express line の意味は? 状況が変われば意味も変わる言葉の性質

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 オーストラリアでは、次のようなことがありました。(中略)ある日、近くのスーパーに買い物に行き、店内を回って重くなったカートを押してレジの所に行きました。いくつか列があったので、一番すいている列に並びました。すると間もなく、やはり買い物客と見られる女の人が近づいて来て、私に向かって次のように言いました。

 ‘This is an express line’

 (中略)私はすっかり困って、また‘Perdon?’と繰り返したので、彼女はすっかり呆れたように頭を振りながら行ってしまいました。

 彼女は何を言いたかったと思いますか?

 

文化が違うとコミュニケーションエラーが起きやすくなる

 上の問いはこちらの本にある筆者の実体験です! とても面白いと思いましたので引用いたしました。

 正解は…
  ‘express line’とは、商品を2~3品くらい買う人が並ぶ優先レーンでした!

 車でスーパーに行ったら1週間分くらい買い溜めするような習慣があるので、通常レジ待ちするときは日本よりも長い時間がかかるそうです。そこで購入する商品が少ないお客さんに限り、あまり待たなくてもいいようにしてあげようという店側の親切心。日本にもないですし、中国にもなかったなあ。
 express(エクスプレス)ってなんか特急的な、新幹線的なやつに使われてるから、速いって意味かなー レジ打ちが速い人がいるのか。そんなわけないと思うけどまさか… これを読んでた時にそんな具合に思ってました。案の定違いましたけど。

 当然のことですが、文化が違うところにいくとコミュニケーションエラーが起きやすくなります。この例だってそう。この国では1週間分の買い物をまとめてするから買い物も大量で、普通のレジはめちゃくちゃ込む。だから優先レーンがある。‘express line’という言葉をよく理解するためには、言葉が使われている文化的・社会的背景というのも知っておく必要があったりします。

 

中国でもたくさんパッシングするドライバーがいた!

 そういえば私も似ている経験があります。

 夏休みや冬休みが終わり、日本から中国へ戻るときです。北京首都国際空港に着くのは決まって現地時間夜8時ごろ。空港から働いていた廊坊まではタクシーで2時間くらいで、いつも懇意の運転手さんにお願いして送り迎えをしてもらっていました。その2時間のうち1時間以上高速走行なんですが、運転手さんはしきりに前方の車にパッシングするんです

 今から追い越すよという合図でパッシングすることがある。
 道を譲るようパッシングで促している。
 単に煽っていることもある。

 聞いてみたら運転手さんは道を譲れという意味でパッシングをしていました。言語を介したコミュニケーションではありませんが、パッシングという非言語情報で確かに意図を伝えています。こういうのは日本であまり、というか少なくとも私の周りでは一度も見たことありませんから初めは何をしているのか分かりませんでした。

 めちゃくちゃ追い越すんで最初は怖かったんです。そんなに急がなくてもと何度も思いました。「道を譲れ」と言葉にすればイライラしているように感じますが、運転手さんはいつも明るく笑顔なおじさんです。煽るという性格ではなく、安全に追い越すためのストラテジーと見れそう。勝手にそう考えれば安全かつ速くお客さんを目的地まで、という信念も垣間見れますね。中国では意外と普通なことなのかと思ったんですけど、学生に聞いてみるとそうでもなさそう。私が見たというだけで一般的ではないかもしれませんから誤解しないでください。

 

‘Time is money’の解釈

 

 これは中国で聞いた話です。

 ある中国人がアメリカに初めて行きました。目的地までどうやって行けばいいのか分からないので、タクシーをとめて目的地を伝えたところ、「500ドルで3時間かかるけどそれでもいいなら」と変な顔をされました。どうすればいいか分からなくて迷っていたとき、運転手はこう言いました。

 ‘Time is money’

 この‘Time is money’、すなわち「時は金なり」。皆さんはどのように理解しますか?

 私は「今考えている時間ももったいないよ」と思いました。
 しかし運転手の意図は違いました。それは…

  今待っている時間もお金かかっているよ。

 でした。

 どちらも「時間はお金のように貴重なものだ」という解釈基盤で成り立っているので似ています。一方が思いついたらもう一方は決して思い浮かばないだろう組み合わせに感じますね。
 現実場面で話される言葉は文脈(コンテクスト)に依存して意味が決定します。だから聞き手もその言葉がどんな状況で言われたのかを考慮して話し手の意図を汲み取らなければいけません。辞書に載っているような意味では理解できないこともまあまああります。こういった研究は社会言語学や語用論(プラグマティクス)の分野です。もし興味があれば検索してみてください!

 語学って難しいですね。でも面白いです。

 





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