令和元年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ 問題3D解説
(16)認識的モダリティ
認識的モダリティの前に、まずモダリティについて知らないといけません。
モダリティ表現は、述語の後ろに形態素を付加することによって命題に対する認識や判断や聞き手に対する態度を表すものを指します。例えば、「彼はもう戻ってこないかもしれないね」の「かもしれない」は話し手の命題に対する主観的な判断が含まれてるのでモダリティ表現です。最後の「ね」も聞き手に対する態度を表してるのでモダリティ表現です。話者の気持ちが含まれているのがモダリティと覚えればいいと思います。
モダリティは大きく2つに分けられます。
対事的モダリティ | ~かもしれない、~だろう、~らしい、~みたい、~ようだ、~べきだ、~ことだ、~ものだ、~はずだ、~と思う、~に違いない、~に決まっている… |
---|---|
対人的モダリティ | よ、ね、よね、ぞ、っけ、かな、な… (終助詞) |
対事的モダリティは字のごとく、事態への主観的な判断を表すものです。
対人的モダリティは終助詞のことで、自分や相手(主に相手)に対する主観的な感情、態度が含まれているものです。
そして対事的モダリティは認識的モダリティと拘束的モダリティに分けられます。これらの定義はこの問題の文章中にあります。認識的モダリティは事態の真偽に対する判断に関わるもので、拘束的モダリティは主語に課せられた拘束または拘束からの免除を表すものです。以下に示すのは一部。
認識的モダリティ | 確信 | にちがいない、はずだ |
---|---|---|
推量 | だろう、まい | |
蓋然性判断 | かもしれない、にちがいない | |
証拠性判断 | らしい、ようだ、そうだ | |
当然性判断 | はずだ | |
伝聞 | そうだ | |
説明 | のだ、わけだ | |
拘束的モダリティ | 適当 | べきだ、ほうがいい、~ばいい |
義務/必要 | しなければならない、ざるをえない | |
許可 | してもいい、のだ | |
禁止 | してはいけない |
ここまで来てようやくこの問題が解けます。
1 「べきだ」は主語の行動を拘束する働きがあるので拘束的モダリティ
2 「のだ」は断定を表すモダリティ表現で、ここでは主語の行動を許可する働きがあるので拘束的モダリティ
3 「なさい」は命令形で主語の行動を拘束する働きがあるので拘束的モダリティ
4 「まい」は否定推量、否定意志などの意味がありますが、この用法は否定推量(~ないだろう)です。可能性に関する判断ですから認識的モダリティです。
したがって答えは4です。
(17)確信を表す認識的モダリティ
「彼は頭が良いに違いない」は、彼の言動、振る舞いなどから主観的かつ直感的に判断された結果を述べています。
「彼は頭が良いはずだ」は、彼の経歴などから客観的かつ論理的に判断された結果を述べています。
したがって答えは2です。
(18)モダリティに呼応する副詞
「述部の認識的モダリティに対して働く副詞」とありますので、下線部と述部にあるはずの認識的モダリティを見てみます。
選択肢1
述部には認識的モダリティ「だろう」があります。下線部「めったに」との関係を見ると…
「めったに」は後件に否定形が呼応して「めったに~ない」の形を取ります。「めったに」は述部の「ない」に対して働いているので、「だろう」とは関係ありません。
選択肢2
述部にある認識的モダリティ「らしい」に対して「どうやら」が呼応しています。
「どうやら~らしい」「どうやら~みたいだ」「どうやら~ようだ」など、この2つはよく呼応します。
選択肢3
終助詞「よね」は対人的モダリティですし、この文の述部には認識的モダリティがないので間違いだ! と思いますが、罠があります。
下線部「まさか」は「だろうか」「かもしれない」などの認識的モダリティが呼応することが多いです。この文ではたまたま述部にそれらが呼応しなかっただけ。つまり「まさか」は述部に対する働きかけを持っていると考えるのが自然です。
選択肢4
この文にも認識的モダリティはありませんが、「きっと」は後項に「はずだ」「に違いない」などの認識的モダリティが呼応することがあります。「きっと」は述部に対する働きかけを持っていますが、この例文ではたまたま働きが表に現れなかっただけです。
したがって答えは1です。
(19)拘束的モダリティ
選択肢1
拘束的モダリティは「~したほうがいい」などと聞き手への要求を表すこともできますし、「(私たちは)~すべきだ」のように話し手自身の行為の意向も表すことができます。
選択肢2
正しいです。「したほうがいい」「するほうがいい」のように、拘束的モダリティ「ほうがいい」の前がル形であろうとタ形であろうと意味は変わりません。ル形とタ形の対立が生じるのは、「したほうがいい」「したほうがよかった」と拘束的モダリティ自体がル形、タ形になった場合です。
選択肢3
「~したほうがいいらしい」のように、拘束的モダリティ「ほうがいい」の後に認識的モダリティ「らしい」が後続します。この選択肢は誤りです。
選択肢4
「私/あなた/彼は~しなければならない」のように、拘束的モダリティを用いる場合に人称制限はなさそう。
したがって答えは2です。
(20)必要と許可を表す拘束的モダリティ
1 | 不必要 | 適当 |
---|---|---|
2 | 不必要 | 許可 |
3 | 必要 | 適当 |
4 | 必要 | 許可 |
「なくてはいけない」は必要、「てもいい」は許可を表します。文章中のウ、エに入れるものとして適当です。
したがって答えは4です。
ディスカッション
コメント一覧
問題3-D-(19)について質問させてください。この例で、私は「拘束的モダリティ」=「ほうが良い」と理解しており、「モダリティ形式の前のル形とタ形のテンスの対立を持たない(ル形・タ形、どちらでも時制は変わらない)」という選択肢が正しいことは理解しました。一方で、先生の解説文の後半では「拘束的モダリティ自体のル形・タ形が異なると対立が生じる」とあります。私は、前に述べたように「拘束的モダリティ=ほうが良い」と理解しているので「拘束的モダリティ自体の異なり(ル形・タ形)」という意味が分かりません(拘束的モダリティは「ほうが良い」なので「拘束的モダリティ自体のタ形・ル形」とは何か?が分からない)。ちなみに私は「拘束的モダリティの前の語形(ル形・タ形)が変わったことによる影響は、モダリティ形式の前ではなく、モダリティ形式の後方で生じる(するほうが良い・した方がよかった)」と理解しているのですが、いかがでしょうか? いつも回りくどい文章の質問ですみません。