【質問】「噛みつく」は自動詞? 他動詞?

質問

質問者さん
(日本)

噛みつく」は自動詞ですか? 他動詞ですか?

管理人

他動詞を認定する基準によって自動詞にも他動詞にもなるので、どっちか決めることはできないんです。

 

他動詞の認定する2つの基準

 他動詞を認定する基準は2つあります。一つは①〔対象をヲ格でとる動詞〕、もう一つは②〔直接受身になる動詞〕です。

 前者の基準①〔対象をヲ格でとる動詞〕で他動詞に認定される動詞は働きかけを行う主体をガ格、働きかける対象をヲ格で取り、<-ガ-ヲ>の形になります。「壊す」「殴る」「褒める」とかそういう動詞です。この基準を用いると「噛みつく」や「会う」は自動詞です。

 (1) 私 壁 壊す   (他動詞)
 (2) 私 彼 殴る   (他動詞)
 (3) 私 妹 褒める  (他動詞)
 (4) 犬 私に 噛みつく (自動詞)
 (5) 私 彼に 会う   (自動詞)

 後者の基準②〔直接受身になる動詞〕を用いると「壊す」「殴る」「褒める」などは前者の基準と同じく他動詞になります。しかし「噛みつく」も直接受身にできるのでこれも他動詞に。

能動文 直接受身 判定
(6) 私が 壁を 壊す 壁が 私に 壊される 他動詞
(7) 私が 彼を 殴る 彼が 私に 殴られる 他動詞
(8) 私が 妹を 褒める 妹が 私に 褒められる 他動詞
(9) 犬が 私に 噛みつく 私が 犬に 噛みつかれる 他動詞
(10) 私が 彼に 会う 自動詞

 というわけで、どっちの基準を使うかで「噛みつく」は自動詞にも他動詞にもなるんです。

 

いろんな辞書を見ると意見が分かれてる

 辞書いろいろ見ると、「噛みつく」を自動詞とするのも他動詞とするのもありました。
 ちなみに広辞苑第5版には他動詞、第6版には自動詞と書かれています。この件について岩波書店に問い合わせたところ、「他動詞はヲ格を取る動詞とし、ニ格を取る動詞は自動詞で統一した」とお返事がありました。第6版では前者の基準①〔対象をヲ格でとる動詞〕を用いているってことですね。

三省堂 国語辞典 第四版 新選国語辞典 第九版 福武国語辞典 初版
新明解 国語辞典 第三版 新明解 国語辞典 第六版

 

「噛みつく」はそれでも他動詞って感じがしない?

 後者の基準②〔直接受身になる動詞〕で「噛みつく」は他動詞なんだって納得すれば話はそこで終わりなんだけど、前者の基準①〔対象をヲ格でとる動詞〕で自動詞だって言われてもまだ納得できない人もいると思います。働きかける対象に変化を与えるのが典型的な他動詞。「噛みつく」だって噛みつかれた人は怪我するだろうし、怪我しなくても噛みつかれた部分は形が変わるだろうし、やっぱり他動詞な気がします。

 これについては私の考えなんですが… 「~に噛みつく」のニ格は「噛みつく」という動作の対象ではなく、「噛みつく」という動作の着点を表しているんだと思います。だって動詞「つく」はその移動の着点を二格で表すから。

 (11) 虫が服つく。  (着点のニ格)
 (12) 技術が身つく。 (着点のニ格)

 「つく」が後部要素となって形成された複合動詞が「噛みつく」であり、やっぱり「噛みつく」のニ格も着点でしょう。着点であって対象じゃないから自動詞なんだ、って私は納得しています。「貼る-貼りつく」「抱く-抱きつく」「飛ぶ-飛びつく」「巻く-巻きつく」「絡む-絡みつく」「追う-追いつく」なども同じ。

 どっちの立場を取るかは人によって違っていいです。




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