これから来る電車になぜ「電車が来た」とタ形を使う?

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(まもなく 2番線に 電車が参ります。
危ないですから 黄色い線の内側まで お下がり下さい。)
A:あっ、電車が来た

 駅のホームで電車を待っている場面で、遠くから電車がやってくるのが見えました。そんなとき「電車が来た」と言います。
 しかし電車は遠くに見えただけで、まだホームにも、話し手の目の前にも到着していません。
 なのになぜ「来た」とタ形を使うのでしょう。

 

タ形の基本は過去時制

 (1) 髪の毛が伸びから断髪式に行ってくる。
 (2) 道路が濡れてるところを見ると、このあたりは雨が降っみたいだ。
 (3) さっきまでミカンが机の上にあっんだけど、無くなってる。
 (4) 昔の俺はとがって
 (5) あの頃は良かっ

 動作動詞が置かれた動的述語を持つ(1)(2)は、それぞれ「伸びる」「降る」という動きが<過去>に行われたことを表します。
 動作ではなく、状態を表す静的述語を持つ(3)~(5)は、それぞれ「ある」「とがる」「良い」という状態が<過去>のある時点に存在していたことを表します。

 タ形は述語の種類を問わず、基本的に<過去>を表します

 

でも変な意味を持つタ形もあります

 基本的にタ形は<過去>の時制ですが、どうも日本語の中には原則から外れた、<過去>として解釈することができない言い方もあります。例えばこんなやつ。

 (6) あっ、こんなところにあっ。 (探し物を指して)
 (7) あっ、今日は祝日だっ。   (思い出したように)

 探し物を発見したときに(6)のような言い方をしますよね。
 「ある」のタ形「あった」は、<過去>のある時点に「ある」という状態が存在したことを表します。原則に従えばこの「あった」も過去時制と解釈すべきですが… 探し物は<過去>のある時点にもそこにあったと思われる上に、今<現在>もそこにあります。

 「祝日だった」とタ形を使っているということは、<過去>のある時点で祝日という状態が存在したことを表す? かと思いきやこちらは<現在>がまさに祝日です。

 これらは「タ」は<過去>を表さない例外的な形式で、話し手の主観が含まれることからムードの「タ」と呼ばれています。うち(6)は発見用法、(7)は想起用法です。

 

「電車が来た」の「た」はムードの「タ」

 (8) 佐藤さんはもう来よ。 <過去>
 (9) あっ、電車が来! <発見>
 (10) 電車が来てるよ。 <進行中>

 「来た」は「来る」という動作が<過去>に行われたことを表すはず。例えば(8)のように、佐藤さんが<過去>に既に来ていて「来た」を使うような場面。これが基本的な使い方になります。でも(9)は、電車は既にホームに到着したわけではありません。<現在>もまだ走り続けてホームに近づいてきていますので<過去>でもありません。つまり…

 「電車が来た」の「来た」は上述したムードのタの発見用法です

 <発見>とは、過去から現在まで続いている事態を発見したことを表す用法。
 自分が立つホームに向かってくる電車は自分が発見する前から存在し、動き続けています。その動き続けている電車をようやくその目で見つけました。過去から現在に渡り続いている「来る」という事態を発見したことを表します。
 電車が今も動いていることに焦点を当てるのであれば、進行中を表すテイル形で(10)の言い方も可能ですけどね。

 「た」は全部過去だと思っている方は注意しましょう。
 過去もありますし、完了もあります。それからこのような発見、想起、反事実、要求などなどたくさん。

 





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