静寂を表す「しーん」は擬態語か、擬音語か
マンガで見られる「しーん」は擬態語ですか? 擬音語ですか?
先ほどオノマトペについての授業をしていたとき、こんな質問いただきました。
考えたこともなかった例です。
擬態語、擬音語って?
ぐるぐる、ぴかぴか、ころころ、どんどん、ねばねば、じんじん等、音や様子を文字で表現した語がオノマトペで、そのうち、実際に聞こえる音を文字で表したのが擬音語で、実際に聞こえない音を文字で表したのが擬態語です。
以前日本語教育能力検定試験で「ひそひそ耳打ちした」の「ひそひそ」は擬音語か擬態語かという問題が出ました。
他人に聞こえないように小声で話すさまと説明される「ひそひそ」ですが、これはどう考えればいいのだろうと迷った記憶があります。
答えは擬音語でした。
遠くで二人が小声で話しているが、その内容はこちらに聞こえることはない。その小声がかすかに聞こえる様子を表した「ひそひそ」というわけです。
しかし、耳打ちしてる様子は見えるけど、その「ひそひそ」すらも聞こえない距離にいればどうでしょうか。
音が届くかどうかは距離にかなり影響受けますので、じゃあ「ひそひそ」は距離によって擬音語にも擬態語にもなる?
そんな曖昧な定義は許されませんよね…
どの本に書かれている内容から出題しているのかは分からないですが、ぜひ読んでみたいものです。
「しーん」は擬態語!
それはそうと本題の「しーん」です。
マンガの背景に「しーん」と書かれていると日本語母語話者ならすぐすっごい静かなんだなって分かると思います。
この「しーん」で周囲の環境音が完全に無い極限の静寂を表すことができ、まるで時間の流れも遅くなるような感じさえもします。時間まで歪めるとは只者ではありません。
結論から言うと「しーん」は擬態語です。
「しーん」に限らず、音がないものを表すことができるのはオノマトペの得意技。
例えば、何か比較的小さめのものが自由落下する様子を「ひゅー」と言いますが、これも落下を表す擬態語で本来音はありません。
草花が生気を失って下方向を見たら「へなへな」なんて言いますが、これも音はありません。
よく考えてみると、音がない様子を文字化しているのだから「しーん」は擬態語でしょう。
擬音語か擬態語かの判断を鈍らせるのは、実は「しーん」が聞こえているから?
ただ、めちゃくちゃ静かな場所では本当に「しーん」が聞こえることがあります。たぶん皆さん経験があるはずです。
これについて調べてみたら、NHKの「チコちゃんに叱られる!」で触れられていたみたいです。毎週土曜朝に放送してる、私も毎週見てるめっちゃためになる番組ですね。
放送ではだいたいこんな内容だったそうです。
人の耳は空気の振動を音として感じ取っている。
耳に入った振動が鼓膜を通して蝸牛(かぎゅう)に伝わり、そこから脳に電気信号として送られる。
この蝸牛が電気信号に変換する際に、蝸牛内にある外有毛細胞が大きな役割を担っている。
外有毛細胞は大きな振動を吸収して小さくし、逆に小さな音は毛を揺らして増幅し音を大きくしている。
騒がしい場所でも自分に必要なことだけを聞き取ることができる(カクテルパーティー効果)のはこれが関係している。
静かな空間にいても小さな音を拾おうとするため、外有毛細胞は絶えず動いている。
その外有毛細胞の振動音が「しーん」の正体ではないか。
すっごいためになります。
これが本当なら「しーん」は実際に聞こえている音を文字化した擬音語ということになってしまいますが、そこまで踏み込んだ話に意味はありません。
ちなみにwikiにも「(しーんは)生理的耳鳴りの擬音語であるとする説もある」と書かれていますが、これは外有毛細胞のことでしょう。
聞こえていない音を文字化したはずなのに、実は「しーん」を多くの人が聞いたことがある。これが擬態語か擬声語かの判断を狂わせる原因だったということですね!
私の学生にも聞いてみました。
頭を悩ませていましたが、中国語なら「しーん」と同じ位置に「鸦雀无声」「寂静」という言葉を持ってきても良いそうです!
私もかなり勉強になりました。
…静寂を表すオノマトペ
小さな巨人、マイナス成長、無冠の帝王みたいな撞着語みたいで何かカッコよくないですか?
参考:https://xn--h9jua5ezakf0c3qner030b.com/3010.html#i-4
参考:シーンという音は実際になっている? チコちゃんの解説に困惑の声 – 記事詳細|Infoseekニュース
参考:擬声語 – Wikipedia
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