男の子の名前には阻害音が多い! 不思議な音象徴

2022年1月22日日本語TIPS, 日本語の色んなお話

 私の一番古い記憶は生まれたばかりの妹の名前を決める場面です。これが大体3歳くらい。親から妹の名前として何が良いかって3つの選択肢を提示されました。「一つ選んで。〇〇、〇〇、さくらこ」って親が言った瞬間に、私はすぐ「さくらこ!」って大きい声で言ったんです。それから中学校くらいになると、自分の名前に「子」が入ってるのが気に入らないって文句を言い始めました。あれを聞くたびに私のせいだなあーって思わされます…。 命名の方法は時代によって少し違うみたい。「子」がつく女性の名前は現代にはあまり見られないですが、少し前にはよくつけられていました。

 両親がその思いを込めてつける名前は、どういう人になってほしいかを反映した漢字を使ったり、あの人のようになってほしいという気持ちから同じ名前をつけたりしてます。でもそれだけじゃなく、聞いたときの音の可愛らしさ、カッコよさ、女性らしさ、男性らしさのようなものも当然考慮されます。

 

音象徴(sound symbolism)

 この2つの図形には名前があります! 片方がマルマ、片方がタケテです。じゃあどっちがマルマでどっちがタケテでしょうか。こう聞くとほとんどの人が左側をマルマ、右側をタケテと選びます。その際その人の母語に関係なく。私たちは音に対して何らかの感覚を共有していて、音と音が与えるイメージにはある程度繋がり(有縁性)があるように感じるみたいで、この現象を音象徴(sound symbolism)と言います。
 (これと対になる、音と意味との間には必然的な関係が認められないとする言語の恣意性についてはここでは省略)

 オノマトペは音象徴の宝庫です。

(1) くるくる回る。 (軽さ・弱さ)
(2) ぐるぐる回る。 (重さ・強さ)

 「くるくる」は軽いものが軽めに回っている感じがするのに、「ぐるぐる」は重さや強さを感じます。また、カ行音は「かちっとはめる」「キーンとする」「カリカリ」みたいに鋭さや硬さと、サ行音は「ささっと片づける」「すっと立つ」「すぱっと切る」みたいに素早い動きと結びつくことが多かったりします。

 音とイメージの結びつきは、調音と関係しています。例えば「くるくる」と「ぐるぐる」の違いは濁点があるかどうかで、濁点がある音は声帯振動が伴います。声帯振動すると音が太く聞こえるから重さや強さに結びつきやすいんです。こんな具合で破裂音のカ行音、摩擦音のサ行音もそれぞれのイメージと結びつきます。さっきのマルマ、タケテもそう。

 

阻害音と共鳴音

 突然ですが、私たちが出す音は阻害音と共鳴音の2つに分けられます。

阻害音 濁点や半濁点をつけられる音、もしくは濁点や半濁点がついている音。
調音時に口腔内の気圧があがる。
日本語の /p,t,k,b,d,g,s,z,h/
共鳴音 濁点や半濁点をつけられない音。
調音時に口腔内の気圧があまりあがらない。
日本語の /m,n,y,r,w/

 マルマには共鳴音 /m/ と /r/ が含まれていますが、阻害音は含まれていません。タケテには阻害音 /t/ と /k/ が含まれていますが、共鳴音は含まれていません。どうも共鳴音は丸っこさ、阻害音は角ばったイメージがあるらしいんです。実際、女の子の名前には共鳴音が多く、男の子の名前の名前には阻害音が多い傾向があるようで、丸っこい共鳴音のイメージが女の子っぽさに、角ばっている阻害音のイメージが男の子っぽさに結びついているのではないかと言われています。「名は体を表す」といいますが、まさにこれは音象徴。すごく面白い見方ですね!

 詳しいことはこちらの書籍をご覧ください。
 メイドさんの名前、ポケモンの名前などで音象徴を検証しながら音声学を面白く紹介してくれているいい本です。

 

でも最近の女の子の名前は阻害音が多くない?

 男の子の名前には阻害音が64.4%、女の子の名前には共鳴音が67.3%という結果が示されています。これは2011年度の安田生命のトップ50の名前を対象にした調査。10年前って今となってはちょっと古くて、しかも今なら10年前とは違った名前も増えてるはずです。だから最近の名前だったらどうなのかなーと思って自分で調べてみたんです。すると、ちょっと見過ごせない傾向が見られました。

 

 とりあえず男の子は阻害音が多め。時代が移っても60%台を維持してて、見た感じ変化という変化は見られません。2021年は「れん」「はると」「あおい」、2005年は「そうた」「ひろと」「しょうた」が上位3位でした。名前から受ける雰囲気はやっぱり違いますね。特に「あおい」は女の子の名前でもおかしくないですし、近年中性的な名前も多くみられます。それでも阻害音は安定して60%台です。
 (2021年赤ちゃんの名前ランキング|たまひよのデータより)

 でも女の子はなぜか阻害音が増えてきています。10年、15年くらい前だったら確かに共鳴音が優勢だったけど、2015年には阻害音の比率が高まりほぼ拮抗。去年2020年にはいよいよ逆転しています。えっ… これどういうこと?

 

女の子の名前に阻害音が多くなった理由は?

 ここから先は専門家の研究ということになりそうですが… 何となく思いつくこと書いておきます。

 一つは、近年よく見られる男女平等、男女同権といったフェミニズムが広がって子どもの命名に影響しているのかなーという説。阻害音が男っぽさと結びつくとすれば、女の子の名前が男っぽさに近づいているということであって、意識的、無意識にしろそういう感覚で命名したのかも?

 もう一つは、いわゆるキラキラネームが増えているのが影響している説。典型的なキラキラネームって本来の漢字の読みをせず、夜露死苦的な当て字が多いイメージですね。和語にはない音を使うというイメージも私はあるので、日常生活であんまり使われないような漢字を当てるしかなくなった結果、阻害音が多くなっていたり。このあたりからキラキラネームとは何かっていうことももしかしたら分かるかも。

 これ以上は分かりませんので、いったん置いておきます。






2022年1月22日日本語TIPS, 日本語の色んなお話