令和2年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ 問題7解説

問1 逆行(バックスライディング)

 逆行とは、第二言語習得過程において、一度修正された誤用が緊張や不安などの原因によって再び現れることです。

 1 「位置」の誤用?
 2 英語ではこのように書くので、英語のルールを日本語にも適用した「転移」
 3 アコモデーション理論のコンバージェンス(自分の話し方を相手の話し方にできるだけ近付けていくこと)
 4 言えていた表現が言えなくなる。これが逆行です!

 したがって答えは4です。

 

問2 文法的な正確さに関わる誤用

 選択肢1
 「新しい薬が風邪を治しました」は違和感があります。なぜなら、「治す」は意志動詞なのに治す主体が意志を持たない「新しい薬」だからです。「新しい薬で」とすれば大丈夫かな。
 これは文法的な正確さに関わる誤用とは言えませんけど、じゃあなんていうのかは分かりません…

 選択肢2
 転移だと思います。別の言語では「私はどこにいますか」と言うものもあるのかな。

 選択肢3
 「うち」と「とき」は意味的に似ていて混同してます。どういうときにどっちを使うべきか、その文法使用の正確さが欠如しているために起きている誤用なので、これが文法的な正確さに関わる誤用。

 選択肢4
 受身形を使用しない誤り

 したがって答えは3です。



問3 誤形成

 市川は誤用例文を以下の6つに分類しています。

脱落(omission) 当該項目を使用しなければいけないのに使用していない誤用。その項目がないと非文法的になる場合と、非文法的ではないが、適切でないという場合がある。
付加(addition) 脱落とは逆に、使用してはいけないところに使用している誤用。
誤形成(misformation) 「したがって」が「たしがって」になるなどの形態的な誤り。(活用、接続の仕方)
混同(alternating form) 「そして」と「それで」、「かならず」と「きっと」などのように、他の項目との混乱による誤り。
位置(misordering) その項目の文中での位置がおかしい誤り。語順による誤りも含まれる。
その他 上記に属さない誤用。

 1 「に対して」と「を」の混同
 2 「高い」の活用を誤る誤形成
 3 「が」の位置の誤り
 4 「から」と「を」の混同

 したがって答えは2です。

 

問4 母語の影響

 答えは4、スペイン語の可能性が高そうです。詳しくはコメント欄をご覧ください。
 その他、英語、韓国語、タイ語を学ばれている方々からのご協力をお待ちしております。
 どうかよろしくお願いいたします。

 1 
 2 
 3 タイ語には[h]の発音があるので、[h]が抜け落ちることがないのでは? とのこと…
 4 

 

問5 付加のストラテジー

 文章中の「指導につなげるには~」以降は、学習者の誤用の原因は色々なものがあるよと述べられています。例えば、母語の影響(転移)、学習者の言語処理ストラテジーの影響、教師による指導の影響(訓練上の転移)などさまざま…
 そのうち学習者の言語処理ストラテジーの影響というのから出題してるのが問5です。23年度以降初めて出題されました。

 これについても調べ中… 今手元にある情報でとりあえず解説します。

 認知言語学からアプローチした言語習得モデルに、ラネカー(R.Langarcker)の用法基盤モデル(UBM:Usage-based Model)があります。これについて野田他(2001)は、中国語、韓国語母語話者の中級学習者を対象に、学習時に用いられる言語処理ストラテジーについて研究しました。そこには2つのストラテジーが見られたそうです。

 ①ユニット形成のストラテジー
 初級中級では、上、下、中、前、後ろなどの位置名詞には「に」を、学校、食堂などの建物、地名には「で」を使うというように、ある複数の語をひとまとまりとして覚える傾向がみられたそう。1つのユニットを形成して用いているので、これをユニット形成のストラテジーを呼んでいます。
 また、位置によって使い分ける「あの」「その」を、具体名詞には「あの」、抽象名詞には「その」と使う傾向もあったとか。これもユニット形成のストラテジーです。

 ②付加のストラテジー
 文法形式の習得が不十分な段階で、ある語を独立した単位とみなし、そこに特定の言語形式を付加する学習者の言語処理のストラテジーです。例えば「食べる、できます」と言ったりするのがこれにあたります。

 1 「ある」の否定形を知らなかったので、「ある」に否定の「じゃない」を付加した付加のストラテジーによる誤り
 2 「その」と「あの」の混同は、上述のユニット形成のストラテジーによる誤り
 3 「で」と「に」の混同は、ユニット形成のストラテジーによる誤り
 4 「考えられる」が「考えれる」になるのはら抜き言葉。言語処理ストラテジーじゃないと思う。

 したがって答えは1です。

 




2022年9月23日令和2年度, 日本語教育能力検定試験