令和2年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅲ 問題14解説

問1 ウチ・ソト

 ウチの人をソトの人に紹介するときは、ウチの人に対して敬語を使わないというルールがあります。
 例えばこういうの。

 (電話で)
 A:田中部長はいらっしゃいますか?
 B:田中は席を外しております。

 Bさんにとって田中部長が上司だとしても、外部の人に紹介するときは呼び捨てです。これは電話の受け答えでよーく本に書かれているもの。

 1 課長に対して尊敬語「お~になる」を使ってるのでだめ。
 2 課長に対して尊敬語「いらっしゃる」を使ってるのでだめ。
 3 渡辺に対して尊敬語「~れる/られる」を使ってるのでだめ。
 4 ウチの渡辺に敬語を使っていないので適切です。

 したがって答えは4です。

 

問2 ボールド・オン・レコード・ストラテジー(直言)

 出ました。今年度一番の用語の暴力。
 この言葉自体は23年度以降初めてです。でも初めてというだけあって「直言」というヒントもありますね。だから答えが導けた人もいるかと思います。

 まずポライトネス理論から説明します。
 ポライトネス理論とは、人はお互いのフェイスを傷つけないように配慮を行いながらコミュニケーションを行っているとする理論のことです。この理論では、フェイスとポライトネス・ストラテジーが重要な概念です。

フェイス 人と人の関わり合いに関する欲求のこと。そのうち共感・理解・好かれたいことを望む欲求をポジティブ・フェイスといい、邪魔されたくない、干渉されたくないという自由を望む欲求をネガティブ・フェイスという。
ポライトネス・ストラテジー 会話において両者が心地よくなるよう、あるいは不要な緊張感がないように配慮するなど、人間関係を円滑にしていくための言語行動のこと。そのうち、相手のポジティブ・フェイスを確保しようとする言語行動をポジティブ・ポライトネス、相手のネガティブ・フェイスを侵害しないようにする言語行動をネガティブ・ポライトネスと呼ぶ。

 選択肢1
 この言い方は相手のネガティブ・フェイスに配慮したネガティブ・ポライトネス。

 選択肢2
 相手のポジティブ・フェイスに配慮したポジティブ・ポライトネス。
 相手の近づきたいという欲求に配慮して、こちらから近づくために「すごーい」と褒めてます。

 選択肢3
 相手のネガティブ・フェイスに配慮したネガティブ・ポライトネス。
 相手は自分と一緒にご飯に行きたくないという欲求があるかもしれないので、それに配慮してあえて誘いの表現を使っていません。

 選択肢4
 ポライトネス理論では、相手のフェイスに配慮せず直接言うのをボールド・オン・レコード・ストラテジー(直言)と呼んでいます。
 本当に危ない場面では年上・年下とか関係なくはっきり伝えることもありますよね。

 したがって答えは4です。

 

問3 敬語の指針

素材敬語 尊敬語 相手側又は第三者の行為・ものごと・状態などについて、その物を立てて述べるもの。
 例)いらっしゃる、おっしゃる、なさる、召し上がる、お使いになる、御利用になる、読まれる、始められる、お導き、御出席、(立てるべき人物からの)御説明、お名前、御住所、(立てるべき人物からの)お手紙、お忙しい、ご立派
謙譲語Ⅰ 自分側から相手側又は第三者に向かう行為・ものごとなどについて、その向かう先の人物を立てて述べるもの。
 例)伺う、申し上げる、お目に掛かる、差し上げる、お届けする、御案内する、(立てるべき人物への)お手紙、御説明
対者敬語 謙譲語Ⅱ
(丁重語)
自分側の行為・ものごとなどを、話や文章の相手に対して丁重に述べるもの。
 例)参る、申す、いたす、おる、拙著、小社
丁寧語 話や文章の相手に対して丁寧に述べるもの。
 例)です、ます
敬語に準じるもの 美化語 ものごとを、美化して述べるもの。
 例)お酒、お料理

 上の表の素材敬語とは、話題の中の人物(素材)への敬意を表すものです。
 対者敬語はその場にいる人物(素材)に対するものではなく、自分側の行為・ものごとなどを、話や文章の相手に対して丁重に述べるものです。

 1 行為者や所有者を立てるのは尊敬語です。
 2 丁寧語「です」「ます」、こんな表現誰にだって使えます。難しく考える必要ありません。
 3 「話題の人物を立てるもの」は素材敬語です。謙譲語Ⅱは対者敬語なので、この選択肢は正しいです。
 4 敬語の使用を身分や役割により固定的に決定するのを絶対敬語と言います。韓国語がそう。日本語は場面や状況によって敬語を使い分けるので相対敬語です。この選択肢は間違い。

 検定試験のコツの一つに「言い切りは疑え」があります。断言するような選択肢は間違いであることが多いのは確かです。選択肢3の「話題の人物を立てるものではない」も言い切りなので、そんなわけないだろうと除外した人もいるかと思います。今回は残念でした。

 したがって答えは3です。

 参考:敬語の指針

 

問4 尊敬語

 できれば落としたくない問題。

 1 美化語の「お」
 2 相手の名前なので尊敬語の「お」
 3 美化語の「お」
 4 自分が書く手紙なので謙譲語の「お」

 したがって答えは2です。

 

問5 待遇表現の指導

 選択肢1
 「て差し上げる」は、使い方によっては差し出がましい感じを与えることもあります。例えば目下の人から「旅行に行ってきました。プレゼントを差し上げます」と言われたらどう感じますか。何も感じない人もいるかしれませんが、なんか差し出がましい、押しつけがましい感じを受ける人もいるかもしれません。ここで謙譲語「差し上げる」を使うこと自体は間違いありませんが、この表現は癖があって素直に使いにくいんです。
 だから「差し上げる」を優先して指導するのはちょっと危ない。

 選択肢2
 「結婚されてますか」「奥さん、旦那さんはどんな方ですか」とかは結構シビアです。私的領域に踏み込んだ内容は確かに避けたほうが良さそう。関係が良ければ別に構いませんけどね。

 選択肢3
 その通り。文句なしです。

 選択肢4
 その通り。文句なしです。

 したがって答えは1です。

 





令和2年度, 日本語教育能力検定試験 解説