2019年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅲ 問題12解説

問1 関係の公理

 協調の原理とは、グライス (H.P.Grice)が提唱した会話を円滑に進めるための原理のこと。量の公理、質の公理、関連性の公理、様態の公理の4つの会話の公理からなる。

量の公理 会話するにあたって必要な情報を提供すること。少なすぎても多すぎても良くないとする。「授業は何時ですか?」に対して「もうすぐです」は情報が少なく、「4時0分0秒です。」は余計な情報が付加されているため不適切となる。
質の公理 自分が真実ではないと知っていることや確信に達していないことについて言わないこと。嘘や皮肉などがこれにあたる。
関連性の公理 話題にあがっていることと関係のあることを話すこと。
様式の公理
様態の公理
不明瞭で曖昧な表現を使わずに簡潔に言うこと。

 1 曖昧なことを言っているので、様態の公理に反しています。
 2 必要な情報を提供していないので、量の公理に反しています。
 3 不明瞭で不必要な冗長性がありますので、様態の公理に反しています。
 4 話題が変わっているので、関連性の公理に反しています。

 したがって答えは4です。

 

問2 間接発話行為

 間接発話行為 (indirect speech act)とは、相手に何らかの意図を伝える際に、直接的な言い方を避け、間接的な言い方によって意図を伝えようとする発話行為のこと。例えば、小銭を借りるために「小銭貸して」というのではなく、「小銭ある?」と言い方を変えることなどが挙げられる。サール (J.R.Searle)の用語。

 選択肢2では、時計を持っているかどうかを聞いているのではなく、今何時かを聞いており、Yはそれを察して10時と答えています。
 したがって答えは2です。

 

問3 FTA (Face Threatening Acts)

 FTA (Face Threatening Acts)とは、ポジティブフェイスとネガティブフェイスを脅かすような行為のこと。FTAの度合い(フェイス侵害の度合い)は、次の公式で表される。

Wx=D(S,H)+P(S,H)+Rx

 Wxはある行為が相手のフェイスを脅かす度合い、D(S,H)は話し手と聞き手の社会的距離、P(S,H)は話し手と聞き手の相対的権力、Rxはある行為の特定文化における押しつけがましさの程度を表す。

 選択肢1
 FTAの度合いは3つの総和によって決まります。選択肢の「特定の行為の負荷の度合い」はRx、「相手との社会的距離」はD(S,H)を指しています。FTAはこれに加えて話し手と聞き手の相対的権力P(S,H)も関係しています。

 選択肢2
 

 選択肢3

 選択肢4
 ある行為の特定文化における押しつけがましさの程度(Rx)は文化によって異なります。言語権や文化に関係なく共通しているとは言えません。

問4 ポジティブ・ポライトネス・ストラテジー

 ポライトネス・ストラテジー (politeness strategy)とは、相手のポジティブフェイスやネガティブフェイスを侵害しないように配慮するための工夫のこと。相手のポジティブ・フェイスを確保しようとするポジティブ・ポライトネスと相手のネガティブ・フェイスを侵害しないようにするネガティブ・ポライトネスに分けられる。

 ポライトネス理論 (Politeness Theories)についてはこちらを参照してください。
 
 1 相手のネガティブ・フェイスに配慮するネガティブ・ポライトネス
 2 相手のネガティブ・フェイスに配慮するネガティブ・ポライトネス
 3 相手のポジティブ・フェイスを確保しようとするポジティブ・ポライトネス
 4 相手のネガティブ・フェイスに配慮するネガティブ・ポライトネス

 したがって答えは3です。

 

問5 待遇表現

 1 正しいです。敬語などの相手を高く位置づける表現以外にも、「お前」「貴様」のように低く位置づける表現もあります。
 2 天皇が自分に対して用いる自称詞は「朕」で、これは現代では用いられません。
 3 逆です。聞き手に丁寧な気持ちや態度を表すものは対者敬語で、話題の人物への敬意を表すものは素材敬語です。
 4 日本語の敬語はウチ・ソトの関係が優先されます。

 したがって答えは1です。

 





2019年度, 日本語教育能力検定試験 解説