色を表す新しいイ形容詞「ピンクい」は広まる?

 テレビのあるインタビューで「ピンクい」という言葉を使っていた女性を見ました。ピンクは赤と白を混ぜてできる、ちょうど桜の花のような色を表す外来語名詞です。これに「い」をつけてイ形容詞化しているのが「ピンクい」なんですけど、初めて耳にしました!

(1) ピンクい表紙の同人誌
(2) ピンクいアイシャドウ
(3) ピンクい

 

「ピンクい」についてのアンケート

 「ピンクい」についてのアンケート。男性60名、女性90名、合計150名から回答を得ました。

 「ピンクい」を使ってるよって言った人は約15%くらいでした。これから増えていくかどうかは分からないけど生まれたばかりで成長段階な感じがします。



「使う」派の意見

 ●正しい日本語ではないことの認識はありますが、響きが面白いので特定の中のよい間柄の人と話すとき使います。 個人的には「黒い」「赤い」「青い」のように、「色の名詞+い」でい形容詞として使うようになってもおかしくないと思います。
 ●仲の良い友達や家族などに対しては使用することがあります。
 ●かなりくだけた表現という印象が強いので、ビジネスなどかしこまった場では使わないようにしています。
 ●白い、赤い、と同じように捉えています。
 ●「むらさきい」「オレンジい」「金色い」「水色い」も使います。
 ●使う場面は選びます。

 使っている人でも使う場面は選ぶようでした。確かにこういう新造語は若者から生まれる傾向があるのでやっぱどうしても権威が低め。改まった場面で使いにくいのはしょうがないです。「むらさきい」「オレンジい」「金色い」「水色い」も使うという人もいたのはびっくりでした。

 

「使わない」派の意見

 次のは否定的な意見です。

 ●言葉として違和感があります。
 ●とても変な日本語だと思う
 ●頭が悪そう
 ●すごく違和感があり、美しい日本語ではないと感じます。
 ●まったく聞いたことないせいか、なんだか気持ち悪い形容詞だと思う。
 ●とても不自然で幼い印象をうけます。周りで使っている人はいません。
 ●今流の言葉かと思います、ピンク色ということかと思うのですが、桃色など色の表現を大切にしてきた日本人としては残念です。
 ●一瞬考える時間が必要な単語。理解し難いです。
 ●下ネタのイメージが湧きました。

 「使わない」と答えた人でも「ピンクい」に対して否定的ではない人ももちろんいます。

 ●小さい子が使っているイメージがあります。
 ●若い人が使っていそう
 ●女子高生が使ってそう
 ●声に出して普通に言っていたのですが、文字にしてみると不思議な感じがして面白いと思いました。
 ●かわいらしい言い方だと思います。若い人達が使う感じです
 ●個人的には違和感のある表現ではあるが、その土地で育ってきた言葉(表現)なので受け入れるようにした。 前後の文脈にもよるが他にも適切な表現がある場合が多い。 「昨日ピンクい服買ったよ?」→「昨日ピンクの服買ったよ?」 「今日のチークいつもよりピンクいね」→「今日のチークいつもより濃いね」など。

 アンケートによると沖縄では当たり前のように使っている人が多いという意見もありましたし、また愛知県でもよく使われている気がするという意見もありました。地域差がある感じがしますが、今回のアンケートではそこまで詳しくは分かりませんでした。

 

「ピンクい」は類推によって生まれた!

 まずは日本語の色のお話です。

 赤 → 赤い
 青 → 青い
 白 → 白い
 黒 → 黒い
 黄 → 黄色い (仲間外れっぽい)

 日本語の色の名前をこうしてみると「黄」だけ他と違います。ただ「い」をつけるだけの「赤い」「青い」「白い」「黒い」は日本語に元々存在した4語と言われて、「黄色い」はそうではありません。「黄色い」の原型は室町時代にさかのぼり、その時は「黄なり」という形容動詞でした。これがいったん「黄色なり」を経て、江戸時代には「黄色い」という言い方が生まれたと言われています。

 「黄色い」が生まれたのは自然な変化に見えます。だって名詞「赤」に「い」をつけて「赤い」、名詞「青」に「い」をつけて「青い」なんだから、名詞「黄色」に「い」をつけて「黄色い」も同じことですよね! このように、ある変化の規則性を不規則な部分に適用して規則的な形に変化させる言語変化の現象を類推(analogy)と言います。「名詞+い」に関する類推は「四角」に対する「四角い」、「丸」に対する「丸い」など何も色に限ったことではありません。

 ドイツの言語学者ヘルマン・パウル(Paul, Hermann)は、類推はこの方程式(パウルの比例式)を解くことで起こると提唱しました。これにさっきの色の語を当てはめるとちゃんと立式でき、「黄色」に対するものとして「黄色い」を導くことができます。そして「ピンクい」も同様、この類推によるものです。類推は規則的なものと不規則的なものを統合するように働いていて、言語使用の労力を減らし、その効率化に貢献している現象です。




2022年9月12日日本語TIPS, 日本語のいろんなお話