令和2年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ 問題3B解説
(6)比較の文型
太郎は花子におとらずよく食べる。
太郎も負けず嫌いだけど、花子も太郎と同じくらい負けず嫌い。つまり太郎と花子の程度は同じくらい高いので「太郎も花子も負けず嫌いである」ですね。
したがって答えは2です。
(7)比較の文型②
太郎は花子よりたくさん食べる。
太郎は花子におとらずたくさん食べる。
述語は主語以外の要素を指しますが、ここでは「食べる」の前だと思えばいいです。
イ形容詞やナ形容詞、副詞で修飾した動詞「食べる」が述語に来れると書いてるけど本当? まずは検証。
イ形容詞+動詞 | 太郎は花子より早く食べる太郎は花子におとらず早く食べる |
---|---|
ナ形容詞+動詞 | 太郎は花子より豪快に食べる太郎は花子におとらず豪快に食べる |
副詞+動詞 | 太郎は花子よりたくさん食べる太郎は花子におとらずたくさん食べる |
確かに来れますね。そりゃ当然…
そしてこれら以外にも入る要素があるそうです。各選択肢を見ていきます。
選択肢1
・太郎は花子よりここです(?)
・太郎は花子におとらずここです(?)
「ここ」「そこ」「あそこ」などが場所を表す指示詞。述部に来ると変。
選択肢2
・太郎は花子より近く(?)
・太郎は花子におとらず寒さ(?)
イ形容詞やナ形容詞からの転成名詞には大きく2種類。イ形の連用形「近く」「遠く」「多く」や、「寒さ」「綺麗さ」「厚み」「楽しげ」などの接尾辞がついたものです。述語の位置には来れません。
選択肢3
・太郎は花子より3つ(?)
・太郎は花子におとらず5個(?)
具体的な数字ってこういう感じ? だったらダメ。
選択肢4
・太郎は花子より相当大人だ。
・太郎は花子におとらず相当大人だ。
程度副詞によって修飾できる名詞の例として「相当大人」を挙げましたが、ちゃんと述部に置くことができました。
比較を表す文型は2つ以上の人物や物事の性質や状態を比較するものなので、状態性を持つ語が述語に来ないといけません。代表的なものはイ形容詞、ナ形容詞です。それから選択肢4のように「大人」「子ども」「素人」「プロ」などの一部の名詞も状態性を持ちます。そして程度副詞は状態性を持つ語を修飾できます。
程度副詞+??? | 例 |
---|---|
イ形容詞 | とても美しい |
ナ形容詞 | とてもきれい |
様態副詞 | かなりきっぱり言った |
状態性の連体詞 | とてもおかしな話、かなり大きな夢 |
状態性の動詞 | とても似ている、とても疲れた |
状態性の名詞 | とても大人、かなりの素人 |
一定の範囲を持つ時間名詞 | とても昔、とても最近 |
一定の範囲を持つ空間名詞 | とても近く、もっとこっち |
したがって答えは4です。
(8)比較
こういうのは面倒くさいけど例文検証すれば答えが分かります。試験中は焦りがあるから難しいんですけどね…
選択肢1
「太郎は花子よりもっと負けず嫌いだ」
「もっと」は2つの比較に使えますのでこの選択肢は間違いです。
選択肢2
否定形を呼応させた「太郎は花子よりかなり負けず嫌いではない」は変な感じがします。別に文法的に間違っていないんですが、使いにくいと言えるでしょう。やっぱり自然なのは肯定系「太郎は花子よりかなり負けず嫌いだ」ですね。この選択肢は正しいです。
選択肢3
「少し小さい」は「小さい」の程度をさらに少しマイナス方向に強めます。しかし「少し大きい」は「大きい」の程度をプラス方向に強めます。程度副詞は修飾する形容詞が元々持っているプラスマイナスの方向に合わせて程度を限定します。絶対的な程度が小さいことを表す場合はマイナスの形容詞を修飾した場合です。プラスの語につけば程度を高めることもできます。
選択肢4
「3つのリンゴを食べた」は数量詞の連体用法、「私はリンゴを3つ食べた」や「私は3つリンゴを食べた」は数量詞の連用用法です。連用用法も連体用法もあります!
ちなみに連用数量詞(遊離数量詞)は副詞が現れる位置に置かれますので、副詞的に用いているとも考えられます。
したがって答えは2です。
(9)比較する文型の言い換え
ここでは三つ以上の物事が関わる比較の話をしています。
例えば「お金、人間関係、健康で最も気をつけていることは健康だ」は単純に3つの要素を挙げて、最も大事なものを述べる超シンプルな言い方です。これを同じ意味で別の言い方にするとどうなるかということ。各選択肢を見ていきます。
選択肢1
「健康こそ最も大切なものだ」だったら言い換えできてますけど、「誰しも」とかが余計。自分の意見を一般化すると意味が変わってきます。
選択肢2
この言い方は「健康だけ気をつけている。それ以外のお金や人間関係は気をつけていない」という意味合いになって、元々の意味とは変わってます。
選択肢3
この言い方も「健康だけが大事。それ以外は大事じゃない」という意味なので、元々の意味と違います。
選択肢4
意味も変わらず言い換えに成功してる感じがします。「他のものも大切だけど、一番は健康だ」と言ってます。元の意味と同じです。
したがって答えは4です。
(10)程度が甚だしいことを表す文型
選択肢1
「皆様のご声援に感激の至りでございます」では、感情「感激」が極限に達することを表しています。
選択肢2
選択肢3が答えなので「極まりない」には望ましい状態を表す用法があるようなんですが、ありますか?
不愉快極まりないとか、普通は極限を表しますよね… 例がありましたら教えてください!
選択肢3
形容詞+名詞は「~い+名詞」の形を取ります。これが形容詞の連体形。
形容詞を名詞化した「美しさ」なら「美しさこの上ない」と接続できますが、形容詞連体形「美しい」は「美しいこの上ない」と言えないので、この選択肢は正しいです。どうしても連体形を使いたいなら「美しいことこの上ない」と、「こと」が必要です。
選択肢4
サ変動詞語幹「感激(する)」に接続して「感激の極みだ」という言い方もありますけど、サ変動詞語幹ではないものも接続できます。例えば、痛恨の極み、ゲスの極みなど。
したがって答えは3です。
参考:【N1文法】~の至り(いたり)
参考:【N1文法】~極まる/~極まりない
参考:【N1文法】~ことこの上ない/この上ない~/この上なく~
参考:【N1文法】~の極み(きわみ)
ディスカッション
コメント一覧
先生の解説通り、
「この上ない」は、形容詞連体形「美しい」は「美しいこの上ない」と言えないので、この選択肢、形容詞の連体形の後ろに直接接続しない・・・これが正解ですか??
初コメです
私も(10)選択肢2「極まりない」の望ましい状態を表す例文を見つけられませんでした。試験では2か3で迷って2をマーク。「極まる」だったら「感極まる」がありますが、これも果たして望ましい状態なのか?と
出題ミスで2も3も正解になることを期待してますw
>ソムタムさん
あっ、解説間違っていましたね!
直接接続できないから選択肢3ということですか。ありがとうございました!
美しいこと極まりない って私、普通に使うと思ってました。
たしかに望ましくないことに使う方が多いようですが。
こんな例文がありました。
二人に冷静極まりない声で指摘され、さすがの伊月もようやく我に返って動きを止めた。
(椹野道流『鬼籍通覧3 壷中の天』より引用)
とはいえ強力極まりない物的証拠が目の前にある以上、あまり強く反論はできない。
(五十嵐雄策『乃木坂春香の秘密 第10巻』より引用)
>町川さん
「美しい」も「冷静」も「強力」も状態性の語(何かを形容する語)なので、「極まりない」に接続するとその状態性を限定する用法になるはずです。
仮に望ましい状態を表す「極まりない」があるとすれば、状態性の語以外の語につくのではないかと予想されますが、いまだに見つけられていません。
「~したいこと極まりない」という言い方があるかどうか考えましたが、自然ではありませんね。
めっちゃくちゃ(うれしい、楽しい、ワクワクする、ドキドキする、緊張する、アホな)こと、
ウーン?!? ”アホなこと”は言うけど、”ボケなこと”は言わないような?!? なぜ?!?
ボケを形容詞として使うとしたら な、ではなく た を使うのでは? ボケた(こと)
なーるほど、私としたことがボケたこと極まりなかったです、 ?ポジティブ?
すいません、全くもってボケたこと極まりなかったです。ごめんなさい、
初めまして、いつも勉強させていただいてます。
(10)の「極まりない」に関して、「巧妙極まりない」はどうでしょうか。
「部長の巧妙極まりない話術で交渉は成功した。」
なんてのは望ましい状態ではないでしょうか。
まだまだ過去問を解いている段階です。
問3Bは、(6)以外確実な答えが出せず、用例などを思い浮かべてあてはめたりはしていますが、
下線部Bの例って?とか、文章の最後、連続的と言えるって?
という感じで、本文の意図がくみ取れないことが多々あります。
ただ単に、未熟なのか、何かくみ取り方にコツがあるのか・・。
何か良いアドバイスはありますか?
>渡辺彩子さん
コメントありがとうございます。
コツはごめんなさい、あるようには思えません。専門的な言いまわしが出てきますので慣れていくだけです。
この問題については問題文を読まないと解きにくいですが、多くの問題は問題文を読まなくても知識があれば解けます。じっくり読んでいると時間がなくなってしまいますから、基本は下線部だけ読んで解いてください。
痛快極まりない、はどうでしょうか?
「述語の位置には~~~を受けた動詞以外に○○がはいることもある」ということは、動詞の位置に名詞が来るという解釈をしたのですが、ここではどうして例文でいう「食べる」の前に選択肢の名詞をいれてみているのでしょうか。
説明わかりづらかったらすみません。
>羽柴さん
(7)の選択肢1についてでしょうか。
「食べる」を省いて述語を「ここです」などの形で例文を挙げた方が正しかったですね…。こちらの間違いでした。修正いたします。
(10)の問題、私も選択肢2を選んで沈没してしまいました。
間違っているかもしれませんが、望ましい状態を表す使い方としては、「爽快極まりない」「豪華極まりない」「贅沢極まりない」という表現だったら、旅行や観光地紹介のテレビ番組などでタレントさんが言いそうかなと思いました。
こんにちは。
R2試験Ⅰ問題3B(7)
程度副詞+状態性の名詞の例文「かなりの大人」とありますが、
この「の」って何ですか?
副詞が名詞を修飾する時は、助詞が入ることもあるという理解でいいでしょうか?
分からなくて…教えてください。
>匿名さん
その通りです! 副詞は通常用言(動詞、イ形容詞、ナ形容詞)を修飾しますが、たまに名詞を修飾することもあります。
その場合は「副詞+の+名詞」の形をとることがあります。他にも「たくさんの人」とかですね。
ちなみに副詞が副詞を修飾するときもあります。「もっとゆっくり歩いてください」のような例です。副詞「もっと」は副詞「ゆっくり」を修飾しています。
ありがとうございます。
分かりました!分かったことが嬉しいです。
毎日勉強頑張ります!