「お湯を沸かす」は正しい日本語? 目的語と結果目的語について

「お湯を沸かす」という日本語は正しいんですか。
「水を沸かす」じゃないんですか?

 学生からこんな質問をもらいました。水を沸かしてお湯になるから水を沸かすのほうがいいし、もうお湯なら沸かす必要はない。それが言い分でした。確かに沸かすなら水のような気もしますが、果たして「お湯を沸かす」は間違った表現なのでしょうか。

 

他動詞と目的語の関係

 動詞「沸かす」は他動詞に分類されます。
 他動詞とは目的語(ヲ格)をとる動詞のことで、他動詞文の動作主がそのヲ格名詞句に何らかの作用を及ぼすことを表します。例えば「野菜を切る」における「切る」は目的語の野菜に変化をもたらしていることが分かります。目的語は他動詞の動作の対象を表しているため、この性質から対象語と呼ぶこともあります。

 しかし、目的語の中には動作の対象を表すもの以外に、動詞の表す動作の結果として生じたものを表す用法もあります。これを結果目的語(Effective Object)と呼びます。

 

目的語と結果目的語の違い

 (1) 地面を掘る
 (2) 穴を掘る

 上記の例文の「掘る」に着目してみます。
 (1)は掘る対象が地面であり、掘られた地面には変化がもたらされます。この例文におけるヲ格名詞句「地面」は他動詞の動作の対象を表しているといえます。
 一方(2)は掘った結果”穴”ができています。掘る対象が穴というわけではありません。よってこの「穴」は他動詞の動作の対象を表しているわけではなく、動作の結果として生じたものを表しています。これが結果目的語です。
 このように目的語(ヲ格)には2つの用法があります。

 (3) ご飯を炊く
 (4) 料理を作る
 (5) お寿司を握る

 例文(3)~(5)のヲ格名詞句も結果目的語です。お米を炊いた結果ご飯ができているので”ご飯を炊く”といえるのです。

 

「お湯を沸かす」は正しい日本語

 つまり「お湯を沸かす」の「お湯」は結果目的語であり正しい表現です。
 逆に「水を沸かす」の「水」は動作の対象を表しているので、これもまた正しい表現です。

お湯を沸かす 「お湯」を作り出す
水を沸かす 水を沸騰させる

 この2つにニュアンスの違いは感じられませんし、どちらも正しい表現なのでどちらを使うかは自由ですが、日本語母語話者の一般的な語彙選択からすると「お湯を沸かす」のほうが多いのではないでしょうか。

 このような何気なく使われている表現に疑問を投げかけられるのは日本語学習者ならではという感じがしますね。

 





2020年3月27日日本語TIPS, 日本語教育能力検定試験 解説