撥音の異音・調音点・相補分布

 突然ですが、日本語の「ん」を普通に発音してみてください。

 んー、んー

 何度も試してみたら分かると思いますが、口蓋垂(のどちんこ)で呼気を塞いで、その空気を鼻から出して発音しているはずです。この発音はIPAで表記すると[ɴ]と書きます。

 しかし日本語の撥音「ん」には、実はこれ以外にもたくさんの種類があります。
 その発音の違いは後続する音によって決まっています。

「ん」の種類

 「ん」の異音は大きく分けて3種類です。

  ①「ん」の後続音が無い時は、[ɴ]有声硬口蓋鼻音で発音する。
  ②「あさわはや行」の音が後続する時は、鼻母音で発音する。
  ③その他の時は、後続する音の調音点の有声鼻音で発音する。

 一つひとつ説明していきます。

 

[ɴ]有声口蓋垂鼻音の「ん」

「ん」の後続音が無い時は、[ɴ]有声硬口蓋鼻音で発音する。

 後続音のない「ん」は口蓋垂(のどちんこ)で発音されます。これが一般的です。
 「ん」だけ発音したり、非常にゆっくり発音するときはこの音です。

 (1) みか
 (2) 本(ほ
 (3) 簡単(かんた

 

鼻母音の「ん」

「あさわはや行」の音が後続する時は、「ん」の前にある母音を鼻で発音した”鼻母音”で発音する。

 あいうえお([a][i][ɯ][e][o])、さすせそ([s])、し([ɕ])、わ([ɰ])、はへほ([h])、ひ([ç])、ふ([ɸ])、やゆよ([j])

 (4) 算数(さすう)
 (5) カンフー(かふー)
 (6) 信用(しよう)
 (7) 神話(しわ)

 

有声歯茎鼻音の「ん」

ざずづぜぞ([dz][z])、たてと([t])、だでど([d])、つ([ts])、なぬねの ([n])、らりるれろ([ɾ])の音が後続する時は、有声歯茎鼻音で発音する。

 (8) 簡単(かたん)
 (9) 仙台(せだい)
 (10) 官能小説(かのうしょうせつ)
 (11) 管理(かり)
 (12) 心臓(しぞう)

 

有声歯茎硬口蓋鼻音の「ん」

じぢ([dʑ][ʑ])、ち([tɕ])の音が後続する時は、有声歯茎硬口蓋鼻音で発音する。

 (13) 方向音痴(ほうこうおち)
 (14) パンチ(ぱち)
 (15) 漢字(かじ)

 

有声硬口蓋鼻音の「ん」

に([ɲ])の音が後続する時は、有声硬口蓋鼻音で発音する。

 (16) こにゃく
 (17) 新入社員(しにゅうしゃいん)

 

有声軟口蓋鼻音の「ん」

かきくけこ([k])、がぎぐげご([g][ŋ])の音が後続する時は、有声軟口蓋鼻音で発音する。

 (18) 感覚(かかく)
 (19) 文化(ぶか)
 (20) どぐり

 

有声両唇鼻音の「ん」

ばびぶべぼ([b])、ぱぴぷぺぽ([p])、まみむめも([m])の音が後続する時は、有声両唇鼻音で発音する。

 (21) 文武両道(ぶぶりょうどう)
 (22) 秋刀魚(さま)
 (23) マンモス(まもす)
 (24) 昆布(こぶ)

 

まとめ

 撥音「ん」の異音はそれぞれ現れる環境が決まっています。このような異音の入れ替わりを相補分布と言います。





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