「負け始めた」って違和感ありませんか?

 何気なく見てたネットニュースの「負け始めた」が気になって気になって!

 「負ける」は瞬間動詞。瞬間動詞って動作は一瞬だから、「負け始める」とか「負け終わる」とかでその動作局面をフォーカスするのは難しいと思うんです。逆の「勝ち始める」とか「勝ち終わる」とかもなんかあんまり聞かないし…。「食べる」みたいな継続動詞だったら食べ始め、食べてる最中、食べ終わりみたいにいろんな局面取り上げられるんですけど。どうしてもその一瞬の動作にフォーカスするなら「~つつある」を使って「負けつつある」とか言ったほうがいいんじゃないかなーと思いました。というわけでアンケート!

 

「負け始める」に関するアンケート結果

 2022年8月17日、日本語母語話者100名にアンケート。結果はこう。

 だいたい半分半分か~ 自然だと思う人のほうがちょっと多いくらい。
 自分はおかしいと思っていても、アンケートとってみるとこうなるから楽しい。
 追加で「何か思うことがあれば書いてください」の項目も設けたので、いろんな人の意見をまとめておきます。

 

アンケートで自由に意見を書いてもらいました!

自然な表現」と答えた人たちの意見

 ●今まで連戦連勝で、負けるような不安な点がなく、意外だということなら違和感はないです。
 ●表現は難しく、当たり前と思っていたものが実は間違っていた。 そのような事が起こります。 しかし、その間違いがきっかけで認められた言葉も存在し 言葉も進化していると実感しました。
 ●完全な「自然な表現」の一文とは思いませんが、これまで大きな戦争で負けた歴史が少ない大国ロシアが、いよいよ劣勢に立たされていることを表現している文ではないかと想像します。また、(核を使わせないため)刺激をしない表現方法でもあるのではないかと思います。
 ●今まで負けていないが、やはり負けてきたというような表現。やはり予想通りみたいな。
 ●普段使うことはないが上記の文章では不自然に感じない。
 ●特にありません。英国防相の発言のようなので、簡潔で分かりやすい見出しにするために、筆者はそう和訳されたのだろうと感じました。
 ●言われてみれば違和感があるような気がするが意味はなんとなく伝わるのでそこまで不自然でもない
 ●耳に馴染みは無いが、明確な勝敗はついてない状況下においては間違いでも無いのかと思いました。物語のキャッチコピーなどでは「終わりの始まり」なんて表現もあるので、日本だから出来る表現かなと思います。
 ●難航している のがまだしっくりきます
 ●戦争には、個々の戦闘の勝敗と、終結段階の両国のパワーバランスによる勝敗があるので、前者の負けの数が増えてきたという意味なら、違和感はない。 ただ、今回のロシアの侵攻は、当初から(情報操作の可能性はありつつも)あまり勝っていたように表現されていなかったので、その意味の不自然さはある。
 ●上であるか下であるかだけなので本来はどちらでも大丈夫。ただ基本的に登っていくことに使われがちだから違和感を感じているだけ。
 ●どんどん劣ってきて負けの始まり、終わりの始まりが見えてきた感じがした
 ●「負け始めた」という表現は状況が変わったのを強く印象付けます。違和感というよりも敢えてやっている感じです。

 

違和感あり」と答えた人たちの意見

 ●言いたいことは伝わりますが、「始めた」は途中経過、「負け」や「勝ち」は結果を表現するイメージがあり、少し違和感があると感じました。
 ●違和感はありますが、他に表現の仕方が無いため、「始めた」を使ったのではないかと思います。
 ●ロシアが勝つと思っていた前提でだったから、この様な言い方をしたのだと思う。
 ●勝ち負けは結果であり、負け始めるは不自然です。
 ●結論が出ていない事に対して使う表現ではないと思いました。
 ●負け終わりという言葉が無いので、負け始めという言葉に違和感を感じます。
 ●勝ち目がなくなってきた という表現がいいかと思う。
 ●違和感を覚えるが、一方で翻訳的な表現のようにも感じるので「これは海外の要人が言ったものを日本のメディアが翻訳したのだろう」という予想を立てられた。
 ●ちょっと違和感ある感じですね。ニュース記事の見出しならもっと硬めの言葉の方が合うのでは。
 ●「敗北し始めた」「敗退し始めた」が正しいかと思料します。 ※敗北する、負けるという事(という行為)を新たに始めたという意味ですから。 若しくは「負けだした」が考えられますが、これも何かヘンですね。
 ●負けという言葉は結果であって、途中経過ではないと思います。「負けが近づいてきた」などの方がいいと思います。

 

こんな状況なら「負け始める」も自然!

 違和感ありと思う人の中には「負ける」は結果だから途中経過とかないという、私もそう思った!っていう内容がありました。でも自然な表現だと思っている人の意見のほうが結構おもしろくて、例えば、「戦争には、個々の戦闘の勝敗と、終結段階の両国のパワーバランスによる勝敗があるので、前者の負けの数が増えてきたという意味なら、違和感はない。」という意見。

 私は国と国の最終的な勝ち負けを想像していたから不自然だと思っていたことに気付きました。実は戦いが起こっている場所は各地たくさんあって、そこにはそれぞれの勝ち負けがあります。この地域では勝ったけど、この地域では負けたのような。ロシアはこれまでいろんな地域で勝ち続けてきたけど、負けが増えてきたという意味だったら「負け始めた」は確かに違和感感じません! これは気づかなかった。

 

瞬間的な動作の連続を継続性を持ったひとまとまりの動作とみなす

 例えば、「電気がつく」の瞬間動詞「つく」。オフィスのような広い場所の天井にたくさんの蛍光灯があって、誰かがスイッチを押して端から順番に電気が消えていってるとき… 確かに「消え始めた」って言えそう。
 瞬間動詞であっても、瞬間動詞が表す動作が頻発するような状況においては「~し始める」「~し終わる」が使えるってことが今回分かり、いい勉強になりました!




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