令和4年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅲ 問題2解説

問1 強い格

 格助詞に「は」をつけて例文を作ってみましょう。

 1 「ここからは出られません」のように「からは」の文は作れます
 2 「彼女とは別れました」のように「とは」の文は作れます
 3 「ハサミでは切れません」のように「では」の文は作れます
 4 「ケーキをは食べました」とは言えません。ヲ格成分を「は」で表すときは「を」が消えちゃいます。

 実は「を」だけではなくて「が」もそうです。「私がはやりました」とは言いませんよね。「を」と「が」は「は」をつけると消えてしまう性質があるんです。これは強い格と呼ばれてるやつですね。強い格についての知識があればこの問題は例文を作る必要なく解けます。

 したがって答えは4です。

問2 対象の「が」

 これは解いてて楽しかった問題です。
 そもそも対象って何だろうかってところから始めましょう。「目的語」って言ったほうがあー分かるそれ!って思う人がいるはずです。「目的語」は結構広く知られてる言い方なので。でも試験では「目的語」って言葉は出てこなくて、「対象」と言います。

 私は ケーキ 食べる。
 私は ケーキ 嫌いだ。
 私は あいつ 憎い。

 他動詞は対象を「を」で表します。「好き」「嫌い」「憎い」などのイ形容詞、ナ形容詞はその対象を「が」で表します。
 こんなのが対象。それを探してみましょう。

 選択肢1
 これはハガ構文なのでややこしくなってる気がするんですが… 「ナポリが本場だ」だけを見てみましょう。これは「私が高橋だ」と同じ構文です。これはAとBが同じものであることを述べる同定文であり、このときのAはBの主体にあたります。だから「ナポリ」は主体であり、対象ではありません。

 選択肢2
 「嫌い」の対象は「が」で表します。「パセリ」が「嫌い」という感情が向けられる対象。これが答え。

 選択肢3
 「細い」対象は「ウエスト」じゃないです。「細い」という性質を持っている主体が「ウエスト」であって、この「が」は主体。対象ではありません。

 選択肢4
 「マグロが名物」は選択肢1と同じで同定文。「マグロ」は主体です。

 したがって答えは2



問3 主体や対象以外って?

 問2で主体や対象って話があったので、この問題もいけるはず。

 選択肢1
 「広い」という性質を持った主体が「このグラウンド」だから、これは主体の例。
 主体に「は」をつけていますから、下線部Cに適合しません。

 選択肢2
 「出発する」という動作を行う主体が「彼」だから、これも主体の例。
 主体に「は」をつけてるからこれも間違い。

 選択肢3
 「行く」という動作を行う時間が「昨日」です。これは主体でも対象でもなく時。
 時に「は」をつけているからこれが正しい答えです。

 選択肢4
 「捕まえました」という動作の対象が「犯人」。
 対象に「は」をつけてるからこれは間違い。

 したがって答えは3です。

問4 従属節に「は」が使えるやつ

 「は」を使いながら、各選択肢の文法を使いながら、何か例文を作ってみましょう。

 選択肢1

 私行くけれど、彼は行かない。
 私行くし、彼も行く。

 従属節に「は」を入れて例文を作ることができました。これが答え。

 選択肢2
 「雨は降ったら、涼しくなる」や「雨は降れば、涼しくなる」みたいにダメな例文が作れます。
 「ドアは開けたら閉めろ」みたいな例も作れたんだけど、これは従属節が「開けたら」で、主節が「ドアは閉めろ」なんだろうと思います。「ドアは開けたら、ドアを閉めろ」っては言えない。従属節の主節に対する従属度が高く、従属節は主節の主題を利用しています。だから従属節内に主題の「は」を入れる必要はないんだろうと思われます。

 選択肢3
 「雨は降ったとき、私は外にいました」とか「雨は降ったあと、虹が出ました」とか、「は」が入れられない例文があります。

 選択肢4
 「私は彼女のように落ち着いている」のような例文が作れましたが、これは従属節が「彼女のように」で主節が「私は落ち着いている」ですね。だから従属節に「は」が含まれているわけではありません。より明確に「私は彼女のように、私は落ち着いている」みたいにいったとき従属節の「私は」は不要です。この従属節は主節に対する従属度が高いので、従属節内でわざわざ主題の「は」を示す必要がないようです。「~ほど」も同様に「私は痛いほど、私はあなたの気持ちが分かる」とするとやっぱり変。従属節に「は」を入れることはできませんでした。

 したがって答えは1です。

問5 「は」の文法的特徴

 選択肢1
 分裂文で私が必ず思い出すのが「私が飲みたいのは、コーラだ」です。これは「私はコーラを飲みたい」という元々の文があって、この文の中の強調したい「コーラ」を取り出し「私が飲みたいのは、コーラだ」となっています。こういうのを分裂文と言います。
 ここでいう焦点とはこの文の一番言いたいこと。強調するために「コーラ」を取り出して分裂させたわけですから焦点は「コーラ」。でもこの文の主題は「私が飲みたいの」ですね。「は」で示されている部分は焦点である「コーラ」ではありません。だからこの選択肢は間違いです。

 選択肢2
 例えば話の転換で「そういえばあの2人別れたの?」みたいに、それまでになかった話題を提示するときは新しい話題を主題にする必要があるので「あの2人」に「は」をつけて主題化します。新しい話題を設定するのに用いられます。じゃあこれが答えかというとちょっと微妙で…
 この返答として「あの2人もう別れたみたいだよ」とかが考えられます。この「は」は相手の話題をそのまま引き継いで、まだ私は「あの2人」を話題について話していますよーっていう合図でもあります。だから「は」は新しい話題を提示する機能もあるし、話題を継続させる機能もある。この選択肢は正しいようで不十分。「場合にも用いられる」だったらよかったんだけど。

 選択肢3
 取り立て助詞とは文中にない情報を暗示する助詞です。「私は野菜は好きです」なんて言うと、何だか「肉は嫌い」みたいな意味が感じられませんか? これは「は」が持つ対比の意味です。そしてこの「は」は対比の意味を持つ取り立て助詞。だからこの選択肢は間違いです。

 選択肢4
 「どこは」「何は」「いつは」「なぜは」という感じで例文が作れない。疑問詞はそれが何か分からないから疑問なのであって、何か分からないものを文の主題(テーマ)にすることは難しいようです。だからこの選択肢が正しいです!

 したがって答えは4です。




2023年7月2日令和4年度, 日本語教育能力検定試験