令和2年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ 問題13解説

問1 統語レベル

 コミュニケーション上の行き違いは音韻レベル、統語レベル、意味レベルなどあるそう。言葉の意味から考えるとこの問題は解けます。

 1 「あれ」の意味を誤解するのは、意味レベルの行き違い
 2 「子猫の声」なのか「猫の小さい声」なのか。これは統語レベルの行き違い
 3 「わ」と「な」の聞き間違いは音韻レベルの行き違い
 4 「結構です」の誤解は意味レベルの行き違い

 したがって答えは2です。

 

問2 高コンテクスト文化

 文章中では、文化による行き違いとして以下の2つが挙げられています。

高コンテクスト文化 実際の言葉によりもその裏にある意味を察する文化のこと。重要な情報でも言葉に表わさず裏に隠して、相手に汲み取らせたり曖昧な言葉を使って表現する。世間一般の共通認識に基づいて判断したり、感情的に意思決定がなされる文化であり、いわゆる「空気を読む」ことが求められる。実際に発話された言葉は、会話の参与者の関係性、表情、状況、それまでの文脈などから判断して意味内容が変わり、特に日本はこの傾向がとても強い。
低コンテクスト文化 高コンテクスト文化とは逆に伝えたいことは全て言葉で説明する文化のこと。言葉以外や雰囲気で気持ちや情報を伝えることはせず、全て自らが発した言葉で表現する。この傾向が強いのはドイツ語圏とされており、またアメリカやカナダなどの歴史的に移民で成り立っている国にも多いとされてる。移民が多い国ではさまざまな考え方を持つ人々が集まっているため、文化ごとに異なる気持ちを汲み取るのではなく、分かりやすい言葉で伝えることが重視される。

 1 共有されている前提をもとに会話をする傾向があるのは高コンテクスト文化の特徴
 2 意見をはっきり言うのは低コンテクスト文化の特徴
 3 直接的な話し合いをするのは低コンテクスト文化の特徴
 4 暗意よりも明意を重視するのは低コンテクスト文化の特徴

 したがって答えは1です。

 

問3 否定応答

 文章中に肯定応答、否定応答、回避(など)とありますが、だいたいこんな感じ。(要調査)

 「はい」「うん」「ええ」などが肯定応答。
 「いいえ」「いえ」「いや」などが否定応答。
 応答自体を回避するのが回避。

 「Tシャツかわいいよ」に対する反応として…

 1 「かわいいよ」に対する応答はないので回避。
 2 「かわいいよ」に対する応答はないので回避。
 3 肯定応答(相手の褒めに乗って、もう一つ良いところを述べる)
 4 否定応答(相手の褒めを否定して、マイナス要素を述べる)

 したがって答えは4です。

 

問4 規範の逸脱

 ここで出題されている「規範の逸脱」とは何か。
 非母語話者と母語話者の接触場面では、その場面ごとに基底規範が設定されています。

 例えば、二人の日本語母語話者がこんなやり取りをしてます。

 A:昨日の半沢直樹、つまらなくなかった?
 B:そう? 俺的にはめっちゃつまるけど。
 A:つまるってなんだよ(笑)

 ここでは「つまらない」の「ない」を派生接辞(否定形)とみなして元々存在したであろう原型に戻す操作をし、「つまる」という言葉を生み出してます。「つまらない」の否定形は本来「つまらなくない」なんですが、これは一種の言葉遊びのようなもので「つまる」になってます。Aもそれがちゃんと「おもしろい」という意味なんだと理解できます。だから「つまるってなんだよ」って突っ込んでます。

 しかし、これがもし日本語教師と学習者の間の雑談だったらどうでしょうか。

 日本語教師:昨日の半沢直樹、つまらなくなかった?
 学習者:そうですか? 私的にはめっちゃつまるんですけど。
 日本語教師:「つまらなくない」ですよ。

 この非母語話者は「つまらない」の反対は「つまる」、本当にそう思っている可能性があります。だから教師はそれが間違いであることを指摘しました。

 つまり…
 母語話者同士で話すときはお互い完璧な日本語を使っていると無意識で分かっているので、もしおかしな表現が使われたとしても言葉遊びの一種だと思い、わざわざ訂正するようなことはしません。日本語のレベルが同じなので、模範的な日本語(規範)に従わずとも意思疎通できるからです。

 でも非母語話者がいる場合は両者の日本語のレベルが違うので、レベルの低いほうは従うべきルール(規範)ができます。2つ目の会話では、教師の規範が会話の規範になっています。母語話者のほうが日本語が上手ですから、下手なほうは上手なほうに従わなければいけなくなるわけです。そして上手なほうは下手なほうの変な表現、誤用に敏感になり、指摘しやすくなります。これは母語話者同士の会話ではほぼ見られません。

 このように、規範というのはその場にいる母語話者と非母語話者の関係で生まれてきます。多くの場合はその場面で使用される言語の母語話者の規範が適用されます。
 そしてその規範は以下の3つに分けられます。

言語規範 接触場面において設定される基底規範のうち、話者が従うべき音声や語彙、文法などの規範のこと。
社会言語規範
社会言語学的規範
接触場面において設定される基底規範のうち、ある場面で用いるべき適切な表現に関する規範のこと。目上には「食べましたか?」ではなく「召し上がりましたか?」を用いるべきなど。
社会文化規範 接触場面において設定される基底規範のうち、その社会、文化に根付いている一般常識的な行動様式の規範のこと。「目上には上座を譲る」や「初対面ではハグをする」など。

 選択肢1
 相手(非母語話者)にうまく話が伝わらなかったり、言ってる内容が分からなかったりしたとき、この人は日本語があまり上手ではないだろうと思い、ゆっくり話したり、簡単な言葉で話したりするようになります。これが調整。

 選択肢2
 非母語話者がうまく話ができないような場面では、母語話者がコミュニケーションを取るために非母語話者をサポートしようとします。相手の言いたい単語を先取りして教えてあげたり、スキャフォールディングのようなこともするし、相槌で間を繋げたりとか。

 選択肢3
 非母語話者の部下が母語話者の上司に「ごめんなさい」と言う場面を考えます。
 この人は母語話者ではないし、この場面で「ごめんなさい」が適切ではないことを知らなくてもしょうがないなと思って見逃す場合も十分考えられます。ただ上司と部下という関係なので見逃されない可能性も多いにあります。「否定的な評価をしない傾向にある」とは言えません。

 選択肢4
 その通りです。普段の会話でコミュニケーションエラー、意思疎通の問題が全く起きない非母語話者に対しては、多少の逸脱は見逃されたりします。あまりにも日本語が上手な外国人には間違いを指摘しなくなる傾向が確かにありますね。

 したがって答えは3です。

 

問5 意味交渉

 「意味交渉」と出てきてます。ここからロングのインターアクション仮説を思い出せるかどうかが勝負。
 インターアクション仮説とは、学習者が目標言語を使って母語話者とやり取り(インターアクション)する場面で生じる意味交渉が言語習得をより促進させるとする仮説です。意味交渉はインターアクションの中で生じる意思疎通の問題を取り除くために使われるストラテジーで、以下の3つに分けられる。

明確化要求 相手の発話が不明確で理解できないときに、明確にするよう求めること。
確認チェック 相手の発話を自分が正しく理解しているかどうか確認すること。
理解チェック 自分の発話を相手が正しく理解しているかどうか確認すること。

 1 意思疎通の問題なし
 2 「東京を出たことがない」についてもう一度確認してます。確認チェックです。
 3 意思疎通の問題なし
 4 意思疎通の問題なし

 したがって答えは2です。

 





令和2年度, 日本語教育能力検定試験 解説