。

 

ニ格受動文、カラ受動文、ニヨッテ受動文

 動作主にニ格を取るものをニ格受動文、カラ格を取るものをカラ受動文、複合助詞「によって」を取るものをニヨッテ受動文と呼んだりします。

 




2020年12月14日日本語教育能力検定試験, 用語・まとめ