令和元年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅲ 問題5解説
問1 ウォームアップ
文章中に「授業の基本的な手順」とありますので、ここから授業の流れである前作業、本作業、後作業が思い浮かびます。
前作業 | 本作業を行う前の準備段階のこと。本作業で行うタスクに関連する話題を提示することで、学習者の背景知識を活性化させ、学習効率を高めたりする段階。 |
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本作業 | その授業の中心となるタスクを行う段階のこと。 |
後作業 | その授業のまとめの段階のこと。 |
問題になっている「ウォームアップ」というのが言葉からして前作業を指しているんだということが何となく分かりますが…
文章中で示されている授業の手順は「ウォームアップ」→「文型導入」→「基本練習」→「応用練習」です。こういうときは前作業なんちゃらよりも文章中の手順に従って解いたほうがいいです。
1 新出の語彙や文型を使って話しかけているところが導入っぽい。文型導入で行うことです。
2 教師による導入のあとは、学習者に練習してもらう段階です。口慣らしという部分が基本練習を指しています。
3 誤用訂正の段階で、いかにも応用練習って感じです。
4 ウォームアップで行うこと。
したがって答えは4です。
問2 文型導入
1 正しいです。やり取りは双方向的なほうが良いです。
2 誤りです。説明から入るよりも、状況を提示して意味を推測させるほうが有意義な授業になります。
3 正しいです。新出の語彙もあり、新出の文型もありだと文型に集中できなくなるかもしれません。
4 正しいです。状況を設定しておけば、文型の意味を状況から推測したり、どんな場面で使うべきかも学ぶことができます。なにより実用的な表現を身につけやすくなります。
したがって答えは2です。
問3 拡張練習
パターン・プラクティス(文型練習)とは、オーディオリンガル・メソッドで用いられた、特定の文型を瞬間的かつ正確に扱える力を身に付けるための練習方法のことです。いろんな種類があります。
代入練習置換練習 | ある文型の語彙や表現を、教師が提示した語彙や表現に入れ替える練習。 「本」→「机に本があります」 「ペン」→「机にペンがあります」 |
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変形練習 | 教師が提示するキューに従って文型を変形させていく練習。 「彼は泳ぎます」→「彼は泳げます」 「私は英語を話します」→「私は英語を話せます」 |
応答練習 | 教師の質問やキューに対して、指定された文型を用いて答える練習。 「釣りは好きですか? はい」→「はい、好きです。」 「陶芸は好きですか?」→「いいえ、好きではありません」 |
結合練習 | 2つの文を1つにする練習。 「テレビを見ます、ご飯を食べます」→「テレビを見ながら、ご飯を食べます」 |
拡張練習 | 教師が提示するキューに従って、言葉を繋げて拡張していく練習。 「学校に行きます」「学校に行きます」 「自転車で」「自転車で学校に行きます」 「8時に」「8時に自転車で学校に行きます」 |
反復練習 | 教師が言った言葉をそのまま繰り返させる練習。 「本」「本」 「読みます」「読みます」 |
完成練習 | 教師が提示する文の不足した部分を学習者が補い完成させる練習。 「ご飯を食べながら」「ご飯を食べながら、テレビを見ます」 「ご飯を食べながら」「ご飯を食べながら、話をします」 |
1 完成練習
2 代入練習
3 拡張練習
4 変形練習
したがって答えは3です。
問4 応用練習
1 正しいです。復習、定着を兼ねて一緒に使わせるのは全然良いですね!
2 ”応用”練習でモデル会話を繰り返し復唱させるのは… それは応用じゃないです。
3 本場のやり取りではないって言っちゃえば教室でやることは全部本場じゃないんで… でも役割や場面を設定して行うと本場に近い環境を生み出せるので、こういう活動こそ、実用的な表現を身につけるためにも応用練習で行うべきです。
4 学習者間の会話能力に差がある場合、片方はうまく言えない、もう片方は分からないみたいな状態が起きやすいので、それ自体がインフォメーション・ギャップに近い状態になってます。お互い頑張って意思疎通を図ろうとすればそれだけ習得を促進するので、情報差があることは悪くないです。
したがって答えは1です。
問5 授受表現の誤用
中級の学習者の授受表現に関する誤用について…
選択肢1
「東京にもやっと春が来てもらった」は、「くれる」と「もらう」を混同してます。正しくは「来てくれた」。あるいは授受表現を無くしてたんに「来た」でも良いです。
ガ格に用いられるのが人間でないどうこう、全然関係ありません。
選択肢2
「お上げする」という言い方は存在しません。正しくは「先生にお土産を差し上げました」です。謙譲語の一般的な作り方のルールとは「お+動ます形+する」「ご+動ます形+する」のことで、お預かりする、ご案内するなどがこのルールに従って作られた謙譲語です。しかし、あげる、もらうを始め、行く、来る、言う等々、一部の動詞はこのルールで謙譲語を作ることができず、それぞれ独自の動詞を持っています。「あげる」は「差し上げる」、「もらう」は「いただく」、「行く」は「参る/伺う」などです。この問題の誤用は、専用の謙譲語がある「あげる」に一般的なルールを適用したことによる誤用といえます。
選択肢3
「休ませていただけませんか」というべきです。「いただく」の活用を間違えてます。
「休ませていただきませんか」は「休ませて」と使役形を用いていますが、「休ませて」の部分は誤りではありません。
選択肢4
「もらう」は受け取り手(私)が主語になり、「くれる」は与え手が(タクシー)が主語になります。「すぐに来てもらった」の「来る」の動作主はタクシーなので、「(タクシーは)すぐ来てくれた」というべきです。動詞が取る主語がごっちゃになってることによる誤りです。
「(私は)タクシーを呼んだら、(私はタクシーに)すぐ来てもらえた」みたいに前件と後件の主語は同じでも大丈夫ですし、「(私は)タクシーを呼んだら、(タクシーは)すぐ来てくれた」と主語が違っても大丈夫です。主語が異なることによる誤りというわけではないです。
したがって答えは2です。
ディスカッション
コメント一覧
過去問解説ありがとうございます。
問3のパターンプラクティスの分類なのですが、学者によって色々な分類と解釈があると思いますが、赤本212ページの分類だと、1は完成練習 2は応答練習 の様にも思えました。
>トシさん
コメントありがとうございます。
大変勉強になりました。パターンプラクティスには完成練習というものもあるのですね…
見返してみると選択肢1は応答練習ではなく、完成練習です。大変失礼いたしました。
パターンプラクティスについては新しい情報に更新しておきます!