令和3年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ 問題10解説
問1 共同注意
対象への注意を他者と共有することを共同注意と言います。
大人が視線を向けたり、指を指した対象を子どもも注意し、これによって言葉を学んでいくとされています。これは問題文にもありますね。
したがって答えは4です。
問2 気づき仮説
こちらのシュミット(R.W.Schmidt 1990)の 気づき仮説 は新試験になってから初めて出題された第二言語習得論の用語です。
第二言語習得では「気づき」がとても大切だと考えられています。先生から一方的に教わるよりも、自分自身で気づいたほうが理解度も増して記憶にも残りやすい、なんて経験ありませんか? そこからシュミットは「習得が起こるためには『気づき』が必要である」という気づき仮説を提唱しました。
選択肢1
「言語形式への注意」が気づきにあたります。これが気づき仮説の記述。
選択肢2
臨界期に関する記述です。
選択肢3
クラッシェンのモニターモデルを構成する仮説の一つ「習得・学習仮説」では、教室などで意識的に学ぶ”学習”した知識は、幼児が無意識に学ぶような”習得”した知識にはならないと言っています。これは学習と習得の間には何も関係がないとする立場でノン・インターフェイス・ポジションと呼ばれています。これとは反対に学習と習得の間には関係があり、”学習”した知識は”習得”した知識に移行するというインターフェイス・ポジションもあります。
この記述はインターフェイス・ポジションの考え方です。
選択肢4
この内容は分からないです。
したがって答えは1です。
問3 維持リハーサル
インプットされた情報を忘れないようにとどめておいたり、長期記憶へ送ったりする方法をリハーサルと呼びます。そのリハーサルは次の2つに分けられます。
維持型リハーサル | 忘却を防ぐため、情報を短期記憶にとどめておくための方法のこと。忘れないように復唱したり、口ずさんだりする行為など。 |
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精緻化リハーサル | 情報を長期記憶に転送するための方法のこと。長期記憶に貯蔵されている情報と関連付けたり、関連する場面や状況をイメージしたりする行為など。維持型リハーサルよりも長期記憶へ転送される確率が高い。 |
1 精緻化リハーサル
2 つぶやいて一時的に忘れないようにしているので維持リハーサル
3 精緻化リハーサル
4 精緻化リハーサル
したがって答えは2です。
問4 ワーキングメモリ
ワーキングメモリとは、情報を一時的に保持する機能と情報を処理する機能を持った頭の中の記憶領域のことです。
選択肢1
ワーキングメモリの処理能力(処理資源)は限られています。
例えば外国語を話すときには、日本語から翻訳して、文法を考え、文型の中に単語を入れ、発音して… と色んな処理が必要になります。自分が頑張って話そうとしているときに相手から外国語で話しかけられると、相手の言ったことを聞いて、単語の意味を考えて、全体の意味を考えて… とさらに処理しなければいけません。話すほうに集中すると聞けなくなるし、聞くほうに集中すると話せなくなる。こういった処理はワーキングメモリが担っていると考えられており、第二言語のレベルが低ければ低いほどそうなりやすいです。
問題文にあるように、語の記憶に集中するとそれ以外のことができなく(しにくく)なります。この記述は正しいです。
選択肢2
話をしてるときに、それまで話した内容を保持したり、処理したりという能力はやっぱり高齢になれば衰えます。衰えたといっても会話をするくらいだったら若者との違いを感じられませんけど、比較すれば確かに衰えています。
選択肢3
子どもの頃から話している日本語であれば数単語くらい覚えておくのはたやすいでしょうけど、第二言語ともなると慣れ親しんでいない言語なので保持するのも難しいです。保持が難しければ取り出すことすらできなかったり、取り出すのに時間がかかったりもします。正しい記述です。
選択肢4
外国語を話したり聞いているときに簡単な算数をやらされたら、外国語を話していないとき、聞いていないときよりもスピードが遅くなります。外国語を使うということはそれほど脳をフル活用しているということ。それ以外のことが上手にできなくなってしまいます。これが外国語副作用と呼ばれる現象です。
ただし、外国語をそれなりに習得していないと外国語副作用は起きません。第二言語の使用経験が浅いと、第二言語について思考することも少ないから。思考にワーキングメモリの処理資源が多く割り当てられるのは、第二言語の使用経験が浅くない場合です。
したがって答えは4です。
問5 チャンク
電話番号を覚えるとき、私たちは3字、4字、4字という区切りで覚えています。まさか1字、1字、1字、1字、1字、1字、1字、1字、1字という風に覚えている人はいないですよね。
人が知覚している情報のまとまりをチャンクと呼んでいて、人が一度に覚えられるのは7±2チャンクや4±1チャンクと言われています。携帯電話を9チャンク(9つの区切り)で覚えるよりも、3チャンク(3つの区切り)で覚えたほうが圧倒的に覚えやすくなるはずです。だから私たちは習慣的にハイフンをつけて区切っているわけです。
このようにチャンクを作って覚える記憶術をチャンキングと言います。
選択肢1
チャンクと関係無いこと言ってます。
選択肢2
上述したチャンクの説明を第二言語習得に生かしてみます。
あんまりいい例思い浮かびませんが… 例えば「必ずしも」は絶対ではない、「~とは」は内容の引用、「限らない」は断定できないという意味だと3チャンクに分けて覚えるよりも、「必ずしも~とは限らない」という一つの表現(1チャンク)として覚えてしまったほうが楽です。なぜならこの3つはよく一緒に使うからです。それぞれ分割して覚えている人より「必ずしも~とは限らない」を定型表現として覚えている人のほうが発話が流暢になりやすいです。
この選択肢は正しいです。
選択肢3
相手にターンを奪われないように間を作らないみたいなこと言ってますけどチャンクと関係ありません。
選択肢4
電話番号「090-1234-5678」を3チャンクにして覚えていれば、「090」と来たら次の「1234」をほとんど自動的に思い浮かべられます。でもチャンクは電話番号のように意味的に関連したものとは限りませんので、この記述は変です。おそらくプライミング効果のことを言っています。
したがって答えは2です。
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