令和2年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ 問題1(15)解説

(15)直示表現(ダイクシス)

 出ましたダイクシス。苦手な人は苦手なところですね。

 発話場面に依存して意味が決定する言語表現のことを直示、ダイクシスと言います。例えば、「これは美味しい」では、その場にいれば「これ」が何を指しているか分かりますが、その場にいなければ何なのか特定できません。また、Aさんが「私は女性です」と言えば「私」はAさんを指しますが、Bさんが言えば「私」はBさんを指します。「私」は常に話し手を指す人称代名詞なので、発話場面で指し示すものが変わる直示表現です。

 直示は以下の6つに分類されます。

人称直示 人物を指し示す人称代名詞全般。私、僕、あたし、俺、あなた、君、お前、この人、その人、あの人、これ、それ、あれ、彼、彼女、お母さん、お父さん、社長、部長、課長等々…
空間の直示 話し手のいる場所を基準にして指し示すもの。これ、それ、あれ等の指示代名詞、ここ、そこ、あそこなどの場所を指し示すもの、こっち、そっち、あっちなどの方向を指し示すもの、上下左右、前後など。
時間の直示 発話時との関係で時間を指定するもの。今日、昨日、明日、来月、来年など。
談話の直示 発話時よりも前や後の発言内容を指し示すもの。さっきの話、そのこと、その話、その言い方、以上、以下など。
社会的直示 話し手の社会的地位を基準にして表される、聞き手や話題となる人物との社会的な立場の違いのこと。主に敬語のこと。
直示的動詞 話し手の視点を基準にした移動行為を表す「行く」と「来る」や、話し手を中心に行われる授受を表す「あげる」「もらう」「くれる」など。

 
 選択肢1
 Aさん側とBさん側が電話してるのかな?
 Aさんが「こちらはみんな元気ですよ」と言ったら、「こちら」はAさん側を指します。でもBさんが言ったら「こちら」はBさん側を指します。
 だから「こちら」は発話場面によって指し示すものが変わる直示表現です。

 選択肢2
 「後ほど」っていうのが時間的にどのくらい後を指すのかは曖昧ですが、ここでは分かりやすく1時間後として解説します。
 2時に電話を切って「後ほど折り返します」と言ったら、「後ほど」は3時を指します。でも3時に言ったら「後ほど」は4時を指します。
 これも発話場面(発話時)によって指し示すものが変わっているので直示表現です。

 選択肢3
 指示詞のうち、発話現場の物理的な文脈情報に支えられている「あそこで休憩しよう」「そこの醤油とって」などの現場指示は直示です。「そのプリン美味しかったですか? - あのプリン美味しかったなあ」の文脈指示「その」「あの」は談話の直示のように見えますが、実は違います。発話時を基準にして前後の発言を指し示しているわけではなく、ただ先行するものを指しているだけだからです。文脈指示の中にも、発話時を基準にして指し示すものとそうではないものがあるので注意が必要です。




直示
(談話の直示)
発話時よりも前の
発言を指し示す
A:あそこの交差点で事故があったらしいよ。
B:その話、もうちょっと詳しく話してもらっていい?
発話時よりも後の
発言内容を指し示す
これから述べることは全て事実です。
非直示 発話時と関係なく
先行するものを指す
そのとき彼は「~~~」って、こう言ったんだ。
発話時と関係なく
後続するものを指す
そのとき彼はこう言ったんだ。「~~~」って。

 駅は目の前にあるとは考えられないので「そこ」は文脈指示です。この「そこ」は発話時を基準にしているわけではなく、ただ先行している「駅」を指し示すだけで直示ではありません。

 選択肢4
 1月1日(日)に「今週」と言えば1日~7日を指します。1月8日(日)に「今週」と言えば8日~14日を指します。
 「今週」は発話時を基準にして時間を指し示す相対時間名詞で、時間の直示です。

 選択肢5

 A地点から「川の向こう側」と言えばB地点を指し、B地点からではA地点を指します。発話現場によって指す場所が変わる空間の直示です。

 したがって答えは3です。

 参考:相対時間名詞と絶対時間名詞からみる「明日」と「翌日」の違い

 





令和2年度, 日本語教育能力検定試験 解説