令和4年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ 問題10解説

問1 ナチュラル・アプローチ

 さて、ナチュラル・アプローチですね! これが来たら絶対思い出すべきなのはモニターモデル。ナチュラル・アプローチは、アメリカの応用言語学者クラッシェン(S.D.Krashen)のモニターモデルを理論的基盤とし、テレル(T.Terrell)によって提唱された教授法なんです。ここには密接な関わりが。これを知っていれば答えは1秒即答。

 1 シューマンが提唱した異文化への態度が第二言語学習に影響を与えるという理論
 2 クラッシェンが提唱した第二言語習得に関する5つの仮説の総称
 3 人は言語処理レベルが単純なものから習得し、複雑なものほど後に習得されるという理論
 4 どのように話し方を調整しているかに関する理論

 答えは2です。

問2 インテイク

 セリンカーらは第二言語習得は「気づき → 理解 → インテイク → 統合」のプロセスを経ると提唱しました。ここでいうインテイクとは、注意を向けたり、気づいたりして理解されたインプットのことです。インテイクはその時点の中間言語の中に統合され、中間言語の再構築を促します。

 1 たぶんチャンク
 2 長期記憶
 3 インテイク
 4 これはなんだろ

 したがって答えは3です。



問3 ティーチャー・トーク

 ティーチャートーク日本語教師が日本語学習者に使う話し方。「日本語教師のための新しい言語習得概論」ではティーチャー・トークの一般的な7つの特徴(Chaudron,1988)が挙げられています。そのうち選択肢と関係するのは次。

(7)教師はより頻繁に自己反復する傾向がある
(6)質問文より多くの平叙文、陳述文が使用される
(5)従属節化の度合いが低い
(2)話者のプランニングによるものかもしれないが、ポーズがより頻繁に現れ、また長めである

 それぞれ選択肢1~4の内容と対応しています。

 選択肢1
 これはよくある。例えば先生が「私の趣味はダイビングです。ダイビング」みたいに、ちょっと「ダイビング」って難しい単語なんでそんなときは2回言って考える時間を与えたり、ちゃんと聞き取らせようとします。これは上述の(7)と内容が同じなので正しい選択肢です。

 選択肢2
 平叙文も質問文もどっちも使うでしょ。と思ったんだけど! 上述の(6)には平叙文のほうが多く用いる傾向があると書かれています。したがってこの選択肢は間違い。

 選択肢3
 できるだけ簡単な言い方をするのがティーチャートークなので、「家の近くで男の人が暴れてて、そのうち警察が来て連れていきました。」みたいな文は「家の近くで男の人が暴れてました。しばらくすると警察が来ました。そして警察は男の人を連れていきました。」みたいに単文に分ける傾向があります。(もちろん学習者のレベル次第ですけど)
 これは上述の(5)と逆のことを言っているので間違い。

 選択肢4
 考える時間を与えるため、内容・意味の切れ目をちゃんと示すためにポーズは多くなります。上述の(2)とは逆のことを言っているので間違った選択肢。

 したがって答えは1です。
 ※コメントでのご協力ありがとうございます!

問4 インプット仮説への批判

 クラッシェンは理解可能なインプット(i+1)だけを与え続ければ言語は習得できるんだっていうインプット仮説を提唱しました。でもインプットばっかり与えるとどうなるでしょう。話す機会がないからコミュニケーションができなくなります!
 だからインプット仮説はその後批判を受けて、理解可能なインプットだけでなく相互交流も必要だねっていうインターアクション仮説や、理解可能なインプットだけでなく理解可能なアウトプットも必要だねっていうアウトプット仮説が出てきました。

 で… インプットだけじゃなくてアウトプットも注目されてる理由ってなんだろう。
 根拠がよく分からないから解説不能。
 答えは1だそうです。そうなんだ?

問5 アウトプット仮説

 先生が学生に訂正フィードバックを与えると、学生は正しい言い方を言おうとして単語を変えたり、言い方を変えてアウトプットしなければならなくなります。このアウトプットは強要アウトプットと呼ばれていて、アウトプット仮説では強要アウトプットで相手が理解可能なアウトプットをすることが言語習得を促進すると考えます。

 で、この強要アウトプットがなぜ言語習得を促進するかというと、強要アウトプットには次の3つの機能があるからと言いました。

気づきの機能 言いたいことがあるのに言えないとき、「私はこれが言えないんだ」と気づくことができます。そのギャップは新しい知識を取り入れようとするきっかけになり、言語習得が促進されます。
仮説検証の機能 アウトプットに対する相手の反応を見ることによって、どのような言い方が正しいのか、どんな言い方なら通じるのかが分かり、自分の持っている中間言語の正しさを仮説検証する機会が得られます。
メタ言語的機能 相手に伝えようとしたけど通じなかったとき、相手に通じるアウトプットが何なのかを探そうとします。そうして繰り返しアウトプットを修正することが自分の言語使用を内省することに繋がり、メタ言語的意識を高め、習得を促します。

 ここまで分かれば問題が解けます。

 1 メタ言語的機能
 2 気づきの機能
 3 
 4 仮説検証の機能

 選択肢3はこの3つの機能のどれでもないです。
 したがって答えは3です。




2023年8月30日令和4年度, 日本語教育能力検定試験