平成28年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ 問題3A解説

(1)動詞の分類方法

 ここでは母音語幹動詞、子音語幹動詞、ru-verb、u-verbというあまり見慣れない名前が並んでますので、まず説明します。

 母音語幹動詞は、動詞語幹の末尾が母音になっている動詞を指します。一段動詞の語幹は全て母音で終わるので、実は一段動詞を指しています。

 食べる [tabe-ru]
 見る [mi-ru]
 着る [ki-ru]

 子音語幹動詞は、動詞語幹の末尾が子音になっている動詞です。五段動詞は全て語幹の末尾が子音です。だからこれも実は五段動詞を指しています。

 読む [yom-u]
 書く [kak-u]
 切る [kir-u]

 それから、u-verbは動詞の活用語尾が「u」である動詞のことです。これも実は五段動詞を指してます。五段動詞は活用語尾が「u」だからです…
 ru-verbは活用語尾が「ru」になるもの、つまり一段動詞そのものです。

 整理するとこうなります。

語幹末尾に着目した分類 活用語尾に着目した分類
五段動詞 子音語幹動詞 u-verb
一段動詞 母音語幹動詞 ru-verb

 ここでは文章中に「取り出した形の末尾に着目して」とあります。語幹の末尾に着目した動詞の分類は子音語幹動詞と母音語幹動詞。
 そして「切る」は子音語幹動詞、「着る」は母音語幹動詞。というわけで答えは2です。
 指し示すものは同じでも、着目するところによって名前が違う。めんどくさすぎ。

 

(2)サ変動詞の中で不規則なもの

 サ変動詞は「~する」の形をとります。でも一部不規則な活用をするものがあります。

 1 愛する ⇒ 愛さない
 2 失恋する ⇒ 失恋しない
 3 恋愛する ⇒ 恋愛しない
 4 恋する ⇒ 恋しない

 サ変動詞「~する」のナイ形は「~しない」ですが、1の「愛する」はサ変動詞であるのにも関わらず「愛さない」のように不規則な活用をします。
 他にも熱する(熱す)、辞する(辞す)、画する(画す)、帰する(帰す)などは不規則です。不規則なサ変動詞の中でもさらに不規則なこれら。学生がかわいそう。

 したがって答えは1です。



(3)日本語教育における文法の考え方

 選択肢1
 日本語教育は分かりやすくするために国語教育と異なる部分があります。
 国語教育では、「切ろう」は「kir」と「ou」に分けて考えますが、日本語教育では「切ろう」などの語形全体を活用形と考えます。他にも、国語教育で連用形と言えば「切り」ですが、日本語教育の場では「切ります」と教えます。学習者にとって分かりやすくのが目的です。

 選択肢2
 日本語教育では、イ形容詞とナ形容詞を総称して「形容詞」と呼びます。
 国語教育では、「イ形容詞」を形容詞と呼び、「ナ形容詞」を形容動詞と呼びます。
 この選択肢は正しいこと言ってます。

 選択肢3
 動て形の時に生じる音便は、イ音便、撥音便、促音便の3種類です。「書く⇒書きて⇒書いて」「飲む⇒飲みて⇒飲んで」「取る⇒取りて⇒取って」などなど。
 これらは音便が発生してますが、全部動て形です。別の活用形として扱われることはありません。 

 選択肢4
 国語教育で用いられる活用形は「未然形」「連用形」「終止形」「連体形」「仮定形」「命令形」の6種類です。
 しかし、日本語教育の場では「辞書形」「ます形」「て形」「ない形」「ている形」「た形」「ば形」「意向形」「可能形」「使役形」など多くの活用形が用いられています。これも分かりやすくするためですね。

 したがって答えは3です。

 

(4)動詞分類の確認方法

 その動詞が一段動詞か五段動詞かを判別するには、動ない形を確認するのが最も有効な方法です。
 一段動詞のない形を作るには、語末の「る」が「ない」に変えます。五段動詞は語末の母音「u」を「a」に変えて、「anai」を加えます。

 書く ⇒ 書かない (五段)
 話す ⇒ 話さない (五段)
 食べる ⇒ 食べない (一段)
 見る ⇒ 見ない (一段)

 答えは2です。

 

(5)知識不十分な学習者に適した動詞の判別方法

 選択肢1
 「かぶる」「切る」「加わる」など、「る」で終わってるのに五段動詞のものもありますので完璧な判別方法ではありませんが…
 問1でもあるように、一段動詞は必ず「る」で終わるru-verbです。ですから「る」で終わるのは一段動詞の可能性が高いと言えます。一つの基準として教えるのは有効です。

 選択肢2
 切る、引く、取る、死ぬ、待つ、脱ぐ、会う、飲む、書く、蹴る、要る、折る、知る、なる等々… 五段動詞にも2拍のものが数えきれないほどあります。この判別方法は正しくありません。

 選択肢3
 一段動詞「着る」を訓令式で表すと「kiru」、五段動詞「切る」も「kiru」。ローマ字に直すだけじゃあ判別できません!

 選択肢4
 五段動詞を連用形、ここでは動てテ形にしてみます。すると以下のような音便が生じます。

 「く」「ぐ」で終わる動詞は「~いて」「~いで」となり、これはイ音便。
 「む」「ぶ」「ぬ」で終わる動詞は「~んで」となり、これは撥音便。
 「る」「つ」「う」で終わる動詞は「~って」となり、これは促音便。

 音便形が現れることを知っている学習者は、五段動詞か一段動詞か既に知ってるくらい日本語のレベルが高いと思いますけどね… というわけでこの方法は母語話者向けの判別方法です。そもそも学習者は音便形に変えられないから困っているわけで。

 したがって答えは1です。




2022年9月23日平成28年度, 日本語教育能力検定試験