【第59回】「~てくる」と「~ていく」の違い②

日本語コラム

 「~てくる」と「~ていく」の違いについて2回に分けて紹介します。
 今回はその2回目で、かなり専門的な内容ですので中級以上の方々向けです。

「~てくる」 7つの用法

(1)移動時の状態

  (1) 家まで走ってくる
  (2) 天気が悪いからタクシーに乗ってきた
  (3) タイヤがパンクしたので、自転車を引っ張ってきた
  (4) 階段でゆっくり下りてきた

 移動に関する動詞に接続して、どのような動作で、どのような手段で移動が行われたかを表します。

 

(2)順次的動作

  (5) 予約をしてきますので、ここで待っていてください。
  (6) 友達に家に遊びにいってきます
  (7) 途中偶然友人に会って話してきたから遅くなった。

 順次的動作の用法の時、「~てくる」は文字通り「~てから来る」という意味です。
 (5)ではまず予約をしに行って、そして戻る(来る)という物事の順序を表します。
 必ず意志動詞に接続して、その動作が完全に終わった後に「来る」が行われます。

 

(3)動作の継続(過去から現在まで)

  (8) ずっと努力してきたのに、なかなか結果が出ない。
  (9) 何百年も前から続いてきたこの伝統を、これからも守っていく。
  (10) 大学を卒業して以来、ずっとここで仕事をしてきました

 意志動詞に接続して、その動作が過去のある時点から現在まで持続していることを表します。
 必ず過去形「~てきた」の形をとります。

 

(4)少しずつ近づく

  (11) 二人の距離は近づいてきた
  (12) ご主人様が戻ってこられました
  (13) うちの子はお腹がすくとすぐ帰ってくる

 対象が話し手へと徐々に近づくことを表します。
 (11)は物理的な距離のみならず、精神的な距離としても解釈できます。

 

(5)状態変化の開始

  (14) 高齢者人口はどんどん増えてきている。
  (15) ここ数日の大雪で雪が積もってきた
  (16) 最近暑くなってきた

 無意志動詞に接続して、変化が開始したことを表します。
 どんどん、だんだんなどの副詞と呼応して用いられることが多いです。

 

(6)出現

  (17) 太陽が地平線から昇ってきた
  (18) 歯が生えてきた
  (19) 新年度になり新しい学生がやってきた

 無意志動詞に接続して、元々存在していなかった、あるいは話し手が見えていなかったものが見えるようになることを表します。
 どんどん、だんだんなどの副詞と呼応して用いられることが多いです。

 

(7)こちらへの一方的な動作

  (20) 知らない人が話しかけてきた
  (21) 猫が噛み付いてきた

 話し手、あるいは話し手が見ている人に対して一方的な動作が行われることを表します。

 

「~ていく」 7つの用法

(1)移動時の状態

  (22) 教室まで歩いていく
  (23) 天気が悪いからバスに乗っていきましょう。
  (24) タイヤがパンクしたので、自転車を引っ張っていった
  (25) 川をカヌーでゆっくり下っていく

 移動に関する動詞に接続して、どのような動作で、どのような手段で移動が行われたかを表します。

 

(2)順次的動作

  (26) 先にこの仕事をすませていきます。
  (27) 遠慮せずに泊まっていってください。
  (28) とりあえずここで休憩していこう

 順次的動作の用法の時、「~ていく」は文字通り「~てから行く」という意味です。
 (26)ではまず仕事を終わらせて、そして行くという物事の順序を表します。
 必ず意志動詞に接続して、その動作が完全に終わった後に「行く」が行われます。

 

(3)動作の継続(未来へ)

  (29) 以後も変わらず努力していく
  (30) 就職しても趣味のマラソンは続けていくつもりだ。
  (31) これからもここで生きていく

 意志動詞に接続して、その動作がその後も将来にかけて継続することを表します。

 

(4)少しずつ遠ざかる

  (32) 心はどんどん離れていった
  (33) アリは自らの巣に戻っていきました
  (34) 授業が終わると学生はすぐに帰っていきました

 対象が話し手から徐々に離れることを表します。
 物理的な距離のみならず、(32)のように精神的な距離でも使うことができます。

 

(5)状態変化の進展

  (35) 高齢者人口は今後もどんどん増えていく
  (36) 雪が積もっていく
  (37) これからますます寒くなっていくだろう。

 無意志動詞に接続して、変化が進行していることを表します。
 どんどん、だんだんなどの副詞と呼応して用いられることが多いです。

 

(6)消失

  (38) 太陽が地平線に沈んでいった
  (39) 覚えたそばから忘れていく
  (40) 学生が卒業していくのは寂しくてたまらない。

 無意志動詞に接続して、元々存在していた物事が話し手の視界から消えることを表します。
 最後は完全に消えて見えなくなります。
 どんどん、だんだんなどの副詞と呼応して用いられることが多いです。

 

(7)こちらからの一方的な動作

  (41) 道行く人に次から次へと声をかけていく
  (42) 手当たり次第に聞いていこう

 話し手から、あるいは話し手が見ている人から他の対象に対して一方的な動作が行われることを表します。

 

動作の継続の違い

  (8) ずっと努力してきたのに、なかなか結果が出ない。(過去から現在まで努力している)
  (29) 以後も変わらず努力していく。(今後も努力する)

 「~てくる」は過去から現在までの動作の継続・持続を表します。必ず過去形「~てきた」の形をとります。
 「~ていく」は未来への動作の継続・持続を表します。

 

「~てくる」は近づき、「~ていく」は遠ざかる

  (11) 二人の距離は近づいてきた
  (32) 心はどんどん離れていった

 「来る」は対象がこちらへ移動し、「行く」は対象がこちらから離れるという動詞が本来持っている方向性が影響して、「~てくる」は近づくこと、「~ていく」は遠ざかることを表しています。
 物理的な距離のみならず、精神的な距離にも使うことができます。

 

「~てくる」は変化の開始、「~ていく」は変化の進展

  (16) 最近暑くなってきた
  (37) これからますます寒くなっていくだろう。

 「~てくる」は状態の変化が始まったときに用います。
 「~ていく」は状態の変化が既に始まっていて、その変化がさらに進行することを表します。
 具体的にはこのような違いがあります。

 2人で散歩中、初めは静かなところを歩いていたが、突然進行方向からの騒音。
  「なんだかうるさくなってきたね。」
 その騒音が鳴る方へ進んでいく。
  「どんどんうるさくなっていくね。」

 騒音が初めて聴こえた時点 → 「うるさくなってきた」(変化の開始)
 近づくにつれて音が徐々に大きくなる → 「うるさくなっていく」(変化の進展)

 

「~てくる」は出現、「~ていく」は消失

  (17) 太陽が地平線から昇ってきた
  (38) 太陽が地平線に沈んでいった

 「~てくる」では見えなかったものが現れます。完全に見えなかったものが見えるようになります。
 「~ていく」では見えていたものが消えていきます。最後は完全に見えなくなります。

  (43) 彼の考えていることが分かってきた

 目で見る視覚的なもの以外にも使えます。

 

一方的な動作の方向の違い

  (21) 猫が噛み付いてきた
  (41) 道行く人に次から次へと声をかけていく

 「~てくる」は話し手、あるいは話し手が見ている人に対して一方的な動作が行われることを表します。
 「~ていく」は話し手から、あるいは話し手が見ている人から他の対象に対して一方的な動作が行われることを表します。

 

まとめ

 「来る」と「行く」の動詞本来が持つ性質や方向性が残っている用法もありますが、持続や状態の変化ではその本来の性質が失われています。
 ①②④は「~て来る」「~て行く」と漢字を使い、それ以外は平仮名で表されることが多いです。
 しかし漢字を使うか平仮名を使うかはあまり重要ではありませんので特に注意する必要もありません。

 以上です。

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Posted by そうじ