「させていただく」の使い方は? 違和感を回避するポイント

 「させていただきます」が日本語の中に溢れてるって言われてます。溢れてるって言い方はたぶん多くの人が悪い意味として受け取ってる気がします。私も違和感あるなーって表現はいくつか思い出せるけどそれらは実際結構使われてるし、私も仕事とかメールでは何かと役に立つので使っています。緊張すると回避したいのにうっかり言っちゃうってこともまあまあ。

「させていただく」は相手に許可を取り自分が恩恵を受けることを表す

 「させていただく」の基本的な意味は「させて」と「いただく」に分けて考えれば分かりやすいです。

 (1) ちょっと相談させて。       <許可>
 (2) 私に言わせて。          <許可>
 (3) 本番前に練習させて。       <許可>
 (4) ご意見をいただきました。     <恩恵を受ける>
 (5) プレゼントをいただきました。   <恩恵を受ける>
 (6) ありがたい言葉をいただきました。 <恩恵を受ける>

 誰かが「疲れているみたいだから、休ませてあげよう」と言ったとき、この「させる」は相手に対する<許可>を表します。例文(1)~(3)の「させて」も相手に対して「~させてほしい」「~させてください」と言ってて、これもまた<許可>です。「いただく」は「もらう」の謙譲語で相手から<恩恵を受ける>ことを表します。目上から、あるいは恩恵を与えてくれる人を立てて例文(4)~(6)のような言い方を使います。
 なのでこの2つが合わさった「させていただく」は基本的に ①相手の許可を受けて自分側が何かを行い②それによって自分が恩恵を受ける、という場面で用います。「させていただく」はこの2つの程度をどのくらい満たしているかによって適切だと感じられる度合いも変わってきます

 

「させていただく」の許容度を見てみよう!

 「させていただく」は次の2つの条件を満たした場面で使うと許容度が高まりますが、満たしているのか満たしていないのか微妙で不完全な場合、どちらか一方だけ満たしてる場合、あるいはどちらも満たしていない場合だと許容度が下がり、私たちは不自然だと感じます。

 ①相手の許可を受けて自分側が何かを行う
 ②それによって自分が恩恵を受ける

 というわけで色々例を挙げて違和感があるかどうかアンケートとってみました。

不自然、違和感 自然、問題なし
タレントなどが公の場で
「○○さんと結婚させていただくことになりました」
216人
(72.0%)
84人
(28.0%)
俳優がドラマ制作発表会で
「〇〇役を演じさせていただきました、佐藤一郎です」
120人
(40.0%)
180人
(60.0%)
退勤時に
「お先に帰らせていただきます」
105人
(35.0%)
195人
(65.0%)
プレゼンの場面などで
「ご説明させていただきます」
66人
(22.0%)
234人
(78.0%)
メールなどで
「悪天候のため、日程を変更させていただきます」
29人
(9.7%)
271人
(90.3%)
サイト内の告知で
「ご来館時、体温を含め体調を確認させていただきます」
27人
(9.0%)
273人
(91.0%)
インターンシップ参加後に
「とても貴重な経験をさせていただきました」
20人
(6.7%)
280人
(93.3%)
依頼の場面で
「工場内を見学させていただけませんか?」
16人
(5.3%)
284人
(94.7%)

 自然だと答えた割合が最も高い「工場内を見学させていただけませんか?」は典型的な「させていただく」の使い方をしています。工場の責任者などに工場を見学する<許可>を求めていて、その許可が下りたら実現できる工場見学によって話し手は新しい知識を得ることができたりと恩恵を受けられます。上記2つの条件を綺麗に満たしているので不自然だと感じる人が少なかったのでしょう。

 最も不自然だと答えた割合が多い「結婚させていただくことになりました」は2つの条件を満たしているとは考えにくいです。例えば、相手の両親に挨拶しにいく場面で相手の両親が結婚を<許可>した場合、結婚することによって自分の願望が満たされますから「結婚させていただきます」と言いやすくなります。でも実際結婚の<許可>に関わらない記者などの第三者に向けて「結婚させていただきました」と言う必要はなくておかしく感じるんだと思います。
 加えて、一般に結婚は2人の合意によるもので、結婚する2人のうちどっちか一方の<許可>で成立しているとは考えにくいです。「○○さんと結婚させていただくことになりました」においては〇〇さんの<許可>で結婚に至ったわけでもないからやっぱり条件を満たしていません。

 <許可>をする人がそもそもいなかったり、その存在がはっきりしない場合、あるいはそれによって自分がより恩恵を受けるとは考えにくい場合に違和感を覚える人が多くなります。



「させていただく」は緊急避難所的な謙譲語

 動詞を謙譲語にするとき、「行く」に対する「伺う」、「見る」に対する「拝見する」、「あげる」に対する「差し上げる」のように特定形の動詞が存在していれば特に問題ありませんが、「結婚する」とか「飾る」とか、多くの動詞は特定形がありません。特定形がない動詞は謙譲表現「お/ご~する」を使えば謙譲語にできるけど、これは相手のためにしてあげることを謙る場合に使いやすい性質があって、その相手がはっきりしない例文(11)(12)はおかしくなってしまいます。

 (7) 明日、伺います
 (8) 資料を拝見します
 (9) 内容について説明します。 (「説明する」の向かう先がいる)
 (10) 荷物を持ちします。    (「持つ」の向かう先がいる)
 (11)私たちは結婚します。   (「結婚する」の向かう先がいない) ※自己完結
 (12)ここに飾りします。    (「帰る」の向かう先がいない)   ※自己完結

 じゃあ「結婚する」とか「飾る」とかは一体どうやって謙譲語にするんだろう? というところで現れた救世主が「させていただく」。どんな動詞でもとりあえず「させていただく」をつけておけばとりあえず謙ることができて、丁寧さを高められます。これが「させていただく」は日本語の中に溢れている秘密!

 

「させていただく」に対するみんなの意見

 色々意見をいただいたので紹介します。

 ●こちらの使用は、私自身も日々迷います。間違えている自覚、違和感はあるものの、咄嗟に用いてしまうこともしばしばございます。
 ●芸能人のあの言い方はいつも違和感を覚えます。
 ●よく問題になりますがへりくだっているし仕方ないと思いますが、自分は「~する」に変えています
 ●何かを他の方から、提供してもらったり、こちらから何がした時に伝えたい時に使っている
 ●自分主体で行動したことは、『させていただく』を使うようにしています。しかし、最近は『させていただく』を使わなくても良い時でも使った方が丁寧に聞こえるため、わざと『させていただく』と言ってしまうこともあります。
 ●相手から何か許可を受けたうえでの行為だとするとさせていただくという言い方のほうが良いのかとおもいますが、自分の起こした行動には違和感があります。
 ●特にテレビでは文章をこの「させていただく」を使うタレントが気持ち悪いほど多い。この10~20年ほどではないかと思う。誰に許可を得なければならないわけではないものでもこの表現を使うことがあり、「自分の意志でやってんだろう?」と突っ込みを入れたくなる。一つの文章に複数の「させていただく」を使うことも多く、聞いていて気持ち悪い。
 ●頂くことなので相手の了承を得る事だと思います。ですが取り敢えずいただくを付けて話せば丁寧に聞こえるので使う事が多いと思います
 ●自分自身に権利があることに対して「させていただく」という表現に違和感を感じます。相手に対して同意を得る必要がある場合に使う言葉かと思います。

 「させていただく」は2つの条件を満たしたときに使いやすいという文法的な話をしたけど、2つの条件を一見して満たしてないような場面でも使われるようになってきて、それはそれで使用実態。受け入れられるかは人によって違うし、文法的に間違ってるって言ったってもう後戻りできなくなっちゃいました。

 ●敬語がよく分からなくて不安になって、とにかく丁寧そうな言葉をたくさんつけたら安心できるんだろうな。と思います。
 ●謙っていて、相手をもちあげる感じがします。 好印象な言葉です。
 ●自分は、「する」の丁寧語・謙譲語という認識なので、上記用例は、全て違和感はありません。 
 ●丁寧なな表現だと感じる
 ●日本人特有の下から目線の相手を敬う使い方なので特に問題は無い
 ●どれも違和感を感じない。
 ●丁寧に感じるので使用して悪い印象は受けにくいが、使う場面が難しい

 言葉の中に「させていただく」のような丁寧な言葉をたくさん入れておけばとりあえず安心っていう意見があって、これには納得させられました。相手を高めたいけどどうすればいいか分からないからとりあえず「させていただく」を使っておけ! と、やっぱり緊急避難所的な使い方がされているみたい。どれもまったく違和感を感じないって人もいて、好印象な人もいます。

 

「させていただく」は二重敬語じゃないよ!

 「させていただく」は二重敬語だから文法的に間違いだって意見もありましたが、それは違います! 二重敬語じゃないんです。

 (13) 持つ ⇒ お持ちになる ⇒ お持ちになられる   (二重敬語)
 (14) 持って+いる ⇒ お持ちになって+いらっしゃる  (敬語連結)
 (15) 見学させて+もらう ⇒ 見学させて+いただく   (「もらう」の謙譲語「いただく」)

 二重敬語は一つの語に同じタイプの敬語を2つつけたもの。「待つ」に尊敬表現「お~になる」をつけて「お持ちになる」、これに尊敬表現「~られる」をつけて「お持ちになられる」になったらこれは二重敬語。「持つ」に2つの尊敬語をつけてるから。でも、「持っている」に対する「お持ちになっていらっしゃる」は二重敬語じゃないです。「持つ」を「お持ちになる」、「いる」を「いらっしゃる」にして、ただそれぞれの語に一つの尊敬語をつけたものを連結しただけ。これは敬語連結って呼ばれます。敬語連結は文法的に正しい表現です!

 「見学させていただく」の原型は「見学させてもらう」で、この「もらう」を謙譲語「いただく」にしただけ。二重敬語でも敬語連結でもなく、まあ普通の言い方です。

 

まとめ

 「させていただく」は使う場面によって不自然だと思う人がいますけど、話し手は丁寧さを高めたいから使ってるだけなので悪気なんてないですきっと。敬意だし。そのあたりお互い理解し合えたらいいと思います。




2022年9月9日日本語TIPS, 日本語のいろんなお話