令和5年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅲ 問題6解説

問1 行動中心アプローチ

 行動中心アプローチという用語は今回はじめて聞きました。今のところこれに関する参考文献にあたってないので詳しいことは分かりません。
 とりあえず私が選んだ答え2を暫定的に示しておいていったん飛ばします。あとで勉強したらこちらに戻ってきます。
 詳しく書かれている本などご存じであればコメント欄で教えてください!

問2 真正性

 ここで言われている真正性とは、その活動が現実の言語使用状況をどれだけ反映しているかの度合いのことです。例えば、「役所の書類に必要な情報を書き込もう」みたいな練習をするとして本物の書類(コピーなどでも)を用意してそれに書かせたら、現実の場面で使うものを活動に取り入れているので真正性が高いです。ここで教師が作った架空の書類に書かせたら真正性は低くなります。

 1 メール普通はキーボードを使って書きます。手書きでやるのは真正性が低い
 2 ドラマの会話を書き起こす? そんな活動は現実の場面で行われないので真正性が低め
 3 現実場面に近い状況をロールプレイで生み出していますが、モデル会話を使うことで真正性が低くなってます
 4 これが答え。ニュースを見て映像などで内容を理解するのは、現実場面でもニュースを見る人なら全員やってること。真正性が高い活動と言えます。

 答えは4です。

問3 日中同形語

 日中同形語とはその名の通り、日本語と中国語の漢字のうち同じ形のものを指します。例えばよく挙げられる例として日本語の「手紙」は中国語の「手纸」があり、後者はトイペのことを指す点で比較されます。同形だと学習者は同じ意味だろうと思い、言語間の距離が近いものだと思い込みます。そうすると転移が生じる可能性が高まります。しかし日本語の「手紙」と中国語の「手纸」は同形でありながら意味が違います。そこで負の転移が起こり誤りが生じるわけです。
 (ここでいう「同形」は完全同形ではなく、ざっくり同形と呼べるというレベルの同形を指します。)

 選択肢1
 中国語母語話者は初級の段階で有声音と無声音の弁別がしにくい傾向が見られます。例えば「ありがとう」を「ありがどう」と言ったりします。
 「たいがく」を「だいがく」と有声化して発音するのは中国語母語話者に見られそうな誤りです。
 しかしこれは「退学」という語が原因で生じているのではなく、有声・無声で対立しているか、有気・無気で対立しているかという音韻体系が異なることによる誤り、すなわち音韻に関する負の転移による誤りです。
 この選択肢は間違い。

 選択肢2
 これが答えです。
 中国語では、例えば教室で先生に質問するときに「老师我有问题(先生質問があります)」と言い、先生も質問があるか聞くときに「有问题吗(質問がありますか)」と言います。一方、何か事態にトラブルがあったり、正常じゃない状態にも「问题」が使えます。例えば「他身体有问题(彼の身体は問題がある)」など。
 一方、日本語の「問題」は何か事態にトラブルがあったり、正常じゃない状態のときにしか使えません。先生に質問があるときに「先生、問題があります」と言うことはできません。
 この選択肢の学習者は、「問題」と「问题」は日中同形語だから意味も同じだろうと踏んでます。そして「問題がある」と言ってます。その表記が同形であることを原因とした語彙の領域に関する負の転移です。この選択肢は答えです。

 選択肢3
 「一人」の読み方が「ひとり」だと知らなかっただけ。
 これは言語間エラー(負の転移)ではなく言語内エラー。「一人」の読み方についての勉強不足による誤り。
 この選択肢は違います。

 選択肢4
 「効」と「效」は確かに日中同形語ですが、意味は同じなので意味的な誤用は生じません。
 表記に関する負の転移は見られますけど。

 答えは2です。
 ※コメントでのご協力ありがとうございました!

問4 帰納的アプローチ

 新しい学習項目を教えるとき、どうやって教えるかを帰納的アプローチ演繹的アプローチの2つに分ける見方があります。

 帰納的アプローチは、まず教師がたくさん例文を提示して学習者に文法規則を発見させるプロセスをとります。教師は直接文法規則を教えたりはしません。あくまで学習者に気づかせるようにします。例えば、テ形を導入するときに次のように辞書形とテ形を提示したとします。

 掘 - 掘って
 勝 - 勝って
 買 - 勝って

 これを見た学習者は「る」「つ」「う」で終わる動詞はテ形で「って」になるんだ、という規則を発見できるかもしれません。先生はそういう発見をさせようと頑張ります。

 一方、演繹的アプローチは、教師がまず文法規則をちゃんと教えて、それから教えた文法規則を用いて練習をしたりします。テ形の例でいえば、まず「る」「つ」「う」で終わる動詞はテ形で「って」になりますよーって教えてから、じゃあ「狩る」は? 「知る」は? みたいな練習をさせます。

 
 選択肢1
 これが帰納的アプローチの記述。答えはこれです。
 教えられるよりも自分で気づいたほうが記憶に残りやすいのはよく知られています。

 選択肢2
 帰納的アプローチは分析的に文法を理解できますけど、モチベーションが高められるとするは言い過ぎ。
 帰納的アプローチが好きな学習者もいれば、文法規則先に教えてよみたいな演繹的アプローチが好きな学習者もいます。その好き嫌いによってモチベーションの高低が生まれるんじゃない?
 この選択肢は間違い。

 選択肢3
 帰納的アプローチは文法説明をしませんので、文法説明にかける時間が短くて済むみたいな指摘はあたりません。
 この選択肢は間違い。

 選択肢4
 帰納的アプローチは文法の説明をしないから、用意するのは文法の説明方法だけという内容は矛盾してます。
 この選択肢は間違い。

 答えは1です。

問5 社会と接点を持てるような具体的な課題

 「社会と接点を持てるような具体的な課題」ってのもなんだか… Y先生抽象的なアドバイスするなあ。

 1 国際交流団体との接点があるから適当
 2 これだけ新聞の要約文を書くだけで社会的な接点がない
 3 SNSとの接点があるから適当
 4 友人との接点があるから適当

 答えは2です。




2023年10月29日令和5年度, 日本語教育能力検定試験