日本語の受動態、受身文の種類について

 「彼は先生に褒められた」や「この建物は500年前に建てられた」のように、助動詞「れる」「られる」を用いて表現された文を受身文/受動文といいます。受身文では動詞の受身形が使われ、五段動詞は「ない形+れる」、一段動詞は「ない形+られる」、カ変動詞は「来られる」、サ変動詞は「される」で表します。

 受身文は様々な観点から分類されます。

 

直接受身

 直接受身は直接対応する能動文がある受け身文で、能動文における目的語を主語にするものです。

直接受身文 対応する能動文
(1) 彼は 先生に 褒められた。 先生は 彼を 褒めた。
(2) 私は 上司に 叱られた。 上司は 私を 叱った。
(3) 彼女は あの男に 殴られた。 あの男は 彼女を 叱った。
(4) 私は 先生に イロハを 叩き込まれた。 先生は 私に イロハを 叩き込んだ。

 このように受身文を能動文に言い換えることができれば、それは直接受身に分類されます。直接受身自体に迷惑の意味はなく、迷惑の意味があるかどうかは動詞の意味によります。
 下で述べる自動詞の受身を除き、受身文の述語になる動詞は他動詞です。他動詞はその動作の対象、動作の受け手にヲ格やニ格を取ります。例文(1)~(3)の能動文ではヲ格が現れ、例文(4)ではニ格が現れています。

 そのうち主語が非情物(物や事)であるものは非情の受身といいます。通常動作主は省略されます。(主語が人や動物であるものは有情の受身と呼ぶ)

非情の受身文 対応する能動文
(5) オリンピックは 4年に 一度 開催される。 4年に 一度 オリンピックを 開催する。
(6) 金閣寺は 足利義満によって 建てられた。 足利義満は 金閣寺を 建てた。
(7) 壁が 何者かによって 壊された。 何者かが 壁を 壊した。

 

間接受身

 間接受身は間接的に悪影響を被るものを主語に立てる表現です。通常主語は人間となり、主語から見て迷惑と感じることを表します。直接受身とは異なり、対応する能動文がありません。

 間接受身も2種類に分けられます。持ち主の受身迷惑の受身です。

 

①持ち主の受身/所有の受身

 主語の身体的部位や所有物を目的語とする他動詞の受身形を持ち主の受身といいます。所有の受身とも呼ばれたりします。

持ち主の受身文 対応する能動文
(8) (私は) 彼女に 足を 踏まれた。
(9) (私は) 財布を 盗まれた。
(10) (私は) 庭の木を 切られた。

 例文(8)では「彼女は足を踏んだ」と能動文が作れそうですが、ここに「私を」「私に」を組み込むことができませんので、実は作れません。
 上でも述べましたが、他動詞はその動作の対象、動作の受け手にヲ格やニ格を取ります。能動文を作るときはヲ格とニ格で文を作ろうとする必要があります。
 また、「庭の木を切られた」からは「庭の木を切った」という能動文が作れそうですが、これもやはり作れません。省略されている「私は」「私が」などの存在を忘れないようにしましょう。

 

②迷惑の受身/被害の受身

 主語から見て迷惑と感じるものは迷惑の受身です。被害の受身とも呼ばれたりします。

迷惑の受身文 対応する能動文
(11) (私は) 母親に 玄関の鍵を かけられた。
(12) (私は) 南側に ビルを 建てられた。
(13) (私は) 前の客に 欲しいものを 買われた。

 これらも同様に能動文が作れません。「母親に玄関の鍵をかけられた」は「母親は玄関の鍵をかけた」とできそうですが、ここでも省略されがちな動作の受け手「私」があります。
 「母親は玄関の鍵をかけた」に「私を」や「私に」を組み込むことができないので、能動文は作れません。

 
 迷惑の受身の中には、自動詞が受身となるものがあります。これらは自動詞の受身と呼ばれます。これは日本語特有の表現だと言われています。

自動詞の受身文 対応する能動文
(14) (私は) 妹に 先に 帰られた
(15) (私は) 赤ちゃんに 泣かれた。
(16) (私は) 雨に 降られた。
(17) (私は) 子どもに 死なれた。

 例文(14)は「妹は私より先に帰った」と能動文が作れそうですが、「私より」とするのは反則です。

 自動詞の受身で現れる動作の受け手は、能動文では存在しません。
 例えば「私は雨に降られた」の能動文は「雨が降った」で、受身文であった「私」が能動文では消えています。要素が減ったり増えたりしているのは能動文を作れていない証拠です。自動詞が取る格は1つしかないので減ったり増えたりします。

 例文(14)では「私は妹に先に帰られた」も能動文は「妹が先に帰った」で、「帰る」が取れる項は「妹が」だけです。ここに「私」を入れることはできません。
 というか動詞を見ると、「帰る」「泣く」「降る」「死ぬ」はいずれも自動詞なので、これらは能動文を作って確認する必要なく自動詞の受身(間接受身)だと分かります。
 面倒くさいことはせずにまず動詞の分類を見て、自動詞ならそれは間接受身、他動詞なら能動文を作って直接か間接かを判断すると良いです。

 

動作主の表示形式による分類

 受身文は、動作主が取る助詞からも分類できます。
 動作主にニ格を取るものをニ格受動文、カラ格を取るものをカラ受動文、複合助詞「によって」を取るものをニヨッテ受動文と呼びます。

 上述した間接受身文の動作主はニ格しか取りません。

(18) 妻 本を 捨てられた。
(19) 彼女 スマホを 見られた。
(20) 妹 ケーキを 食べられた。

 直接受身文の動作主は、「に」「から」「によって」が使われます。

(21) 私は 先生(◯に/◯から/✕によって) 叱られた。
(22) 賞状は 校長先生(✕に/◯から/◯によって) 生徒に 送られる。
(23) 金閣寺は 足利義満(✕に/✕から/◯によって) 建てられた。

 ニ格には受動文の主語に対する「動作主の働きかけ(被影響)」の意味があります。例文(20)では、動作主の先生から主語の私に対して「叱る」という働きかけが行われています。

 (22)のように、受身文の中でニ格が重複してしまう場合、動作主は通常カラ格を取ります。ニ格に限らず、日本語では同じ意味を持つ助詞を重複して使うと不自然になります。比較的硬めな文体の場合は「に」よりも「によって」のほうが適切です。

 また(23)のように、「建てる」「描く」「生み出す」「作る」「発見する」「提唱する」等の作成・生産動詞を用いる場合、動作主はニ格ではなく、必ず「によって」が使われます。ただし、作成・生産動詞ではありませんが、「によって裁かれる」「によって罰せられる」などの例外もあります。

 主語が無生物の場合はニ格を取らないことが多いです。一方、「によって」は物事の生起自体に関心が向けられ、ニヨッテ受動文の主語に対する影響はありません。

 

昇格受動文と降格受動文

 能動文と受動文の間の関係性から、受動文は昇格受動文と降格受動文に分類されます。

能動文 昇格受動文(ニ受動文)
(24) 先生が 私を 叱った 先生 叱られた
(25) 父が 私を 褒めた 褒められた

 例文(24)(25)のように、能動文のガ格以外の名詞句が受動文のガ格になり主語として現れるものを昇格受動文 (promotional passive)と呼びます。対応する能動文の非主語名詞句がガ格によって主語化されることから「昇格」(promotion)と表現されています。昇格受動文は①能動文のガ格以外の名詞句をガ格に昇格させ、②能動文のガ格名詞句がニ格で表すという2つの特徴があります。能動文のガ格名詞句をニ格で表すことから、上述したニ受動文と同じです。

能動文 降格受動文(ニヨッテ受動文)
(26) 足利義満が 金閣寺を 建てた 金閣寺は 足利義満によって 建てられた
(27) ダヴィンチは 最後の晩餐を 描いた 最後の晩餐は ダヴィンチによって 描かれた

 例文(26)(27)のように、能動文のガ格名詞句が受動文で非主語として現れるものを降格受動文 (demotional passive)と呼びます。対応する能動文の主語名詞句が非主語化されることから「降格」(demotion)と表現されています。降格受動文は降格したガ格名詞句が「によって」で表されるため、上述したニヨッテ受動文と同じです。

 





2020年10月1日日本語教育能力検定試験 解説, 用語集