「ピンクい」はパウルの比例式を解いて生まれた新造語

2022年1月20日日本語TIPS, 日本語の色んなお話

(1) ピンクい表紙の同人誌
(2) ピンクいアイシャドウ
(3) ピンクい

 名詞「ピンク」に「い」をつけてイ形容詞のように扱った「ピンクい」という言葉、聞いたことありますか。私はむかーし一度テレビのインタビューで見たことがあって、それ以外ありません。こういう新造語っていつも若者を中心に展開されるし、周りにそういう若者がいなければ耳にする機会だって当然ないですもんね。

 今回は「ピンクい」が良いか悪いか、好きか嫌いかっていうのは放っておいて、「ピンクい」という言葉がなぜ生まれたのかを説明するパウルの比例式を紹介します。

 

「ピンクい」はどうやって生まれたのか

 まずは日本語の色のお話。

 赤 → 赤い
 青 → 青い
 白 → 白い
 黒 → 黒い
 黄 → 黄色い (仲間外れっぽい)

 日本語の色の名前を5つ並べてみました。こうしてみると黄だけ他と違って特別に見えます。純粋に「い」をつけるだけの「赤い」「青い」「白い」「黒い」は日本語に元々存在した4語と言われて、「黄色い」はそうではありません。「黄色い」の原型は室町時代にさかのぼり、その時は「黄なり」という形容動詞でした。これがいったん「黄色なり」を経て、江戸時代には「黄色い」という言い方が生まれたと言われています。

 「黄色い」が生まれたのは自然な変化に見えます。だって名詞「赤」に「い」をつけて「赤い」、名詞「青」に「い」をつけて「青い」なんだから、名詞「黄色」に「い」をつけて「黄色い」も同じことですよね。このようにある対応関係を他の形式にも当てはめることを類推(analogy)と言います。「名詞+い」に関する類推は「四角」に対する「四角い」、「丸」に対する「丸い」など何も色に限ったことではありません。

 

パウルの比例式と「ピンクい」

 ある変化の規則性を不規則な部分に適用して規則的な形に変化させる言語変化の現象を類推と呼びます。そして類推は次のパウルの比例式と呼ばれる方程式を解くことで起こると、ドイツの言語学者ヘルマン・パウル(Paul, Hermann)は提唱しました。先の例を使うと次のように立式できます。

名詞:名詞+い = 名詞:名詞+い = 名詞:名詞+い
赤:赤い = 青:青い = 白:白い = 黒:黒い = 黄色:x

 この方程式を解けば「黄色」に対するものとして「黄色い」を導くことができます。そして「ピンクい」も同様、この類推によるものです。

 そういえば昔の学生が、「さ入れ言葉は本当に便利ですね!」って言ってたのを思い出しました。さ入れ言葉は「立たさせる」「書かさせる」のように五段動詞使役形に本来不要な「さ」を挿入する現象で、一段動詞の使役形の活用を五段動詞に適用したことによって起こっています。現代ではさ入れ言葉に対して批判的な声が多いですが、一段動詞と五段動詞の使役形に関する規則を統一するのは類推による変化と言えます。あと100年くらい経てば、「ピンクい」もさ入れ言葉も市民権を得ているかもしれません。

 

「ピンクい」「みどりい」についてのアンケート

 「ピンクい」についてアンケートを取ってみました。ついでに「みどりい」も。男性60名、女性90名、合計150名から回答を得ました。

使う 使わない
私は「ピンクい」を… 22(14.7%) 128(85.3%)
私は「みどりい」を… 12(8.0%) 138(92.0%)

 使ってるよって言った人は15%くらいでした。同時に「ピンクい」と「みどりい」についていろいろと意見を書いてもらってます。

・言葉として違和感があります。
・とても変な日本語だと思う
・頭が悪そう
・すごく違和感があり、美しい日本語ではないと感じます。
・まったく聞いたことないせいか、なんだか気持ち悪い形容詞だと思う。
・とても不自然で幼い印象をうけます。周りで使っている人はいません。

 以上のは結構悪めな意見です。他にも若い人が使っているならほほえましいけど、大人が使うと教養がないと思うと回答した人もいました。まだまだ市民権は得られていませんし、こういう意見があるのも納得です。「黄色い」が生まれた江戸時代でもこういう意見はあったのかなあと思うと、なんだかタイムスリップした気分になれます!
 逆に良い意見も。

・小さい子が使っているイメージがあります。
・使うとしたら、若い方が使いそうな印象を受けました。
・若い人が使っていそう
・女子高生が使ってそう
・声に出して普通に言っていたのですが、文字にしてみると不思議な感じがして面白いと思いました。
・どちらも何気なく言ってしまうことがありますが、こうやって文字にしてみると変な日本語だなと思いました。
・覚えはありますが周りで使ってる友人などいないですし、多分SNSとかで見聞きしたんだと思います。
・かわいらしい言い方だと思います。若い人達が使う感じです

 愛知県でよく使われている気がするという意見もありましたし、「ピンクいはよく使う言葉です」と回答してくれた方は宮城県出身だったり。それから「茶色い」を「ちゃい」と言ったりするのが大阪の人に見られるという意見もありました!

 

類推は言語使用の労力を減らし、効率化に貢献している

 赤は「赤い」、青は「青い」、白は「白い」、黒は「黒い」、でも黄は「黄い」じゃないことは日本語母語話者ならすぐ分かるけど、日本語を初めて勉強する人はなんで?って疑問に思ってもしょうがない。ある規則性が他のところに適用できないと、それぞれ個別に覚えないといけなくなるので非効率的です。例えば、動詞のテ形が学習者にとっては大変なように。でも私たちは日本語母語話者ですから、そもそも意識しなければこの不規則性に気づくこともないし、不規則性に気付いたとしても運用面で難しいと感じることはありません。だから非効率的っていってもそれを実感することはできないんですよね。でも、類推が規則的なものと不規則的なものを統合するように働いていることを考えれば、母語話者も薄っすら非効率的に感じているんだと思います。

 こうして不規則性がそぎ落とされると使う人にとって楽。特に学習者は大喜び!
 類推という言語変化を口実にして、私も「ピンクい」どんどん使っていきます。

 






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