令和元年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ 問題9解説

問1 プロトタイプと非プロトタイプ

 まずプロトタイプ (prototype)って何かについて…。これ過去9年で初めて出た言葉なんです。

 プロトタイプとは、ある言語共同体で共有される意味構造の典型のことです。
 例えば「髪を切る」の「切る」は本来物を鋭利な物で切断することを表しますが、「水気を切る」は水気が無くなるように振ったり絞ったりすることを、「カードを切る」はカードを混ぜることを表します。同じ「切る」でも意味が変わっていたり、元々の意味を拡張して使っているようなものもあります。こういう基本動詞って多義性が高いんですよね。

 この時の最も典型的な用法である「髪を切る」の「切る」がプロトタイプです。それ以外の用法はその意味が構造上プロトタイプ的意味から離れているため、非プロトタイプと呼ばれます。以下は「切る」のプロトタイプとその語義の拡張の度合いを示したものです。0がプロトタイプ的な使い方で、数字が大きくなればなるほど意味がプロトタイプから離れた使い方です。

階層 用法 意味
髪を切る
封を切る 切開
胃を切る 切除
縁を切る 中断
風を切る 横断
敵を切る 殺傷
水気を切る 切捨
世相を切る 断罪
領収書を切る 発行
10 トランプを切る 混合
11 10秒を切る 減少
12 ハンドルを切る 断行

 引用元:『鐘慧盈 テコラス』-「きる」の意味構造がその習得に及ぼす影響

 「落とす」のプロトタイプ的な用法は「人が物が落下させる」です。

 1 洗浄
 2 喪失
 3 落下
 4 下落

 したがって答えは3です。
 この問題、面白いですね!

 

問2 メンタル・レキシコン(心的辞書)

 メンタル・レキシコン (Mental lexicon)とは、膨大な語彙とその一つ一つの語についての意味に加え、それらの語と語の関係性や運用規則など、言語化することができない豊富な暗黙の知識を包含する心の辞書のことです。

 1 正しいと思います。学習者が第二言語を習得する際には、母語とは独立した新しい言語体系を作り上げていくという創造的構築仮説に近い気がしますが関係あり?
 2 産出される表現が人によって異なるように、語がどのように格納されているかは人によって違うはずです。
 3 成人日本語母語話者の理解語彙は4.5万程度、使用語彙は1万~2万語程度と言われています。
 4 中間言語可変性が認められることから見ても、情報の改定はその都度行われるはずです。

 選択肢1は正しいことを証明する根拠が示せないんですが、他の選択肢は完全に違いますね。
 したがって答えは1です。

 

問3 コロケーション

 「このハンガーに服を付けてください」は、正しくは「服をかけてください」です。これはコロケーションを知らないことによる誤りです。

 例えば「辞書」。
 「辞書を見る」「辞書を使う」と言っても意味は分かりますけど、「辞書を引く」「辞書を調べる」って言ったほうが自然だと思いませんか?
 語と語には自然な組み合わせというのがあり、辞書について言えば「引く」や「調べる」がそれです。このような自然な組み合わせをコロケーションと呼んでいます。

 「服」は「かける」もの。このコロケーション(自然な組み合わせ)を知らないので「服を付けて」と言ってます。

 したがって答えは2です。

 

問4 キーワード法

 キーワード法とは、目標言語の覚えたい語と音韻的に類似した母語の言葉のイメージと結びつけ、その関連性によって語とその意味を記憶する方法のことです。

 以下の参考資料にある例を示します。

「刀(かたな)」を覚えるため、最初の一文字「か」と音が似てる「cat」をキーワードとして選ぶ。
次に、猫が刀を振っている様子をイメージする。
「刀」と「sword」と音声情報として結びつける。

 ちゃんと視覚化、イメージできれば、「刀」を見たり聞いたときにすぐ猫が思い出され、猫が刀を持ってる様子も思い出し、「sword」に結びつきます。
 なるほど面白い。

 したがって答えは1です。

 参考:https://eaje.eu/pdfdownload/pdfdownload.php?index=69-76&filename=koto-ogiso.pdf&p=bucharest

 

問5 新出語の扱い方

 認知的な負担に考慮した新出語の扱い方についての問題です。

 選択肢1
 正しいです。内容理解に重要で推測が難しい語を事前に指導しなければ、読解中の認知的負荷が大きくなります。推測できそうな語は特別指導する必要はありません。 

 選択肢2
 正しいです。内容理解に重要だが推測しやすい語は、別に推測しやすいんでほっときましょう。
 推測しやすいんであれば認知的負荷はそもそも低いです。 

 選択肢3
 正しいです。内容理解に重要でなく覚える必要もない語をわざわざ指導すると、認知的負荷は大きくなります。要らないことには混乱を避けるために触れない。そういう授業をしたほうがいいですね。

 選択肢4
 直後の読解に役立たない、重要でない語を指導する必要がありますか? とりあえず読解に使わないなら置いておきましょう。あれもこれもと教えるのは認知的負荷を高めるだけです。覚えるべき語はなにも今すぐというわけではなく、関連する授業で触れればいいです。今覚えないと死んでしまうくらいの緊急性があれば話は別ですが。

 したがって答えは4です。

 





2020年9月22日令和元年度, 日本語教育能力検定試験 解説