令和3年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ 問題7解説

令和3年度, 日本語教育能力検定試験 解説

問1 自己研修型教師

 日本語教師を養成することについて、時代とともに考え方が変わってきています。1980年代までは主に教授法の改善、授業でのテクニックなどの技術習得が重要だと考えられていましたが、1990年代後半になって教師自身の実践、知識、理論などの専門性向上を目指す「教師の成長」という考え方が出てきました。

 岡崎・岡崎(1997)は「教師の成長」を「指導者によって教授能力を獲得し、教師としての専門性の獲得・向上を担うことによって教師の専門性を自ら高めていくこと」と定義し、日本語教師は自己研修型教師(self-directed teacher)内省的実践家(reflective practioner)であるべきだとしました。

自己研修型教師 他の人が作成したシラバスや教授法を鵜呑みにしそのまま適用していくような受身的な存在ではなく、自分自身で自分の学習者に合った教材や教室活動を創造していく能動的な存在
内省的実践家 自分(や他の教師)のクラスで繰り広げられる教授・学習過程を十分に理解するために、自分(や他の教師の)教授過程を観察し、振り返る中で教授・学習過程の重要な諸点を発見していく教師

 この2つのあるべき姿になるため、教師は教師自身によるアクション・リサーチ(横溝 2001)を行うことが推奨されています。

 ここまで読まれると、答えは「内省」だということが分かると思います。
 したがって答えは2です。

 参考:教師教育と教師の成長
 参考:日本語教師の自己成長とInformal学習
 参考:『日本語教育』から見る. 日本語教師養成・研修に関する言説の変遷. ―政策・施策に照らして―

 

問2 アクション・リサーチ(AR:action research)

 上の問題の続きです。
 自己研修型教師や内省的実践家を目指すためにはアクション・リサーチ(横溝 2001)するのが良いよ、ということ。
 これは教師が自分の教育活動をもっとよくするために行う小規模なリサーチ活動、及び内省活動のことです。現状を改善するような計画を立て、それにしたがって行動し、集めたデータをもとに内省をします。計画、行動、観察、内省のサイクルで何度も何度も繰り返します。

 選択肢1
 この選択肢がARの記述です。

 選択肢2
 ARは横溝自身も他の教師に影響を与えるものだと言ってはいますが、ARはそもそも自分自身の教育活動改善のために行うものです。はなから「他の教育機関の教師の参考になるように」行うのは間違っています。

 選択肢3
 アクション・リサーチをしやすくするために授業の条件、授業のやり方を変えると言っています。それは本末転倒。
 現場での取り組みによって得られた様々なデータを分析、研究して内省に役立てます。実際の教授活動で得られたデータでなければ真の内省には繋がりません。

 選択肢4
 自己研修型教師を目指すためにARを行うので、実際のARを行うのは教師本人でなければいけません。他の教師のフィードバックをもとに改善するだけだと受身的です。自分でもリサーチ、他の教師にもリサーチしてもらって、そのデータを分析し内省に生かすのは本人です。ただ他人の協力を得ること自体は悪いことではありません。

 したがって答えは1です。

 参考:アクション・リサーチ 日本語教師の自己成長のために

 

問3 ビリーフ

 自分が信じていることをビリーフと言います。
 例えば、先生はたくさん単語を覚えることが上達の近道だと信じて疑わない場合、それがビリーフです。しかし学生のほうはそう思っていないかもしれません。日本人と話す機会があれば上達する、とにかく聞いてとにかくリピートすることが近道だと思っている人もいます。ビリーフは人によって違いますので、授業では先生と学生のビリーフがぶつかるという現象が起きます。

 選択肢1
 授業の記録はビリーフと関係なし。これ何だっけ、名前忘れました。

 選択肢2
 これがビリーフの記述。ビリーフはその人の経験から生まれるものです。先生がたくさん単語を覚えて第二言語を習得したという成功体験があった場合、それがビリーフになっていずれ学生にもそうアドバイスするかもしれません。
 ただビリーフはその人が信じていることであって、必ずしも正しいとは限りません。そう思い込んでいるだけということもありえます。

 選択肢3
 ビリーフの記述じゃないことは分かります。こういうのなんて言いますか?

 選択肢4
 間違えるならこの選択肢だと思います。
 教師のビリーフは確かに教師がやる授業に大きな影響を与えます。上述したように単語を覚えて第二言語を習得したという成功体験を持つ教師は、学生にも授業でそうさせる可能性があるからです。
 ただし、ビリーフは恒久的な考え方(ずっと変わらない考え方)ではありません。学生に単語を覚えさせ続けた結果、学生たちは自分のビリーフとは違うことをさせられているので気が滅入ってきます。モチベーションが上がらないと成績だって上がりにくくなっちゃいます。このやり方では思ったように伸びないなあと教師自身が気づいたら、このやり方、ビリーフは間違っているのかもしれないと考え、ビリーフが形を変える可能性だってあります。恒久的な考えではなく、ある程度可変性を持ったものです。

 したがって答えは2です。

 

問4 教科書分析

 授業で使おうとしている教科書がどういう流れなのか、どんな単語、文型がどんな順番で提出されているのかを調べることを授業前にしておきます。これが教科書分析です。

 選択肢1
 実際ここまでする人は… 本当に優れた日本語教師です。
 少なくとも私はしなかったし、そんなページ気にも留めませんでした。でも理想を語ればやったほうがいいですよね。
 現実的な課題に対応できる学習者を育てようという考えを持った著者と、しっかり基礎から積み上げていこうとする著者だったらきっと構成は変わってきます。自分がやりたいと思っている内容に近い教科書を選べれば一番いいと思います。

 選択肢2
 正しいです。
 付属の資料なんかがある教科書も珍しくはないので、利用できるものがあればその存在も確認しておくと良いです。

 選択肢3
 未経験者の方にとってあまりピンと来ないかもしれませんが、この内容は非常に重要です。
 授業で新しい文型を導入するときは細心の注意を払います。それまでの授業で扱ったことがある単語、文型を踏み台にして新しい文型を導入できるような工夫をするんですが、これがとても難しい。教科書にしたがってやっていればできますけれども、新しく自分でシラバスを考えようと思ったらとんでもなく苦労します。
 単語や文型の提出順序を確認するのは最も重要なことです。

 選択肢4
 これが疑問です。
 提出文型を確認するのは良いんですけど、それと登場人物の関係を確認することは何か関係ありますか?
 「あげる」「もらう」「くれる」のような授受の授業をするときなら登場人物のウチ・ソト関係、上下関係が役に立ちますけど… 文型って授受だけじゃないですからね。例えば「~てから~します(継起)」のような文型のときに登場人物は別に重要ではありません。

 したがって答えは4です。

 

問5 授業や教え方の改善

 1 〇
 2 〇
 3 肯定証拠の事例を集め????
 4 〇

 選択肢3は恐ろしく変なことを言っています。
 肯定証拠というのは学習者に与えられるインプットのうち、何が文法的に正しく、ふさわしい表現なのかという情報のことです。第二言語習得論、フィードバックのあたりに出てくる用語になります。

 例えば…

 学習者:アルバイトに行ってきました。
 教 師:そうですか。

 この文は教師が「そうですか」と言ったことで、学習者は自分が言った「アルバイトに行ってきました」が正しい表現であると知ることができます。このとき教師の「そうですか」は肯定証拠になります。

 学習者:アルバイトに行いてきました。
 教 師:「行ってきました」ですよ。

 学習者が誤った表現「行いてきました」と言ったことに対して、教師は「『行ってきました』ですよ」と明示的にフィードバックします。このフィードバックは学習者に”その表現間違ってるよ”を伝えることになりますよね。つまり正しい言い方である「行ってきました」を肯定証拠として学習者にインプットしています。

 なので、選択肢3の記述はとんちんかん。「肯定証拠」という字面のイメージから騙されたという人もいるんじゃないでしょうか。この作問者すごいです。

 したがって答えは3です。

 





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