平成25年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ 問題10解説

問1 クラッシェンのモニターモデル

 クラッシェンといえばモニターモデルです。
 モニターモデルとは、クラッシェン(Krashen)が提唱した第二言語習得理論のことです。モニターモデルの中心的な仮説として、5つの仮説が挙げられています。

①習得・学習仮説 言語を身につける過程には、幼児が母語を無意識に身につけるような「習得」と、学校などで意識的に学んだ結果の「学習」があるとし、クラッシェンは学習によって得られた知識は習得された知識には繋がらないとしています。
②自然習得順序仮説
(自然順序仮説)
目標言語の文法規則はある一定の決まった順序で習得されるとする仮説です。その自然な順序は教える順序とは関係ないとされています。
③モニター仮説 「学習」した知識は、発話をする際にチェック・修正するモニターとして働くとされる仮説です。学習者が言語の規則に焦点を当てているときに起きるとされています。
④インプット仮説 言語習得は理解可能なインプット「i+1」を通して進むとする仮説です。ここでいう「i」とは学習者の現時点での言語能力のことで、「+1」がその現在のレベルから少し高いレベルのことを指しています。未習のものであっても、文脈から推測できたりする範囲のインプットを与えると、言語構造な自然に習得されるとしています。
⑤情意フィルター仮説 学習者の言語に対する自信、不安、態度などの情意面での要因がフィルターを作り、接触するインプットの量と吸収するインプットの量を左右するという仮説です。

 「意識的に学習された知識」は、習得された知識には繋がらないとするのがモニターモデルの考え方です。

 1 繰り返し練習することはモニターモデルの「学習」です。モニターモデルによると、それは意識を向けなくても使えるようにはなりません。
 2 「発話の正確さをチェックする」というのはモニター仮説で述べられていることで、正しいです。
 3 「習得の順序や道筋を変えることはできない。」というのは自然習得順序仮説で述べられていることですが、「意識的に学習された知識」は習得に繋がらないという立場を取っています。よって習得の速度を上げる効果はありません。
 4 「学習」された知識は習得されないとしているので、無意識化されることはないというのがモニターモデルの考え方です。

 したがって答えは2です。

 

問2 インプット仮説

 インプット仮説については上述しています。
 したがって答えは3です。

 

問3 アウトプット仮説

 アウトプット仮説とは、相手に理解してもらえるようなアウトプットをすることで言語習得が促されるとする理論です。スウェインによって提唱されました。

 1 相手が理解できないアウトプットをすることで、なぜ理解されないのかを仮説検証・内省することができ、それによってメタ言語的知識が高まります。
 2 相手が理解できるアウトプットをすることで、自分の言語形式に注意が向くようになります。よって間違いです。
 3 相手が理解できないアウトプットをすることで、なぜ理解されないのかを知るために言語形式に注意を向け、自分の発話を修正することが促されます。
 4 相手が理解できないアウトプットをすることでお互い意味交渉を行い、フィードバックを得ることができます。

 したがって答えは2です。

 

問4 学習者のインプット処理に関する問題

 アウトプット仮説では、伝えたい意味や内容(意味処理)よりも言語形式(統語処理)に焦点が当たり、相手からの反応によって修正することができるとされています。

 1 正しいです。意味処理はされにくいです。
 2 間違いです。統語処理はされやすいとされています。
 3 正しいです。内容語には注意が向きにくいです。
 4 正しいです。

 したがって答えは2です。

 

問5 目立ちにくい言語形式や気づかれにくい言語形式

 理解可能なインプットだけでは習得が難しいものとして、「気づきやすさ/目立ちやすさ」「余剰性/冗長性」「使用頻度」などがあります。

気づきやすい言語形式 気づきにくい言語形式
音素が多いもの 音素が少ないもの
母音があるもの 母音がないもの
アクセントあり アクセントなし
文頭・文末 文中
余剰性が低いもの 余剰性が高いもの
使用頻度が高いもの 使用頻度が低いもの

 ここでいう余剰性・冗長性(redundancy)とは、それがなくても意味の伝達ができる要素のことです。例えば「彼女は綺麗だと思います。」において、「彼女」と「綺麗」が聞き取れれば大意は把握できてしまうため、「だと」などは余剰性が高い言語形式です。

 1 母音を含まない言語形式は、目立ちにくいです。
 2 母語には無いような表現は注意を向けられやすいです。
 3 余剰性の高い言語形式は気づかれにくいです。
 4 文頭・文末は気づかれやすいです。

 したがって答えは3です。

 参考:第二言語としての日本語