令和元年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅲ 問題1解説
問1 他動詞文
選択肢1
「髪を切る」は髪に対する変化をもたらしてますし、「醤油を取る」は醤油の位置に変化をもらたしてます。
他動詞文の動作主は他動詞の対象に変化を引き起こします。
選択肢2
おそらく、相互動詞文のことかなあと思います。
結婚する、喧嘩する、競う、争う、別れる、戦うなどは必須の相手をト格で取り、「~が~と」の形になります。
「AとBが結婚する」においては、Aは動作主、Bは動作の対象ということ?
選択肢3
他動詞の補語はヲ格を取ります(目的語にヲ格を取ります)。
ニ格を取るのは、移動動詞文です。「学校に行く」「家に向かう」などなど…
選択肢4
自動詞文の説明です。
「星が光る」では、主語「星」の状態を「光る」と言っています。
また、「雨が降る」では、述語「降る」の動作主体をガ格補語で示しています。
述語と補語の間に関係があります。
したがって答えは1です。
問2 迷惑受身(間接受身)
受身文は直接受身と間接受身に分けられます。
直接受身は対応する能動文があり、間接受身はありません。ですから能動文を作ってみると、どちらか判別できます。
受身文 | 能動文 | |
---|---|---|
1 | (私は)先生に掃除を頼まれた | 先生は(私に)掃除を頼んだ |
2 | 夫が知人に批判された | 知人は夫を批判した |
3 | (私は)花子に先に就職された | 直接対応する能動文なし「花子は先に就職した」に「私を」や「私に」を挿入できない |
4 | (私は)若者から席を譲られた | 若者は(私に)席を譲った |
選択肢3だけ能動文がありませんので間接受身!
したがって答えは3です。
問3 自動詞
選択肢1
「ボールを蹴る」の「蹴る」は目的語にヲ格を取っているので他動詞です! じゃあ「蹴る」に対応する自動詞は何でしょうかというと、実は元々ありません。しかし「ボールが蹴られている」みたいに受身形にしてガ格をすえるとまるで自動詞みたいな使い方ができます。他人が蹴っているので自分の意志とは関係ないということで、これが受身形の自動詞的な使い方です。
また、「雨が降る」の「降る」は自動詞です。雨は人の力ではどうしようもない、人の意志とは関係ない自然現象だからです。でも「雨を降らせた」みたいに、まるで人が意志的に「降る」という動作を実現させたかのような言い方もあります。これは意志的な動作である雨乞いを通じて「降る」という事態を実現させたとも考えられるし、人工降雨装置のような技術でいつでも実現できるようになったとも考えられます。「降る」に対応する他動詞はもともと無いんですが、ここでも使役形を使って他動詞的な使い方をしています。
このように、対応する自他動詞が存在しないものは受身形や使役形がその代わりになって、しっかり表現を補完できるようになっています。
選択肢2
自動詞は目的語を取らない動詞のことで、意志を持って行われた動作ではなく、自然発生した現象や状態の変化を表します。飛ぶ、降りる、上がる、登るのようなヲ格を取る移動動詞も自動詞に分類されます。
ヲ格を取らない「降る」「開く」などは非意志的ですが、「飛ぶ」「降りる」などのヲ格を取る自動詞は意志的です。
自動詞には意志的なものもあるし、非意志的なものもありますのでこの選択肢は正しいです。
選択肢3
「開く-開ける」のように、お互いに対応する自動詞と他動詞がある動詞の組み合わせのことを有対動詞と言い、そのうち他動詞のほうを有対他動詞、自動詞のほうを有対自動詞と呼びます。有対自動詞をいくつか挙げると、「増える、見つかる、戻る、届く、湧く、壊れる、消える、破れる、下がる、焼ける、変わる、割れる、無くなる、落ちる、決まる、始まる、出る、減る、つく、集まる、汚れる」などがあります。確かに主体の変化を表すものが多いです。
選択肢4
選択肢3で挙げたように、有対自動詞の語末が「-asu」になるものは私は見つけられませんでした。語末が「-asu」の形を取るのは「増やす」「沸かす」「減らす」などの有対他動詞に比較的多く見られます。
したがって答えは4です。
問4 文法カテゴリー
選択肢1
「読んでいれば」のように、レバ節はアスペクト形式の「ている」にも接続できます。
選択肢2
「ながら」は動詞のます形に接続します。能動態にのみ接続できますので、正しいです。
「食べたながら」とか「食べるところながら」とか、テンスやアスペクト形式に接続できません。ヴォイスだけです。
選択肢3
「読ませていただろう」では、「せ」がヴォイス、「てい」がアスペクト、「た」がテンス、「だろう」がモダリティです。これらは常にこの順で動詞に後続します。モダリティ形式がヴォイス形式に先行することはありません。
選択肢4
選択肢3と同じく、テンス形式はヴォイス形式に先行することはありません。
したがって答えは2です。
問5 主語と視点
選択肢1
「◯◯という友達がいた。彼はとても面白い人だった。」では、「◯◯という友達」が前の文の主語で、「彼」が後ろの文の主語です。
友達の存在を提示するのは新情報ですから、ここでは「が」が使われてます。一度提示した情報は旧情報になるので、後ろの文では「は」が使われています。
旧情報でも主語になれますので、この選択肢は間違い。
選択肢2
「積もった雪が事故を誘発した」などと、主語「積もった雪」が無生物で事態を引き起こす原因を表すこともできますが、「事故は積もった雪によって起きた」と言い換えることもできます。無生物の名詞が事態を引き起こす原因となる場合でも複数の言い方が存在し、それが必ず主語になるとは限りません。
選択肢3
話し手にとって迷惑である場合、「彼女に日記を見られた」などと受身文で話し手の視点から述べられることが多いと思います。
選択肢4
例えば、自分の弟が弟のクラスメートからいじめられているという状況では「私の弟はクラスメートからいじめられている」と言い、最も身近な弟に視点が置かれやすいです。しかしいじめた側の両親から見ると、「私の子供は◯◯をいじめた」と言うことが多いはずです。これはいじめた側の両親にとって最も身近なのが自分の子供だからです。
したがって答えは4です。
ディスカッション
コメント一覧
問4の「ながら」はマス形になるのは理解できたのですが、それがヴォイスとどう関係あるのかが理解できませんでした…。
ヴォイスは読まれる・読ませる・読めるという形態が変化しますよね?
「本を読ませながら~」と変化するということでしょうか?
>ジンミさん
ヴォイス形式とは、動詞の活用によって文全体の格関係が変わる文法形式のことです。おっしゃる通り、読まれる・読ませる・読めるなどはヴォイスと深い関係があります。
例えば受動態「私は先生に叱られた」に対する能動態は「先生は私を叱った」です。この能動態もヴォイス形式に含まれます。
「ながら」は必ず動詞のマス形にしか接続しない文法です。動詞のマス形、例えば「読み(能動態)」「読ませ(使役態)」「読まれ(受動態)」などは、動作の時系列(アスペクト)を表しているわけでもなく、時制(テンス)を表しているわけでもありません。つまりヴォイス形式です。
なのでナガラ節にはヴォイス形式のみ接続できるということになっています。
管理人様
いつもサイトの解説を読ませていただいています。独学で試験対策をしていますので、大変勉強になります。ありがとうございます。
今年こそは合格したいと思っております…。
どうぞ、お体には気をつけてください。これからもよろしくお願いします。
>高橋さん
解説にも誤字や間違いがあるかもしれませんので、お気づきの点、または何か疑問点ありましたらコメントください!
問2の間接受身について質問させてください。
対応する能動文の有無について、表で説明されていますが、
「若者から席を譲られた」の能動文が「若者は(私に)席を譲った」であるのに対し、
「花子に先に就職された」は能動文が「-(無し)」という解説になっています。
なぜ、「花子に先に就職された」の能動文が「花子は(私よりも)先に就職した」にならないのでしょうか?
「(私は)若者から席を譲られた」⇒「若者は(私に)席を譲った」(〇)
「(私は)花子に先に就職された」⇒「花子は(私よりも)先に就職した」(×)
この違いが判りません。解説をよろしくお願いいたします。
>ヒロシさん
コメントありがとうございます。お答えします!
「花子に先に就職された」の動作の受け手は「私」ですので、実は「(私は)花子に先に就職された」という具合に「私は」が省略されています。
これを能動文に直そうとすると、「花子は先に就職した」の中に「私」を組み込むことができません。ですから対応する能動文がない間接受身文に分類されます。
ご指摘の文は「花子は(私より)先に就職した」ですが、ヨリ格を使って無理やり組み込むのは反則です。
他動詞「就職する」はその動作の対象、動作の受身にヲ格やニ格を取ります。この場合「A会社に就職する」のようなニ格です。
ですから能動文を作るときは「私を」か「私に」を文のどこかに挿入する必要があります。これが「私より」がダメな理由です。
こうして無理やり能動文を作るのはよくある間違いですのでご注意ください!
能動文の作り方については「日本語の受身文、受動文の種類について(http://nihongonosensei.net/?p=10091)」に詳しくまとめています。このヨリ格のことについても書かれているので、ぜひ参考にしてください。
早々に、ご解説をいただきありがとうございました
先生へ
いつもありがとうございます。
問4 1時間もかかってもこの問題解けなかったです。本を読みながらが能動文!って思いつきませんでした。
文法の基本的なところが分かりません。
レバ節 ながら節とか他にも〜節とかあるのでしょうか?まず、レバ節とは、副詞節の条件節の中の〜レバがつくものを言うのでしょうか。
また、付帯状況のながら節とは、副詞節の様態節のことでしょうか。
試験Ⅲ問題1から3は、ほんとに心折れます。捨てると他でも点取れそうにないし、苦しいです。
>塩饅頭さん
従属節には副詞節というものがありまして、その下位分類に条件節があります。条件節の中に「レバ節」があります…
副詞節の下位分類に様態節があり、様態節の更に下位分類に付帯状況節があります。付帯状況節の代表的なものが「~ながら」「~つつ」で、それぞれナガラ節、ツツ節と呼ばれたりします!
従属節の分類はすごく複雑です。
高橋先生
いつもありがとうございます。
受身の泥沼にはまっております。
問2 「夫が知人に批判されて、悲しかった。」
を、能動文にすると「知人は夫を批判した」になりますが、「私」はどこにどう入りますか。
この文を読んだとき、このシチュエーションは何か集まりがあって、そこで知人が私の夫のことを批判した様を思い浮かべました。
でも、そうではなくて私に夫の批判をした、という解釈になるのでしょうか。
でもそうなると、能動文は「知人は私に夫の批判をした」となり、他動詞文にならなくなります。
昨日よりずーっとここから先に進めないでいます…
>きぼちゃんさん
こんにちは!
こんにちは! 毎日のんびり日本語教師の高橋です。お答えします。
受身の文には、動作をする人と、その動作を受ける人、二人がいないといけません。
「夫が知人に批判された」は、動作する人「知人」、動作を受ける人「夫」の二人が既に登場しています。この文に省略されているものはありませんから「私」を補完する必要はないんです。
ですからそのまま能動文に変換しました。
選択肢1「先生に掃除を頼まれた」は、頼むという動作主が「先生」ですが、誰に頼んだか書かれていません。ですから解説で「私」を補完しています。
無いものを補完するというのは重要なことですが、省略されているものが無ければそのままにして大丈夫です。
高橋先生
お忙しい中、お答えいただき感激です。
昨年、あと数点足りず検定不合格でした。
今年2回目の挑戦ですが、殆ど忘れてしまい自分のアホさ加減にへこたれそうです。(へこたれって方言ですかね)(≧∇≦)
文法は正解がないような、そんな気さえして来ました( ´Д`)y
つい楽な方へ気持ちが動き、目標を見失いがちですが頑張りたいと思います。
今後もよろしくお願い致します!
試験対策に、いつも活用させていただいております。ありがとうございます。
問四についてなのですが、「~ながら」はヴォイスしか接続できないとのことなのですが、
「本を読みかけながら、寝てしまった。」という文を考えたときに、「〜かけ」というのはアスペクトであると考えることはできないのでしょうか?それともこれは不自然な文なのか・・はたまた私のアスペクトの認識が誤っているのか、付帯状況の「~ながら」の認識が間違っているのか・・・
どうか教えていただきたいです!お願いいたします。
>かいおさん
コメントありがとうございます。
動作の途中の「~かけ」はアスペクト表現です。なのでおっしゃる通り「読みかけながら、寝てしまった」が成立する文なのかが争点になりそうです。
私はこの「ながら」は付帯状況よりも逆接に聞こえてしまって少し変な感じがしていますが、同時に他の方のご意見も伺いたいと思いました。
仮に文として成立するなら選択肢2はくつがえりますね。
ご返信感謝いたします。
そして何度も申し訳ありません、当方でコーパスやグーグルでもアスペクト+ながらを検索して見たのですが、結構ヒットしました。
たとえば、「…たるに腰を下ろして、パイプにたばこをつめはじめながら仲間に言った。」や
「…暗い顔になりはじめながら」などもヒットしました。
>かいおさん
そうですね!「書き始めながら」を検索してみると15000程度のヒットでした。
少ないは少ないですが使われていないとはいえなさそうですね。
ただ疑問は、「~ながら」は付帯状況なので前後の動作に時間的な幅がある必要がありそうです。
「書き始める」は「書く」という動作の開始局面を取り上げるアスペクト表現なので、「書き始める」という動作局面自体に動作の時間的な幅があまり感じられません。「書き始め」は一瞬の出来事だからだと思います。用例はありますが、もしかしたら文法に反する接続ではないでしょうか。
すいません、こちらは私の意見です。しかし有益なコメントをいただきまして感謝いたします。
解説のほうに「書き始めながら」の存在を書いておきたいと思います。
よく考えたらこの例文はおかしいかも・・・?
ほかには、「トピックが決まらないなら、書き始めながら考えをまとめていく。」とか。。。はどうでしょうか。