令和2年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ 問題3C解説

(11)引用節に含まれる対人的モダリティ

 この問題は引用節の問題です。引用節とは何かについて軽く説明しますと…
 2つ以上述語を持つ複文は補足節、名詞修飾節、副詞節、等位節の4つに分けられます。引用節は補足節の下位区分です。複文の分類はめちゃくちゃ複雑ですので、ここに書くのはごく一部です。

補足節 名詞と同じ役割を果たす名詞節や発言・思考等を引用する引用節など… マンガを見ることが好きだ。
彼は、私は結婚しないと言った。
名詞修飾節
連体修飾節
名詞を修飾する節 彼女が作った料理を食べた。
昨日買った服を着て行く。
副詞節 二つの事態の因果関係を表す条件節や目的を表す目的節など… 薬を飲んだら、治った。
逃げるために、車を用意する。
等位節・並列節 主節と対等な節や主節以外の節と対等な節 兄は頑固で、弟は柔軟だ。
分かるような分からないような、難しい。

 引用節発言や思考、命令・依頼・祈願等を引用する節です。

 (1) 彼は、私は結婚しないと言った。
 (2) それは間違いだと思う。

 各選択肢は全て複文なので、とりあえず主節と従属節に分けてみます。

主節 従属節(引用節)
父は私に叱ってきた もっと真面目にやれと
見ています 田中君の病気はすぐによくなると
思いますよ 彼女ならもう来るんじゃないかと
山田先生は呼ばれています 生き字引と

 モダリティは命題に対する認識や判断を表す対事的モダリティと、聞き手に対する対人的モダリティに分けられます。

 選択肢1
 「もっと真面目にやれ」の「やれ」は話者の主観を反映した聞き手に対する命令のモダリティ表現です。

 選択肢2
 引用節にモダリティ表現なし(命題のみ)

 選択肢3
 「もう来るんじゃないか」の「か」が疑問の終助詞(対人的モダリティ)に見えますが、実は違います。
 来るか来ないかの断定性を弱めている、事態に対する認識や判断を表す対事的モダリティだと思われます。

 選択肢4
 引用節にモダリティ表現なし(命題のみ)

 したがって答えは1です。
 従属節は主節に対する従属度が高いか低いかで、その内部に含める文法的要素にばらつきがあります。それについて問う問題でした。

 

(12)引用

 引用の「と」が見極められますか?という問題。
 引用の「と」は引用部分を「 」でくくることができるので、これを判断基準にしてもいいですね。

 彼は「今日来る」と言っていた。
 「敬語は難しい」と思う。
 「お金を貸してほしい」と頼まれた。

 1 「店番して」とお願いしている。(引用のト)
 2 「怪しい」と疑っている。(引用のト)
 3 「もう行かない」とこぼしている。(引用のト)
 4 この「と」は変化を表す文法「~になる/となる」の一部であって、引用ではありません。

 したがって答えは4です。

 参考:格助詞の用法一覧
 参考:【N4文法】~になる/となる



(13)名詞修飾節と非修飾名詞の間の助詞

 例文検証の時間です。

 1 彼は来ないとのことだ。
 2 〇〇センターって建物
 3 
 4 〇〇センターという建物

 選択肢3「として」で名詞修飾節を作ることはできませんでした。もし「としての」だったら「担当者としての責任」みたいに名詞修飾節を作れるんですけどね…
 したがって答えは3です。

 

(14)引用節とト格

 選択肢1

 彼に大事な話があると伝えた。

 引用節内にガ格が使えます。

 選択肢2

 彼は「早くしろ」と頼んだ。
 彼は「早くしてください」と頼んだ。

 「~しろ」以外にも使えます。

 選択肢3

 彼は「そろそろ出発するよ」と言った。

 終助詞「よ」は使えます。直接引用の場合は発言をそのまま引用するので、終助詞もそのまま引用します。

 選択肢4

 私は地球は平面だと思う。
 私は地球は平面ですと思う。(✕)

 「~と思う」で引用する部分にデス・マスを使うと変です。

 したがって答えは2です。

 

(15)引用の「~ように」

 選択肢1

 ・先生は皆にすぐ帰るように言った。(現在形含む)
 ・先生は皆に時間になったらすぐ帰るように言った。(現在形も過去形も含む)

 下線部が引用節です。引用節内には「帰る」という現在形が含まれていますし、過去形「なった」も含むことができます。
 現在形も過去形も使えますのでこの選択肢は間違い。

 選択肢2

 ・明日までに完成させるように頼まれた。
 ・明日までに完成させますように頼まれた。(✕)

 この例だと普通体は使えますが、丁寧体は使えませんでした。しかし… 次のような言い方だと丁寧体は使えます。

 ・至急折り返しくださいますよう、お願いいたします。

 間接的な依頼だと普通体ですが、直接的な依頼だと丁寧体が使われることがあります。
 この選択肢は間違いです。

 選択肢3

 ・私は明日までに提出するように命じた。

 ↑の文の「ように」は命じた内容が何であるか示すもので、つまり引用の「ように」です。
 仮に主節「私は命じた」を省略すると「明日までに提出するように」になります。この文の「ように」はアドバイス・忠告の用法の「ように」で、一種の命令の意味を持ちます。実は引用の「ように」ではありません。
 主節を省略すると「ように」は引用ではなくなってしまうものの、省略は可能です。

 参考:【N3文法】~ように/ないように

 選択肢4

 ・今回もうまくいくように思う。
 ・今回もうまくいくよう思う。(✕)

 この本には「『に』を省略することはできない」と書いています。上の文も「に」は省略できません。したがってこの選択肢は正しいです。
 したがって答えは4

 参考:【N4文法】~ようだ/ように/ような
 参考:【N3文法】~ように/ないように

 




2022年9月23日令和2年度, 日本語教育能力検定試験