「厳しい」を短縮した「きびい」って聞いたことある?

 この間友達とビリヤードやってたときの話。的玉の配置が悪くて難しい局面で友達が「これきびいな」と言いました。毎週会ってるくらいの、しかも小学校から付き合ってる友達から初めて聞く言葉だったんです。いったいどっから持ってきた言葉?

語形を短縮する造語法の一種<縮約>

 新しい語を作り出す方法に縮約(abbreviation)があります。これはアルバイトを「バイト」と言ったり、就職活動を「就活」と言ったりして語形が短縮されるタイプの造語法で、形容詞に目を向けると「うざったい」が「うざい」、「気持ち悪い」が「きもい」になるような例が見られます。縮約はその省略される部分で分類があって、「うざい」「きもい」はそれぞれ「うざったい」や「きもちわるい」の語中を省略しているので語中省略型です。形容詞の省略形とか短縮形とか呼ばれるみたいですが、この言い方だとただ語尾の「い」を抜いた「おもしろ!」とか「うざ!」とかも含まれそうなので、ここではこれらと区別するために形容詞の語中省略形と呼ぶことにします。

形容詞の語中省略形は意外にたくさんある!

 次のは代表的な形容詞の語中省略形たちです。それぞれ200人に違和感なく聞いたり使ったりできるかアンケートを取りました。(2022/08/23)

語中省略形 省略前の形式 違和感ないと答えた人 備考
うざい うざったい 185人(92.5%)
きもい 気持ち悪い 178人(89.0%)
めんどい 面倒くさい 174人(87.0%)
むずい 難しい 173人(86.5%)
きしょい 気色悪い 154人(77.0%)
けばい けばけばしい 153人(76.5%)
はずい 恥ずかしい 130人(65.0%)
やわい 柔らかい 120人(60.0%) 方言だそう
むさい むさ苦しい 81人(40.5%) 方言だそう
なつい 懐かしい 78人(39.0%)
こまい 細かい 65人(32.5%) 方言だそう
まぶい 眩しい 52人(26.0%)
きびい 厳しい 28人(14.0%) 意外と少なかった
あぶい 危ない 18人(9.0%)
たのい 楽しい 8人(4.0%) ブラフとして選択肢に
きまい 気まずい 7人(3.5%)
うれい 嬉しい 6人(3.0%) ブラフとして選択肢に
さびい 寂しい 5人(2.5%) ブラフとして選択肢に
わかい 分かりやすい 5人(2.5%)
かない 悲しい 2人(1.0%) ブラフとして選択肢に
わずい わずらわしい 1人(0.5%)

 私が聞いたことがあるものと調べて出てきたもの、さらにブラフとして存在しないと思われる「たのい」「うれい」「さびい」「かない」を加えました。結果、聞いたことがあるものは大体上位でブラフとして作った選択肢は予想通りみんな違和感大ありだったようです。肝心の「きびい」は14%しかいなくてまだまだ伸び盛りでした

 ※「おもろい」は大阪の方言なので除外しました。
 ※「えぐい」は「えげつない」の短縮形かどうか確信がなかったので除外しました。
 ※「やわい」「むさい」「こまい」は方言ですって後から意見来て知ったので「方言だそう」と書いておきました。



縮約される語にはある程度共通点あり!

 もとの語が比較的長くて、かつそれがよく使われる場合に語形が短縮されることがあります! 拍数が少ない語をそれ以上短縮する必要はないし、拍数が多い語であっても頻繁に使わなければ短縮する必要もなくて、したがって短縮はある特定の集団(若者、職域、専門分野など)の中で起きやすいんです。という観点からアンケート結果の上位陣を見てみると… 「うざい」「きもい」「めんどい」「むずい」「きしょい」「けばい」「はずい」などは確かにもとの語が長くて、しかもわりと使用頻度は高そう。最下位の「わずらわしい」は語形は長いけど使用頻度はそれほど高くないので短縮形が広まらないんでしょう。それから、「こまい」「まぶい」「きびい」みたいに4拍語が3拍語になっただけのものは縮約の恩恵があまり無くて縮約自体を避けているのかも。

 また、縮約語の語形が既にある他の語と音韻的に競合する場合、その短縮は起きにくいはずです。

 (1) 恐ろしい   → おそい (「遅い」と競合する)
 (2) うっとおしい → うとい (「疎い」と競合する)
 (3) 厚かましい  → あつい (「暑い」などと競合する)

 こんな具合にいろんな要因が重なって形容詞の語中省略形が作られていってます。

 

アンケートで自由に意見を書いてもらいました!

 ●使い方によっては全く何かわからなくなるなと思う
 ●自分は理解して使っても相手には伝わらない事がある
 ●意味が伝わりにくい、日本語が崩れているような気がする
 ●若い人が使いイメージ
 ●小学生の子どもが周りに影響され、よく使っているため、むずいなど、以前は使っていないかったのに、私も使用している時があり、良くない傾向だとは思っている。きれいな日本語で話していきたいし、子供にも話させたい。
 ●別の意味にも捉えられる言葉は省略する必要がないと思う
 ●若者が使う言葉は分かりにくいです。
 ●近年はなんでも短縮する傾向にあるけど、なんでもかんでも短縮するのはあまり好きでは無い。必ずしも相手に通じるとは限らないし、それを知らないからと言って無知ということでは無いのに勘違いの空気が漂ったりするので良く思えない。
 ●言葉は時代によって変わっていくものだとは思いますが、自分は誰が聞いても分かるような言葉を使いたいと思う。
 ●「きまい」とか「わかい」とか「うれい」は短縮することによって違う意味にとられかねないので、そのまま使ったほうがいいと思います。「こまい」とか「やわい」は短縮している意識はなくて、方言で使っているので違和感がありません。
 ●子供から言われたりします
 ●パッと聞いただけではどの形容詞の事なのか分からない言葉が増えて来た気がします。
 ●変化についていけないこともあります。
 ●短縮して内容がわかるものなら使います。
 ●あまり聞いたことがないので、使うべきでは無いと思います。
 ●形容詞の短縮形は、私個人方言の一種として使ってきました。上記のうち、やわい、むさい、こまいがその例です。
 ●短くすると余計にわからなくなる
 ●仲良しの友達や親しい間柄で話す言葉では上記のものでも問題ないと思います。使う場所を間違えなければ自分たちだけの短縮形を発案するのも楽しいと思います。
 ●日頃親しい人と話すときなどに使う分には全く問題ないと思いますが、ビジネスや公の場ではあまり頻繁に使わないほうが、 自分の品位を保つという意味で良いのではないかと思っています。

 
 参考文献
 『語彙の研究と教育(下)』 国立国語研究所(1985)




2022年8月25日日本語TIPS, 日本語のいろんなお話