令和2年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅲ 問題1解説

問1 動作動詞のル形

 文章中に動作動詞とか非状態動詞とかあるので、ここから金田一の4分類のこと言ってるのかなと分かります。
 その4種類は以下です。

状態動詞 動作や変化ではなく、物事の状態を表す動詞。普通「~ている」の形をとらない。
ある、いる、できる、値する、要する、動詞の可能形
継続動詞 一定時間の継続的な動作・作用を表す動詞。「~ている」の形で動作の継続を表す。
読む、書く、食べる、降る、泣く、笑う、降る…
瞬間動詞 瞬間的に終わる動作・作用を表す動詞。「~ている」の形で結果の状態(結果の残存)を表す。
死ぬ、つく、消える、見つかる、始まる、終わる、決まる、始まる、終わる、太る…
第四種の動詞 形容詞的に用いられ、物事の性質や様子を表す動詞。常に「~ている」の形で用いられる。
そびえる、優れる、劣る、似る、澄む、似る…

 1 「いる」はテイル形がないので状態動詞
 2 「泳げる」は可能形なので状態動詞
 3 恒常的条件の話をしていてテンスがないです
 4 「電話する」はテイル形で動作の継続を表すので継続動詞(非状態動詞)

 下線部Aに「動作動詞(非状態動詞)」とありますが、非状態動詞は上記4分類のうち、継続動詞と瞬間動詞を指します。
 だから状態動詞や第四種の動詞はこの時点で除外です。残るは4だけ。

 こんな知識はなくても、「ル形で未来を表す」というヒントから選択肢4が答えっぽいと分かるはず。
 したがって答えは4です。

 

問2 完了のタ形

 この辺りちょっと記憶が曖昧。
 状態動詞のタ形はテンスの「過去」、非状態動詞のタ形はテンス「過去」もアスペクト「完了」も表せます。

 1 「面白い」は形容詞なので、タ形は過去
 2 「会える」は動詞可能形なので状態動詞。状態動詞のタ形は過去
 3 「読む」は継続動詞なのでタ形は完了
 4 「ある」は状態動詞なのでタ形は過去

 したがって答えは3です。



問3 ムードの「タ」

 「彼は昔はカッコよかった」みたいに状態性述語のタ形は基本的に過去を表しますが、単に過去を表さない特殊なタがあります。これをムードの「タ」と呼んでいます。

発見 こんなところにあった
想起 そういえば3時から用事があったなあ
反事実 普通の人なら即死だったよ
差し迫った要求 さあ買った買った

 1 反事実
 2 過去の状態を表すタ
 3 発見
 4 想起

 選択肢2だけはムードの「タ」ではなく、過去の状態を表すタです。
 したがって答えは2です。

 

問4 相対テンス

 相対テンスについての出題です。相対テンスとは…

 明日パーティに来人には、後で写真を送よ。

 写真を送るのは未来のことだからル形「送る」。
 パーティがあるのも未来だからル形「来る」、じゃなくてなぜかタ形「来た」。なんでなんで?

 日本語では、主節のテンスは発話時を基準にして決められ、従属節のテンスは主節時を基準にして決められるというルールがあります。そして前者を絶対テンス、後者を相対テンスと呼びます。

 主節の「後で写真を送るよ」の「送る」は、この言葉を言ったとき(発話時)よりも未来の出来事なのでル形を使っています。従属節「明日パーティに来た人」の「来る」は主節「送る」よりも過去のことなので、タ形を用います。
 時系列でいうと、「発話時 → 来る → 送る」です。

 選択肢1
 「明日パーティに来た人には、後で写真を送るよ」は上述の通り、「発話時 → 来る → 送る」の順番です。
 「パーティに来た」は確かに発話時よりも未来に起こることなので、この記述は正しいです!

 選択肢2
 「昨日パーティに来た人には、さっき写真を送ったよ」
 主節「送る」は発話時よりも過去のことなのでタ形「送った」になります。従属節「来る」は主節「送る」よりもさらに過去のことなので、ここもタ形「来た」になります。時系列は「来る → 送る → 発話時」。
 発話時よりも過去に起きた「パーティに来る」を相対テンスで表すことはできます。この選択肢は間違い。

 選択肢3
 「パーティに来た人に写真を送る」の時系列は「発話時 → 来る → 送る」。
 「送る」のは「来る」よりも未来のことなので、この選択肢は間違い。

 選択肢4
 「パーティに来た人に写真を送る」の時系列は「発話時 → 来る → 送る」。
 「送る」は最後の出来事です。この選択肢は間違い。

 したがって答えは1です。
 この問題は試験Ⅲらしい、よくできた良い問題です!

 

問5 破れました

 試着しようとした服が既に破れていたときは普通「破れています」「破れていました」と言います。でもこの学習者は「破れました」と言っちゃいました。なぜ「破れました」がおかしくて「破れています」が良いのかというと、「ている」がポイントになります。

 「ている」は7つくらいに分ける分類もあるみたいですが、ここでは3つに分けるので説明します。

動作の継続 公園で子供たちが走っている。
朝からずっと雨が降っている。
習慣的な動作 数年前に一度訪れているので、この辺りには少し詳しい。
週4回趣味でジョギングしている。
状態の持続 窓は開いています。
あの2人はとても似ている。

 既に破れていたから、状態の持続の「ている」を使って「破れています」と言わなければいけません。

 選択肢1
 仮に学習者が他動詞「破る(破りました)」を選択したら、自分が意思を持って「破る」という動作を行った感じがします。
 目的をもってある動作を完了したことを表すのは、他動詞「破る」を使った場合です。
 この選択肢は間違い。

 選択肢2
 「破れていました」は目の前で破れた瞬間を見ていなくても、破れている状態を指して使うことができます。
 しかし「破れました」は目の前で破れた瞬間を見ていなければ使えません。目の前で破れる瞬間を見てやっと「破れました」と言えます。
 「破れました」は直接その場面を確認しないと使えないので、この選択肢は正しいです。

 選択肢3
 残念な気持ちを表すのは「破れてしまいました」みたいに、「~てしまう」を用いた場合です。
 この選択肢は間違い。
 参考:【N4文法】~てしまう/ちゃう/でしまう/じゃう

 選択肢4
 この選択肢は何を言ってるか分からないです。一回的な出来事ではない属性や性質を表す文法とかあるなら教えてください!

 したがって答えは2です。

 
 
 文章の最後に「教師はこうしたテンス・アスペクトの複雑な用法をよく理解し、指導に当たる必要がある。」と厳しいお言葉があります。「破れていました」と「破れました」の違いがすぐ引き出せる教師がどのくらいいるでしょうか…




2023年8月20日令和2年度, 日本語教育能力検定試験