令和2年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅲ 問題4解説

問1 類義表現

 選択肢1
 「幼稚な人」「未熟な人」「幼稚なやり方」「未熟なやり方」
 どっちも人にも行為にも使えます。

 選択肢2
 「最初に~、次に~、最後に~」「初めに~、次に~、最後に~」みたいなことだと思います。
 でも「初めて」はこういう順序に使う表現ではないので、間違いです。

 選択肢3
 ヲ格は移動関係の用法でいうと、出発点(家を出る)、通過点・経路(交差点を右に曲がる/階段をのぼる)があります。「山をのぼる」は経路ですね。
 ニ格は移動の到着点(ステージにあがる)の用法があります。だから「あがる」は到達点に焦点を当てた表現です。
 この選択肢は正しい!
 参考:格助詞の用法一覧

 選択肢4
 「予定」も「つもり」も通常は自分の計画を表します。
 他人の計画を表すなら、「~予定だそうだ」「~つもりだそうだ」みたいな言い方が必要です。

 したがって答えは3です。

 

問2 文体、位相、地域の違い

 性差、年齢、年代、階層差、階級差、職業、生活環境、趣味、嗜好などの社会的な属性を位相と呼び、位相の違いによる言語変種を社会方言と言います。地域による違いは地域方言です。

 選択肢1
 「あぶない」よりも「あやうい」のほうがやや書き言葉的。
 他にも「あぶない」は見える危険、「あやうい」は見えない危険に使いやすいなどの違いもあります。
 文体が違うだけで、方言か共通語かで使い分けられているわけではありません。
 参考:「危ない」と「危うい」の違い

 選択肢2
 「おでこ」は「ひたい」よりもくだけた言い方です。「ひたい」のほうが書き言葉的。幼児語っぽいと言われることがありますけど、仮に幼児語だったら位相の違いってことになりますね。
 言い換えると「おでこ」は俗語、「ひたい」は一般語ということなので、この選択肢は正しいです。

 選択肢3
 「あす」のほうが書き言葉的。文体が違います。
 しかし「あした」と「あす」は性別で使い分けられるわけではありません。
 この選択肢は間違い。

 選択肢4
 「あったかい」のほうがくだけた表現なので文体が違うと言えます。言いやすくするために母音が落ちてるだけですね。
 幼児語と一般語という区別ではありません。この選択肢は間違い。

 したがって答えは2です。



問3 「~くせに」と「~のに」の共通点

 とりあえず例文用意して検証してみます。

 お前が悪いくせに、人のせいにするな。
 お前が悪いのに、人のせいにするな。

 選択肢1
 上の例文だと、従属節の主語も主節の主語も「お前」です。
 ただし、「のに」は「昨日やっておいてねと頼んだのに、どうしてやってくれなかったの」のように前件と後件で異なる主語が持てます。
 「くせに」は異なる主語が入らないので、共通点ではありません。

 ※コメント欄でのご協力ありがとうございました!

 選択肢2

 お前が悪いはずのくせに、人のせいにするな。
 お前が悪いはずなのに、人のせいにするな。

 どちらも「はず」を組み込めました! と言いたいところですが、「人のせいにするな」は状況判断ではありません。状況判断は「(このままいけば)早く着くだろう」みたいな話者の判断が加えられた表現です。「~はずのくせに早く着くだろう」っては言えなさそうなところを見ると、「はず」と状況判断は相容れないみたい。

 選択肢3
 「くせに」が名詞に接続するときは「学生のくせに」と「の」が現れ、ナ形容詞語幹に接続するときは「静かなくせに」と「な」が現れます。
 「のに」は名詞でもナ形容詞でも「学生なのに」「静かなのに」と「な」が現れます。
 文型は共通していませんのでこの選択肢は間違い。

 選択肢4

 お前が悪いくせに、なんで人のせいにする?
 お前が悪いくせに、なんで人のせいにするんだ? (+のだ/んだ)
 お前が悪いのに、なんで人のせいにする?
 お前が悪いのに、なんで人のせいにするんだ? (+のだ/んだ)

 確かに「くせに」も「のに」も、問いかけの文では主節に「の(だ)」があっても良いので、これは共通点です。

 したがって答えは4です。

 参考:【N3文法】~くせに/くせして

 

問4 「~反面」になくて、「~一方で」にある用法

 「~反面」は、一つの事柄についての相反する側面を対比的に表します。例えば「水に強い反面、熱に弱い」では、ある一つの物の性質を2つ対比させて述べています。

 「~一方で」は、①2つの状態が並行して存在することと、②2つの状態が対立していることを表す用法があります。

 【並列】一方ではやり直したい気持ちが、他方では逃げたい気持ちがある。
 【対比】人口減少が加速する一方で、東京への人口と富の一極集中が進んでいます。

 まとめると…
 「反面」は対比、「一方」は並列と対比。
 共通部分は対比、「一方」だけが持つ用法は並列です。
 
 選択肢1
 「一方」は並列(並行)の用法があるので前半は正しいです。また、「一方」は対比の用法もありますので後半も正しいです。
 ところが対比用法は「反面」にもあります。だからこの選択肢は間違い。

 選択肢2
 「一方」は並列(並行)の用法があるので前半は正しいです。後半部分も正しいです。
 ここでは「累加」と呼ばれていますが、指すものは並列(並行)と同じ。
 しかも並列(並行/累加)の用法は「一方」だけが持つ用法で、下線部Dと合致します。

 選択肢3
 「歯を磨いてから寝る」みたいに、一つの動作が終わってから次の動作をするようなものを継起表現と呼びます。
 反面も一方も継起用法はありません。

 選択肢4
 反面も一方も因果関係を表す用法はありません。

 したがって答えは2です。

 参考:【N2文法】~反面(半面)
 参考:【N3文法】~一方/一方で/一方では~他方では~

 

問5 理解しやすい類義表現に言い換える

 選択肢1
 「間違えてもおかしくない問題」には、「たとえ間違えたとしても」という条件文が含まれています。中級ならまだしも、初級の学習者にとっては習っていない可能性があるので良くない。
 というわけで「多くの人が間違える問題」という具合に主語と述語を明確にした表現に言い換えると良さそう。

 選択肢2
 外来語を多用していて逆にレベルが上がってます。こういうのは初級、中級にとっては逆効果になることが多いかな。

 選択肢3
 動詞「いがむ」「いがみ合う」自体もN1相当、またはN1にも出てこないような動詞です。それを慣用表現「犬と猿」に変えたところで難度はさほど変わっていないでしょう。初級でも分かるような表現にするなら「彼らはいつも喧嘩しています」とかで十分。

 選択肢4
 「京都は非常に美しいところです」は初級でも十分分かる良い表現です。言い換えた後の内容は冗長性、余剰性もあるし、なんなら「それはもう」はモダリティ的表現だしで、初級に対するものとしては良くないです。

 したがって答えは1です。

 参考:【N3文法】たとえ~ても/たとい~ても

 




2022年9月23日令和2年度, 日本語教育能力検定試験