訓練上の転移とは?
訓練上の転移(transfer of training)
訓練上の転移(transfer of training)とは、教室での言語教育における教師の適切でない指導が学習者の第二言語習得にマイナスの影響を与えることです。訓練の転移とも言います。訓練上の転移によって学習者はエラーを産出することがあり、この種のエラーを大関(2010: 5)は教師誘導の誤り(teacher induced error)と呼んでいます。
(1) #雨に降られた。
(2) #客に来られた。
(3) *財布に落ちられた。
例えば、日本語では自動詞も受身にでき、その場合迷惑の意味が現れると指導し、その例として(1)を学習者に提示したとします。この指導を学習者が信用した場合、(2)や(3)のような自動詞の受身文を産出かもしれません。(1)(2)は文法的には正しいですが、語用論的に誤りになる可能性があります。傘を持たずに建物から出てきて雨が降っているのを目にした状況で「雨に降られた」と言うのは文法的に正しくても不自然な表現に感じられる人もいるはずです。客が来てほしくないタイミングで客が来たときは、私の内省では「客に来られた」というよりも「客が来てしまった」などと言う方がより自然に感じます。このように教師の指導が誤用を作り出してしまうこともあります。
参考文献
大関浩美(2010)『日本語を教えるための第二言語習得論入門』,くろしお出版,5-6頁
迫田久美子(2002)『日本語教育に生かす第二言語習得研究』,アルク,30-31頁
小柳かおる(2004)『日本語教師のための新しい言語習得概論』,スリーエーネットワーク,56頁