外国語教授法の変遷について

目次

 

教授法の変遷

★★★ 文法訳読法 (Grammar Translation Method)

学習者は教師が説明した文法規則を暗記し、文を母語に訳すことで理解していく教授法。授業では媒介語が用いられる。

 他の言語の存在を認識する必要のなかった時代から、大航海時代を経て外国語の存在を知るようになり、貿易や戦争などで他国との関係を持つために外国語が必要となった。そこで最初に生まれたのが文法訳読法だった。それ以前は外国語学習に関する研究がほぼ行われていなかったことから、文法訳読法は理論的基盤を持たない。
 言語の背景には文化的側面が存在するが、文法訳読法ではその理解に限界があるという考え方からダイレクト・メソッドやナチュラル・メソッドが登場した。言語を目標言語で学習することで、その言語の背景にある文化的な意味を理解しようとする流れとなる。この時期に提唱されたものとして、フォネティック・メソッドもある。

★★★ ダイレクト・メソッド (Direct Method)

媒介語を使用しない教授法。読み書きよりも口頭能力をより重視しており、名詞や動詞を入れ替えながら同じ構造の文を何度も聞き、声に出す練習が多く用いられる。また母語や媒介語を用いないため、そのような練習の中で学習者は自ら文法規則を見つけ出す必要がある。1880年~1930年代に広まり、2000年代に再度注目を集めた。直接法、直接教授法ともいう。

★★★ ナチュラル・メソッド (Natural Method)

媒介語を使用しない教授法。幼児の母語習得過程を外国語学習に適用し、より自然な方法で外国語を身につける方が良いという考え方を持つ。「サイコロジカル・メソッド」と「ベルリッツ・メソッド」がある。

★★☆ サイコロジカル・メソッド/シリーズ・メソッド/グアン・メソッド/グアン式教授法 (Psychological Method)

19世紀後半にグアン (Gouin)によって提唱されたナチュラル・メソッドの教授法の一つで、幼児の母語習得過程を外国語学習に適用し、幼児が思考した順に言葉を使うことに着目した教授法のこと。この教授法は山口喜一郎が植民地時代の台湾で導入された。

★☆☆ ベルリッツ・メソッド (Berlitz method)

ベルリッツ (Berlitz)によって提唱されたナチュラル・メソッドの教授法の一つで、音声を重視する教授法。レアリアや絵カードなどを用い、音声と概念を直接結びつけ、その言語で言われたことをそのまま理解することを目標とする。

★☆☆ フォネティック・メソッド (Phonetic Method)

国際音声字母(IPA)の初版が制定されたことを受けて開発された教授法。発音記号を使った発音練習をし、音と意味を直接的に連結させることが特徴的。音声学の知見を基盤とする。

 媒介語の使用を禁止することで教える際の効率が下がったことから、一部媒介語の使用を認めつつ、なるべく媒介語を使わないようにする折衷的な方法がとられた。それがハロルド・パーマー (H.E.Palmer)によって提唱されたオーラル・メソッドである。

★★★ オーラル・メソッド (Oral Method)

ハロルド・パーマー (H.E.Palmer)によって提唱された教授法。ナチュラル・メソッドと同じく幼児の母語習得過程を外国語学習に適用しつつ、必要があれば媒介語を使ってもいいとし、それまでのダイレクト・メソッドを改良して開発された。オーラル・メソッドに基づく授業は、Presentation(文型の提示)、Practice(基本練習)、Production(応用練習)から構成される。これはオーラル・メソッドの独自の手法で、PPPと呼ばれる。

 オーラル・メソッドの提唱と同時期、20世紀に入ると、スイスの言語学者フェルディナン・ド・ソシュール (Ferdinand de Saussure)の登場により、構造主義言語学が主流となる。これは言語の構造に着目して理解を進めようとする立場で、ここから生まれたのがアーミー・メソッドである。

★★☆ アーミー・メソッド (Army Method)

第二次世界大戦中にアメリカ兵士に対する日本語教育のために行った教授法。兵士は日本人捕虜や日本からの移民と合宿体制を取り、文法や音声等は教官が英語で教え、それ以外の時間は一切の英語を禁止し、日本人から日本語を学んでいくという方法をとった。

 アーミー・メソッドから繋がり、人間の行動は心理的条件でなく客観的な立場から証明できるという行動主義心理学及びアメリカ構造主義言語学を背景的背景としたオーディオリンガル・メソッドが提唱される。

★★★ オーディオ・リンガル・メソッド (Audio-Lingal Method)

戦後1940年代から1960年代にかけて爆発的に流行した教授法。目標言語の音声を特に重視し、教師が中心となってミムメム練習やパターンプラクティス、ミニマルペア練習などを用いて学習し、それらを無意識に自動的に反射的に使えるようになることを目標とする。フォーカスオンフォームズ(言語形式を重視)の教授法。行動主義心理学を理論的背景とする。オーラル・アプローチ (Oral Approach)とも呼ばれる。

★★☆ ミムメム練習/模倣記憶練習 (mimicry and memorization practice)

教師が口頭で示した文型や語彙を正しい発音で模倣、反復し、記憶する練習法。

★★☆ パターン・プラクティス/文型練習 (pattern practice)

特定の文型を瞬間的かつ正確に扱える力を身に付けるため、文型の一部に指示した言葉を入れる練習のこと。代入練習、変形練習、応答練習、拡張練習などがある。

代入練習 ある文型の語彙や表現を、教師が提示した語彙や表現に入れ替える練習方法のこと。
変形練習 教師が提示するキューに従って文型を変形させていく練習方法のこと。
応答練習 教師の質問やキューに対して、指定された文型を用いて答える練習方法。
拡張練習 教師が提示するキューに従って、言葉を繋げて拡張していく練習方法のこと。

★★☆ ミニマルペア練習

亀/kame/と駄目/dame/のように、ある1つの音素の違いによって意味の変わるミニマルペアを使い、その音の違いに集中させる発音練習のこと。

★★☆ ミニマルペア/最小対 (minimal pair)

亀/kame/と駄目/dame/のように、ある1つの音素の違いによって意味の変わる語のペアのこと。

 同時期1940年代から1960年代にかけては、GDM、コグニティブ・アプローチ、VT法も開発されている。

★☆☆ GDM/段階的直接教授法 (Graded Direct Method)

媒介語を使用しないダイレクトメソッド(直接教授法)の流れをくむ教授法の一つで、ハーバード大学のI.A.リチャーズにより考案された。学習者の負担を軽減するため、簡単な言葉から段階的に教えていく教授法。

★☆☆ コグニティブ・アプローチ/認知学習法

認知記号学習理論(認知学習理論)を基盤とし、生成文法理論と認知心理学に影響を受けた教授法。演繹的な教育法をとり、人間の認知能力を利用して言語規則を理解させ、その上で言語習得のための練習する。

☆☆☆ VT法/ヴェルボトナル法 (Verbo-Tonal Method)

言語聴覚論に基づいた教授法。リズムやイントネーションを重視し、身体リズム運動を活用するのが特徴。

 1970年代に入り、オーディオリンガル・メソッドのミムメム練習やパターンプラクティス、ミニマルペア練習は機械的かつ意味を軽視しているため、実際のコミュニケーションには役に立たないという批判が出てきた。
 そして、チョムスキー (Chomsky)が提唱した、言語は模倣や反復による習慣づけで獲得されるものではないという生成文法理論 (Generative Grammar Theory)によって、オーラル・メソッドやオーディオリンガル・メソッドはついに勢いを失った。それからは人間性心理学の影響を受け、学習者の認知能力を高め、また情意面にも配慮するようなTPR、サイレント・ウェイ、CLL、サジェストペディアなどの教授法が開発されることになる。

★★☆ 全身反応教授法/TPR (Total Physical Response)

アッシャー (Acher)により提唱された教授法で、母語習得過程を応用して発話よりもまず聴解力を養成し、教師の指示に対して体を動かしながら言葉を口にする活動を行う。言葉と動作を同時に取り入れることで記憶に残りやすくなると考える。子供の英会話教室などで用いられることが多い。1960年代~1980年代に広まった。

★★☆ サイレント・ウェイ (Silent Way)

「真の習得はアウェアネス(気づき)なしには起こらない」という立場から、教師はできるだけ沈黙し、学習者自らが規則や体系を発見して学んでいくことを支援する教授法。ロッド、サウンド・カラー・チャート(色付きチャート)などの独自の道具を用いる。

★★☆ コミュニティ・ランゲージ・ラーニング/CLL (Community Language Learning)

カラン (Curran)が提唱した、カウンセリング理論を外国語学習に応用して開発した教授法。カウンセリング理論は学習者が誤りを犯すことへの心理的な不安を和らげるために用いられる。また、不安軽減のため、媒介語の積極的な使用を認めている。カウンセリング・ラーニングとも呼ぶ。

★★☆ サジェストペディア (Suggestopedia)

ロザノフ (Lozanov)が開発した外国語教授法。学習者の不安や緊張などを取り除くために、教室はリラックスできるような環境作りに徹し、絵画や観葉植物が置かれ、光などにも配慮する。クラシック音楽を流しながら、さながらコンサートのような教室活動を行うのが特徴的。授業は、イントロダクション(プレセッション)、コンサートセッション、ポストセッション(パッシブ・コンサート)の3部からなる。

★★★ ナチュラル・アプローチ (The Natural Approach)

1980年代に注目された成人のための外国語教授法で、幼児の母語習得過程を参考にした聴解優先の教授法。クラッシェンのモニターモデルの仮説に基づき、学習者が自然に話し出すまでは発話を強制せず、誤りがあっても不安を抱かせないために直接訂正しないなどの特徴がある。発話が行われるまでの間は聴解練習のみ行われる。

 1980年代頃からはコミュニケーション能力の育成に関する関心が高まり、文法能力だけでなく、談話能力、方略能力、社会言語能力も重視すべきという考え方が現れた。ここからコミュニカティブ・アプローチが生まれた。

★★☆ コンプリヘンション・アプローチ/聴解優先アプローチ (Comprehension Approach)

幼児の母語習得過程をモデルにし、とにかく聴解を中心とする教授法の総称。ビデオの教材や聴解練習だけに絞り、聴解能力が十分確立するまで発音練習や発話練習は行わない。そうすることで目標言語で発言することへの心理的圧迫を避ける。言語学習では、多くの言語インプットを浴びることが重要であるというインプット理論に基づいて開発された。

★★★ コミュニカティブ・アプローチ (Communicative Approaches)

それまでのダイレクトメソッドやオーディオリンガル・メソッドなどの非現実的な教授法を否定し、言語教育は現実的な場面を想定した会話の中で行われるべきという考え方から生まれた教授法。オーディオリンガル・メソッドとは異なり、母語話者並みの発音やスピードを求めず、正確さよりもコミュニケーション能力の育成を中心とする。概念・機能シラバスを用いた現実のコミュニケーションと同じような活動を教室で行い、その活動を通して文法や単語を身につけていくことを目標とする。また、インフォメーションギャップ(情報格差)、チョイス(選択権)、フィードバック(反応)の3つの要素がコミュニケーションの本質であるという考え方に基づき、これらの要素を盛り込んだ活動を行うのが特徴的。フォーカス・オン・ミーニング(言語の意味重視)の教授法。

★★☆ インフォメーションギャップ/情報格差 (information gap)

学習者同士の間にある情報の格差のこと。この情報の格差が学習者間のやりとりを促進する。

★★☆ チョイス/選択権 (choice)

タスクにおいて、どのような表現を用いるか、何を問うか、どう振る舞うかなどを選択する学習者に与えられた自由のこと。

★★★ フィードバック (feedack)

学習者の発話に対して何らかの反応を示すこと。また、コミュニカティブ・アプローチにおける相手の反応のこと。コミュニカティブ・アプローチでは、コミュニケーションの本質として活動に盛り込まれる。

★☆☆ タスク中心の教授法/ タスク中心言語教育/TBLT

1990年代以降に提唱された、オーディオ・リンガル・メソッドとコミュニカティブ・アプローチのお互いの長所を組み合わせ、欠点を補い合った教授法。FonFに基づく。現実的な場面を想定したタスクの中で実際に使われる言葉を使うことによって自然なコミュニケーション能力を身につけさせるもの。

 
 

その他教授法

★★★ フォーカス・オン・フォームズ/FonFs (Focus on Forms)

文法に焦点を当てた教授法のこと。教室において、教師が中心となり、文法規則等を最初から手取り足取り正確に教え込む方法をとる。機械的なドリル練習などを多用するが、文法的な正確さを重視しているため、かえって流暢さが身につかないとされている。オーディオリンガル・メソッドや文法訳読法などが代表的。

★★★ フォーカス・オン・ミーニング/FonM (Focus on Meaning)

意味に焦点を当てた教授法のこと。学習者が中心となって多く聴き、多く読むのが特徴的だが、この時、教師による介入が完全に行われない。意味を重視することによってコミュニカティブに言語習得できるが、流暢さを身につけることはできても、文法的な正確さが身につかないとされている。ナチュラル・アプローチやイマージョン教育などが代表的。

★★★ フォーカス・オン・フォーム/FonF (Focus on Form)

FonFsの流暢さが身につけられない欠点と、FonMの文法的な正確さが身につけられない欠点を互いに補うために考案された教授法のこと。コミュニケーションの中で文法的な知識を学習していこうという考え方に基づき、教室においてはFonMと同様に学習者が中心となるが、必要があれば教師は介入する。何らかのトピックやテーマを用いることで、文法そのものに焦点を置かずに意味中心とするが、教師によるプロンプトやリキャストでフィードバックを行うことにより、その中で学習者の注意が文法形式に向くような工夫がある。FonFsのように文法説明を始めたり、機械的なドリル練習をすることはなく、最終的には学習者の気付きによって文法知識の習得を促す。

 
 

教育

★★☆ イマージョン/イマージョン教育/イマージョン・プログラム

目標言語で目標言語を教えるなどの教育法のこと。イマージョンとは「浸す」という意味。

★★☆ サブマージョン/サブマージョン教育/サブマージョン・プログラム

母語話者しかいない環境に学習者を置く教育法のこと。サブマージョンとは「沈める」という意味。

★☆☆ CAI (Computer Assisted Instruction)

コンピュータを用いて行う教育のこと。

★☆☆ ブレンディッド・ラーニング

オンラインでの学習と教室での対面学習を効果的に組み合わせた学習形態のこと。

★☆☆ WBT/e-learning (Web Based Training)

インターネットを使って教育すること。

☆☆☆ 課題提起型学習/課題提起型教育

対話により自ら問題に気付き、他者と協力してその問題を解決していく教育方法。

☆☆☆ ホリスティック教育

人の精神的価値観を追い求め、自己の存在や人生の意味を見出していくような考え方に基づいて行われる教育のこと。

☆☆☆ 預金型学習/預金型教育

教師が一方的に喋ることで学習者はその内容を機械的に記憶する教育法のこと。教師は預金者、学習者は貯金箱と喩え、このような名前がつけられた。

★☆☆ 内容言語統合型学習/CLIL (Content and Language Integrated Learning)

非母語で科目を学ぶことで、科目内容・語学力・思考力・協同学習という四つの要素をバランスよく育成する教育法。Content(科目)、Communication(言語スキル)、Cognition(思考力)、CommunityないしCulture(共同学習、異文化理解) の「4つのC」によって授業を組み立てる。

★☆☆ プロセシング・インストラクション/処理指導

学習者に文法形式を含んだインプットを与えることによって意味理解を集中的に経験させ、インプットからインテイクへと導く指導のこと。

☆☆☆ サイト・トランスレーション

学習言語をその語順のまま理解する方法で、通訳者向けのトレーニングとして有名。

☆☆☆ ホール・ランゲージ (Whole Language)

子どもに対する読み書きを特に重視した教育のこと。

☆☆☆ イマージョンスクール

イマージョン教育を行う学校のこと。

☆☆☆ センター校

特定の学校に日本語学校を設け、近隣の学校からそこに通う方式の学校のこと。

☆☆☆ マグネットスクール

魅力的な特別カリキュラムを持つために、広範囲の子供たちをマグネットのように引きつける学校のこと。





日本語教育能力検定試験 解説, 用語集