令和2年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅲ 問題11解説

問1 動機づけ

 行動の原動力となるものや、そのきっかけのことを動機づけといいます。その源泉が外部なのか内部なのかで分類されます。

外発的動機づけ 外部からの報酬を得るため、罰を回避するための行動の原動力となるもの。
内発的動機づけ 自分の内側から湧いてくる行動の原動力となるもの。好奇心や興味によることが多く、長期間持続しやすい。

 例えば、母親と子供が「歴史のテストで100点取ったらゲーム買ってあげる。80点以下だったらお小遣い減らすよ」と約束し、子どもは歴史の教科書をたくさん読むようになった場面を考えてみます。子供が歴史の教科書を読んでいるのは、ゲームという報酬を得るため、そしてお小遣い減額という罰を回避するためなので、外部要因によって教科書を読んでいることになります(外部的動機づけ)。
 逆に「歴史が大好きで子供のころから本をたくさん読んでいた。」という子供がいたとします。この子供が歴史の本を読んでいるのは好きだからです。つまり内部要因によって本を読んでいます(内部的動機づけ)。

 第二言語習得においては、ガードナー (Gardner)が道具的動機づけと統合的動機づけを提唱しました。これは外国語を学習するときの動機を分類したものです。

統合的動機づけ その文化に溶け込みたいという気持ちからくる学習のこと。価値観や文化観を理解したい、もっと周囲とコミュニケーションを取りたい、好きなアイドルを追いかけたいなどがこれにあたる。
道具的動機づけ お金の為、進学や就職に有利だからという理由で外国語を学習すること。

 選択肢1
 単位という報酬を得るために日本語を勉強しているので、外発的動機が強いです。

 選択肢2
 外部からの報酬を得るために勉強していないようです。この学習者は日本語が好き、興味がある、知識を増やしたいという内発的動機があります。

 選択肢3
 学位という外部報酬を得るためなので外発的動機。
 待遇の良い仕事につくためなので道具的動機。

 選択肢4
 奨学金という外部報酬を得るためなので外発的動機。
 奨学金を得るために日本語を道具みたいに使っているので道具的動機。

 したがって答えは2です。

 

問2 動機づけを維持するための指導

 選択肢1
 細かい指摘はやる気をなくさせるかもしれませんので、動機づけの維持にはあまり役立ちません。相当メンタルが強い人だったら耐えられるかもしれませんけど。

 選択肢2
 「意欲を高める」って書いてるので、これは動機づけの維持に直結します。

 選択肢3
 目標があると今何をすればいいのか明確になるので、動機づけの維持に役立ちます。

 選択肢4
 情意面への配慮ですね。これも動機づけの維持に役立ちます。

 したがって答えは1です。



問3 学習者のビリーフ

 ビリーフとは、どのようにすれば言語を習得できるかという考え方、その人の信念のことです。

 選択肢1
 正しいです。
 参考書で1から勉強していくのが一番良いと思っている人が、信頼できる先生から「ネイティブと会話したほうがいい」とアドバイスされたことがきっかけでそう思うようになるみたいな感じに、その人のビリーフは何かきっかけがあって変わることがあります。するとそれまでのやり方に効果を感じられなくなって習熟度に影響することも考えられます。

 選択肢2
 その通りです。母国の義務教育を信じているとそれがその人のビリーフ。信じていなくてもそれがその人のビリーフ。教育システムは人々の好みに影響するものです。

 選択肢3
 ロールプレイばっかりさせられてうんざりする人もいるし、逆にロールプレイ大好き人間もいるし。授業内容は学習者のビリーフを形成する要素です。

 選択肢4
 「ネイティブと話すのが一番の近道だ」というビリーフを持っていても、近くにネイティブがいないと実現することができません。ビリーフと行動は一致しないこともあります。

 したがって答えは3です。

 

問4 言語適性

 言語適性とは、外国語を学ぶために必要とされる能力のことです。私はこれを語学のセンスって呼んで覚えてます。
 何がセンスで何がセンスじゃないかはあいまいで説明できないのでごめんなさいね。

 選択肢1
 これは「認知スタイル」の記述です。人によって情報の知覚、符号化、体制化、記憶などの方法が違うので、最終的な到達地点が変わってきます。

 選択肢2
 これっぽい。聞こえてくる音の切り方、まとまりの作り方はなかなか指導できないし、この辺りは学習者のセンスに委ねる部分です。うまくまとまりを作れたら確かに有利ですよね。

 選択肢3
 状況に合わせた言葉選びは言語能力がないとできません。言語能力は勉強して高めるものなので、これはセンスじゃないです。センスは勉強、練習で高めるものじゃなくて、その人がもともと持っているものです。この選択肢は間違い。

 選択肢4
 合わなければ効果は下がるし、合えば上がります。これは間違い。

 したがって答えは2です。

 

問5 学習者オートノミー

 自律学習(学習者オートノミー)とは、学習者が自分の学習を自ら管理して進めていく学習方法のことです。
 自律学習は一人で計画して一人で学習することだとよく間違えられますので注意してください。正しくは必要な場面で教師や教材、教育機関などの周囲のリソースを利用して学習を進めていくことです。教師は学習者の学習に積極的に介入することなく、ファシリテーター、カウンセラーとして振る舞います。

 選択肢1
 これが自律学習。
 教師は支えるだけ。学習者自身に考えさせます。

 選択肢2
 教師の考え方が存分に影響しているやり方なので、これは完全に「指導」です。
 これは自律学習じゃない。

 選択肢3
 教師がテキストを決めるってのが自律学習の考え方に反します。
 何を勉強するかは、学習者のニーズにもとづき教師と相談して決めます。

 選択肢4
 教師が授業をするのは自律学習ではありません。自律学習は教師はあくまで支えるだけ。

 したがって答えは1です。

 




2022年9月23日令和2年度, 日本語教育能力検定試験