比較の「より」と「ほど」の違い
ある本にこんな問題がありました。
20.君( )信頼できる人はいない。
[A] ほど
[B] より
[C] だけ
[D] さえ
私の第一感はBの「より」だったんですが、参考書によると答えはAの「ほど」だそうです。確かにAでもいいんですが、Bでもよくないですか…?
というわけで比較を表す「より」と「ほど」の違いについて調べてみました。
助詞「より」について
比較と起点の用法がありますが、ここでは比較の用法についてのみ述べます。
「より」の文型は2つある
「より」が用いられる文型は「AはBより~だ」と「BよりAのほうが~だ」の2つあります。「より」は比較の基準を示し、「ほう」は比較対象を強調します。直接的に比較をする際に用います。
(1) 彼は私より頭が良い。 (彼>私)
(2) 私より彼の方が頭がいい。 (私<彼)
(3) 飛行機は新幹線より速い。 (飛行機>新幹線)
(4) 新幹線より飛行機の方が速い。 (新幹線<飛行機)
(5) 電話はメッセージより伝わりやすい。 (電話>メッセージ)
(6) メッセージより電話の方が伝わりやすい。 (メッセージ<電話)
「より」の後ろには必ず肯定形が来るらしい?
参考書に書いていたのですが、「より」を使うときは後ろに否定形が来ないと書いていました。このルールに従うと、以下の例文は非文になってしまいます。
(7) この店はあの店より安くない。 (この店>あの店)
(8) あの店よりこの店のほうが美味しくない。 (あの店>この店)
しかしこれは間違いではないはずです。「より」と否定形が呼応するケースは日常会話の中でも多くあり、「~よりほかない」「~よりしかたがない」などの文法でも用いられています。私としてはこの説に懐疑的です。
助詞「ほど」について
「ほど」の後ろには必ず否定形が来る
「ほど」で表された比較の程度は「より」よりも小さく、わずかに差がある時によく用いられます。「ほど」の後ろには必ず否定形が来て、肯定形は来ません。間接的に比較する際に用います。
(9) 私は彼ほど頭が良くない。 (私<彼)
(10) 新幹線は飛行機ほど速くない。 (新幹線<飛行機)
(11) メッセージは電話ほど伝わりやすくない。 (メッセージ<電話)
(12)✕野球はサッカーほど疲れる。
「より」と「ほど」の違い
「ほど」は否定形、「より」はどちらでもいい
両者の違いを見たときに明らかに違う点は、「ほど」は絶対に「~ほど~ない」の形をとることです。後項に肯定形を使うと非文になります。
一方「より」は参考書によると必ず後ろは肯定形だそうですが、会話においても文法においても否定形と呼応するケースが多く見られます。ここでは肯定形でも否定形でも非文にならないものとして結論付けます。
要するに、否定文を使って間接的に比較をしたいのなら「ほど」を使い、「より」はどんな場合にでも使うことができます。
「最も良いものを選びなさい」ってずるい
最初の問題に戻ります。
20.君( )信頼できる人はいない。
[A] ほど
[B] より
[C] だけ
[D] さえ
普通試験では問題を出す前に「選択肢の中から最も良いものを選びなさい」と言われます。最も良いものとは、仮に答えが2つあったとしても最も適当だと思われる選択肢を選びなさいと言っているわけで、今回はそれが問われているんだと思います。
私がBの「より」でもいいと思ってしまったのは、「より~ない」の形を正しい日本語として認識していたからではありますが、文末に否定形がある以上、「より」よりも「ほど」を選択するべきだという出題者の意図があるかもしれません。
こういう問題が出てくると、仮に日本人だろうと満点取れなくなってしまいますよね。
まとめ
「より」の後ろは肯定形でも否定形でも構わない。
「ほど」の後ろは必ず否定形が来る。
正しいと思われる選択肢が2つ以上あったとしても安直に選ばずに、文法から見てどれが最も適当かをちゃんと見極めましょう。
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